182話 負の連鎖
翌日。
みんなで、ブルーアイランドの冒険者ギルドへ向かう。
魔剣のことを話しておくためだ。
魔剣については根拠がない。
バラまかれているというのも、今のところ、ただの推測だ。
ただ、その推測が当たっていたら?
その場合は大変なことになる。
気がついたら手遅れ、ということもありえる。
だから、今のうちに話をしておくことにした。
魔剣が流通しているという証拠はないのだけど、でも、剣聖の言葉ならある程度は耳を傾けてくれるだろう。
「あ、スティアートさん!」
「こんにちは、ファーナさん」
今日も忙しそうにしていたファーナさんだけど、僕に気がつくと、にっこりと笑い駆け寄ってきた。
ちょっとスノウに似ているような気がする。
「おっす」
「リコリスさんも、こんにちは。えっと……?」
ファーナさんの視線がソフィア達に向いた。
「はじめまして。私は、ソフィア・アスカルトです」
「アイシャ……です」
「オンッ!」
それぞれ順番に挨拶をする。
今さらだけど、スノウも中に入れてよかったのかな?
動物禁止とか、そういうルールがあったりしないかな?
そんな不安を抱くのだけど、特になにも言われないので問題ないのだろう。
それよりも、ファーナさんの興味はソフィアにあるようだった。
「アスカルト……それじゃあ、もしかしてあなたが剣聖なんですか?」
「はい」
「あぁ、良かった。スティアートさん、ありがとうございます」
僕がソフィアを連れてきたと思っているみたいだ。
似たようなものだけど、でも、そこまで感謝しなくても、とは思う。
「ぜひ、ギルドマスターがお話をしたいと……今、お時間よろしいでしょうか?」
「それは構いませんが、私だけですか?」
「いえ。もちろん、スティアートさんとリコリスさんも一緒に! ただ、アイシャちゃんとワンちゃんは……」
ファーナさんは、少し困った顔に。
アイシャ達を邪魔者扱いしているわけじゃなくて、子供に聞かせる話ではないと思っているのだろう。
「リコリス、アイシャとスノウを見ていてくれるかな?」
「えー、なんであたしがそんなことしないといけないの。ハイパーミラクル妖精リコリスちゃんは、雑用係じゃないんですけどー」
「おいしいクッキーとジュースを出してもらうようにお願いするから」
「あたしに任せなさい!」
リコリスは、いつでもどんな時でもリコリスだった。
その後、僕とソフィアは、二階にあるギルドマスターの部屋へ。
中はそこそこ広く、来客用のスペースも完備されていた。
「すみません、おまたせいたしました」
五分ほど待ったところで、スーツ姿の女性が現れた。
メガネをかけていることもあり、とても知的な印象だ。
「私が、ブルーアイランドのギルドマスター、シェリーナです」
「あ……フェイト・スティアートです」
「ソフィア・アスカルトです」
「名前で呼んでも?」
「はい」
「では……フェイトさん、ソフィアさん。よろしくお願いします」
握手を交わす。
少し驚いた。
冒険者をまとめる存在だから、男性を想像していたのだけど、まさか女性だったなんて。
しかも、知的な感じで、武に特化している感じはしない。
「……フェイト、あまりじろじろと見ては失礼ですよ」
ソフィアに小声で注意されてしまう。
「……まさか、シェリーナさんに見惚れたとか」
「……な、ないから」
「……ソウデスカ」
しまった、ソフィアがあらぬ誤解を。
頬を膨らませて、子供のように拗ねてしまう。
後で謝っておかないと。
「わざわざ足を運んでいただき、感謝します」
「いえ、なんてことはありません。それよりもフェイトから聞いたのですが、今、ブルーアイランドでは事件が多発していると?」
「はい。数日前から急激な増加傾向にあり、騎士団からの応援要請が回ってくるほどです」
「そんなに人手が足りなくなるくらい、事件が起きているんだ……」
これ……もしかしたら、事態は考えている以上に深刻なのかもしれない。
騎士団は秩序を司り、冒険者は街の人々に寄り添う。
互いにプライドを持ち、己の領域に踏み込まれることを嫌う。
有事の際はそうも言っていられないため、互いに協力をするのだけど……
今がその非常事態に当たるのだろうか?
それくらいの規模の事件に発展しつつあるのだろうか?
「お二人の活動拠点がブルーアイランドでないことは承知しています。その上で、どうか力を貸してくれないでしょうか?」
「はい、それはもちろん」
「よかった……では、さっそくで申しわけないのですが、力を貸していただきたく」
「あ、待ってください。その前に、話しておきたいことがあります」
「話しておきたいこと、ですか?」
「はい。実は……」
ソフィアが魔剣の話を切り出そうとした時、
「た、大変です! 浜辺で多数の暴徒が出ました!」
顔を青くしたファーナさんが、そんな報告をしてきた。




