180話 神獣
「ところで……」
ライラの視線がアイシャの後ろに向けられた。
「……」
スノウが礼儀正しくおすわりをして、じっと待機していた。
話の途中、鳴くこともない。
拾ったばかりとは思えないくらい、しっかりとした犬だった。
「その子は? この前は見ませんでしたけど……」
「アイシャちゃんが拾ってきて、そのまま飼うことになったんですよ」
「なるほど。それにしても、うーん」
ライラの興味がスノウに移ったらしく、前に移動して、じっと覗き込む。
「オフゥ……?」
目の前に接近されたせいで、さすがのスノウも戸惑い気味に鳴いた。
でも、暴れるということはない。
ライラを噛んで撃退する、ということもない。
あくまでも礼儀正しく、おとなしくしていた。
立派だ。
「よしよし」
スノウが誇らしいという様子で、アイシャがなでなでした。
スノウはおすわりを続けたままではあるが、とてもうれしそうに尻尾を横にぶんぶんと振る。
それに合わせるかのように、アイシャも尻尾を振る。
尻尾の二重奏だ。
「スノウがどうかしましたか?」
「スノウちゃんっていうんですか、この子……うーん」
ライラはスノウの顔を触ったり、体に触れたり、あちらこちらを調べる。
スノウは迷惑そうにしていたものの、それでもじっとしていた。
主の知人で……
それと、悪意がないと判断したため、されるがままになっているようだ。
「この瞳、この毛……見たことがない犬種だね」
「ライラさんも知らないのですか?」
「知らないなー。獣人研究家なんてものをやってるから、犬とかにもそこそこ詳しいんだけど、でも、見たことがないかも」
「そうですか……謎ですね」
ソフィアは困ったような顔に。
今更、スノウのアイシャに対する親愛を疑うつもりはない。
ただ、どんな犬種でどんな性質を持つのか?
それを知ることができれば、今後、なにかあった時に対応しやすくなる。
なので、ライラがスノウに興味を持った時、犬種を知ることができるのでは? と期待したのだけど……
そうそううまくいかないらしい。
「なんだろ? ホントに謎だなあ……この子、一週間くらい借りてもいい?」
「だ、だめ!」
ソフィアではなくて、アイシャがダメ出しをした。
スノウをぎゅうっと両手で抱きしめて、涙目でライラを睨む。
「うー……!」
「あ、あはは。ごめんごめん、冗談だから。そんなことはしないわ」
「……ホント?」
「ほんとほんと。ごめんね、変なこと言って」
「あんたが言うと、本気にしか聞こえないのよねー。まったく、人騒がせね。迷惑をかけたらダメなのよ?」
「それ、リコリスが言いますか……?」
そんな軽い騒動があり……
それぞれが席について、話を仕切り直す。
「そのワンちゃん、もしかしたら神獣様の末裔かもしれないわね」
「神獣?」
「使徒や巫女と同じようなもの。女神さまの従僕で、その動物バージョン」
「そのような存在がいたのですか?」
「裏付けはとれてなくて、仮説なんだけどね。でも、私はいると確信しているわ。確かな証拠はないんだけど、でも、それに近いものはたくさん発見しているもの」
「……その神獣について、教えてくれませんか?」
もしもスノウが神獣だとしたら?
その末裔だとしたら?
正体を知るきっかけになるかもしれない。
スノウのことは信頼しているが、ただ、なにか起きた時のために色々と知っておいた方がいいことは事実。
なので、ソフィアは質問を追加してみることにした。
ただ、ライラは渋い顔になる。
「んー、教えたいのはやまやまなんだけど、私もよく知らないんだよねー」
「そうなんですか?」
「巫女に関する資料は残ってても、なんでか、神獣に関する資料はほとんどないんだ。まったく別の他の資料をたくさんつなぎ合わせて、神獣という存在がいた、という推論を立てているの」
「妙な話ですね……」
もしも神獣が存在したのなら、隠蔽することは難しいだろう。
大きな力を持つ者は、なにかしらの形で後世に伝えられるものだ。
それが一切なされていないということ、どういうことか?
神獣は存在していないか……
あるいは、思いつかないような理由が隠されているのか。
「私の推理で、裏付けはないんだけど……神獣は、人を守ることを使命としていたんじゃないかな? 女神さまと同じようにね。そして、人は何度も神獣に救われたことがあると思う。色々な文献を見て、情報をつなぎ合わせると、そういう結論に至るんだ」
「ということは……スノウは、いい子なのでしょうか?」
「スノウ、いい子」
ソフィアの言葉を肯定して、アイシャがスノウを撫でる。
スノウはうれしそうに鳴いて、アイシャに顔を寄せた。
「ま、わからないことはたくさんだけど……でも、問題ないんじゃないかな?」
「そうですね」
楽しそうに嬉しそうに、アイシャとスノウがじゃれ合う。
そんな二人を見て、自然と笑みをこぼすソフィアだった。




