161話 女の戦い
振り返るとソフィアが。
ゴゴゴゴゴ……というような音が聞こえてきそうな顔をして、レナを睨みつけている。
「あ、剣聖も一緒だったんだ。ちぇ、つまらないなー」
「なにをしているのですか、と聞いているのですが?」
「ボクのフェイトをナンパしているんだよん」
「ボクの……?」
ソフィアのこめかみがヒクヒクと動く。
同時にすさまじい怒気……いや、殺気が放たれる。
相当なプレッシャーだ。
近くを歩いて巻き込まれた人が腰を抜かしたりしているのだけど、レナはなんのその。
涼しい顔をして、なんてことない様子で立っていた。
「フェイトはあなたのものではありません、私のものです」
「そんなこと、いつ決められたのさ? フェイトはボクのものだよ」
「いいえ、私のものです!」
「ボクのもの!」
えっと……
僕は誰のものでもないんだけど。
そうツッコミを入れたいものの、二人が散らす火花と圧がすごくて口を挟むことができない。
「フェイトは私のものです!」
「うわっ」
ソフィアが僕の右腕に抱きついてきた。
水着姿でそんなことをするものだから、柔らかい感触がダイレクトに……
「ううん、ボクのものだからね!」
「ええっ」
レナも反対側に抱きついてきた。
ソフィアほどじゃないけど、でも、ふわっとした感触が……
って、僕はなにを考えているんだ!?
「フェイトは、私と一緒にいたいですよね!?」
「ボクと一緒がいいよね!?」
「え、えっと……」
二人が左右からグイッと詰め寄ってきた。
いや、だから……
そんなに抱きつかないで。
その、色々と当たって……
どうしていいか、すごく困る。
「えっと……と、とりあえず落ち着いて? まずは深呼吸を……」
「落ち着いてなんていられません!」
「落ち着いてなんかいられないよ!」
二人は、本当は仲が良いんじゃないかな?
そんなことを思うくらい、息がぴったりだ。
「フェイトから離れなさい!」
「いたたた!?」
ソフィアがおもいきり僕の腕を引っ張る。
「そっちこそ離れてよ!」
「いててて!?」
レナもおもいきり僕の腕を引っ張る。
痛い痛い痛い!?
グイグイと左右に引っ張られて、体が二つに裂けてしまいそうだ。
「ちょ……そ、ソフィア? レナも……は、離してくれないと体が……」
「言われていますよ!?」
「キミの方だよ!」
「いたたたたた!!!?」
さらに強く引っ張られて、体が悲鳴をあげる。
このままだと、冗談抜きで裂けてしまいそうだ。
「り、リコリス……アイシャ……!」
少し離れたところで様子を見ていた二人を見つけて、助けを求める。
「おとーさんが大変なことに……」
「大丈夫よ、アイシャ」
「ふえ?」
「あれは、世の男連中がうらやましがる、ラブコメ的修羅場、っていうやつね。大変そうに見えて、実は喜んでいるのよ」
「そうなの?」
「そうよ。ほら、ソフィアとレナとかいう女に抱きつかれているでしょ? 男は、ああやって抱きつかれると喜ぶものなのよ」
「……」
リコリスのでたらめのせいで、アイシャの視線が痛いものに!?
「巻き込まれたくないし、あたしらは向こうで遊んでましょ」
「ん」
「ま、待って……! これ、本当に大変で……いたたた!?」
「フェイトは私のものです!!!」
「フェイトはボクのものだよ!!!」
僕の悲鳴と、二人の声が砂浜に響いたとかなんとか。
――――――――――
夜。
宿へ戻り、部屋でくつろぐのだけど……
「うぅ……まだちょっと痛いかも」
「ごめんなさい、フェイト……」
昼間の騒ぎのせいで、僕はベッドにつっぷしていた。
妙な感じで負荷がかかったらしく、筋肉痛のような感じで体を動かすと痛みが走る。
その原因であるソフィアは、しゅんとした様子で肩を落としていた。
そんな姿を見ていると、なにも言えなくなってしまう。
「ううん、僕は気にしていないから」
「本当にすみません……」
「僕も、態度をハッキリさせておくべきだったというか……レナに対して、もっと強く出ておくべきだったと思うから」
女の子にあんなことを言われるなんて初めてなので、ついつい動揺してしまったのだけど……
ハッキリと断っておくべきだった。
それができていないから、ソフィアが怒ったとしても仕方ないと思う。
「でも、僕が好きなのはソフィアだけだから……それだけは覚えておいてほしいな」
「フェイト……はい。私も、フェイトのことが大好きですよ」
笑顔を交換して、
「アイシャ、あれがバカップルよ」
「おー」
互いに顔を赤くした。
「ところでさー」
何気ない様子でリコリスが言う。
「レナって、黎明の同盟とかいうやばいヤツなんでしょ? なんで、この街にいたのかしら? というか、捕まえなくてよかったの?」
「「……あ」」
とても大事なことを忘れていて、僕とソフィアは揃って頭を抱えるのだった。
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