160話 思わぬ再会
「どうでしょうか、フェイト?」
「うん、その調子だよ。さすがソフィアだね、もうほとんど泳げているよ」
アイシャと一緒に泳ぐ練習をすること一時間ほど。
ソフィアは、ほぼほぼ一人で泳げるようになっていた。
今まで剣一筋で泳ぐ機会がなかっただけらしい。
一度コツを掴めばあっという間だった。
「ふふ、泳ぐのは楽しいですね」
「現金ねー、少し前まではしゅんとしてたくせに」
「泳げるもの勝ちです!」
「あはは」
元気になったみたいでなにより。
「おかーさん。一緒に泳ごう?」
「はい、泳ぎましょう」
「あたしが監督してあげるわ」
女性陣はとても楽しそうだ。
でも、ずっと練習をしていたから、そろそろ疲れてくるだろう。
「僕はなにか飲み物を買ってくるね。みんなはなにがいい?」
「ありがとうございます。私はアイスティーでお願いします」
「ジュースが……いいな」
「あたし、はちみつレモンジュース!」
「うん、了解」
海から上がり、売店に向かう。
僕はなににしようかな?
甘いジュースでもいいんだけど、ソフィアと同じで、冷たい紅茶でスッキリしたい気持ちもある。
どうしようかな? と考えつつ歩いていると、
「ね、いいじゃん。きっと楽しいからさ」
「そうそう、一人で遊ぶよりも俺らと一緒の方がいいよ?」
「だーかーらー、そういうのはいいんだって!」
二人の男性がナンパをしている場面に遭遇した。
男性の影に隠れているせいで女性の顔は見えないけど、声からしてとても迷惑そうにしているようだ。
こういうことは見過ごせない。
「ちょっといいですか?」
「あ?」
「その人は僕と一緒に……遊びに、来て……」
「あ! フェイトだ、やっほー♪」
ナンパされていたのはレナだった。
予想外すぎる展開に思考が停止してしまう。
ついでに体も硬直してしまう。
「なんだよ、男連れかよ」
「他行こうぜ」
幸いというべきか、ナンパ男達はすぐに諦めてどこかへ消えた。
でも、なんというか……
絡んででも良かったから、残ってほしかったというのが本音だ。
レナと二人きりになるなんて。
「ひさしぶり、って言うほどでもないかな? でもでも、また会えてうれしいな」
「えっと……うん、ひさしぶりだね」
レナは屈託のない笑みを浮かべていた。
とてもじゃないけれど、敵対しているとは思えない態度だ。
そんな彼女は、けっこう大胆な水着を着ていた。
見えてはいけないところが見えてしまいそうというか……
こぼれてしまいそうというか……
レナの性格が現れているような水着だ。
こんな格好をしていたら、ナンパをされても文句は言えないだろう。
「ねえねえねえ、こんなところで再会するなんて運命だと思わない? というか、運命だよね! うん、フェイトはボクと付き合うこと決定だね」
「えっ!? な、なんでそうなるの?」
「フェイトは運命を感じない?」
「あまり……というか、これはレナが狙ってやったことじゃないの?」
この再会を偶然と言うのには、あまりにもできすぎているような気がした。
レナは見た目通りの元気な女の子というわけじゃなくて……
実は、とんでもない力を持っていて……
裏であれこれと仕組み、偶然の再会を装うことくらいはやりそうだ。
僕がジト目を向けると、レナはぱたぱたと手を横に振り否定する。
「いやいやいや、本当に偶然だよ? フェイトとはまた会いたいなー、とは思ってたけど、その前にやらないといけないことがあるからね。ボク、それなりに立場は上なんだけど、それでも好き勝手ばかりしてたら周囲に示しがつかないからねー。上にいると、それはそれで面倒なんだよ」
「はあ……」
「だから、今回のことは本当に予想外。なにも仕組んでなんていないよ?」
信じて、というような感じで、レナはじっとこちらを見つめてきた。
その瞳はとても純粋で……
ふと疑問に思う。
彼女は、良くも悪くも自分の欲望に正直なのだろう。
だから、やりたいことをやる。
その価値観を変えることができたら……
もしかしたら、レナを黎明の同盟から脱退させることができるのかな?
色々とやらかしているんだけど……
でも、憎みきれないんだよなあ。
「ねえねえ、フェイト。ボクの水着姿、どうかな? かわいい? セクシー? 手を出したくなる?」
「似合っていると思うけど……」
「えへへ、ありがと」
「ど、どういたしまして?」
「じゃあ、行こうか!」
ぐいっと、手を引っ張られる。
「え、どこに?」
「宿」
「なんで?」
「再会を記念して、えっちなことしよう?」
「ごほっ!?」
気軽にとんでもないことを言われてしまい、おもいきりむせてしまう。
「しないよ!?」
「えっちなこと、したくないの? 興味ないの?」
「な、ないことはないけど……で、でもそういうことは気軽にするようなことじゃ……」
「気軽にしないよ? ボクはフェイトのこと好きだから、したいって思うんだよ?」
「え、えっと……」
「いや?」
レナがそっと顔を近づけてきて……
「……なにをしているのですか?」
ふと、ソフィアの声が響いた。
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