159話 実は……
「うん、そうそう。その調子」
「んっ!」
僕の手に掴まり、アイシャはバシャバシャと水を蹴る。
それと同時に水に顔をつけて、息継ぎの練習。
最初はぎこちなくて、目を離せなかったんだけど……
でも、アイシャはみるみるうちに成長した。
たぶん、あと三十分も練習すれば泳げるようになるんじゃないかな?
「アイシャはすごいね」
「わたし、すごい?」
「こんなに早く泳げるようになるなんて、すごいよ。運動神経が良いのかな? それとも、泳ぎの才能があるのかも」
「えへへ」
アイシャはうれしそうに笑う。
そして、今まで以上に足をバタバタとさせて、泳ぎの練習に励む。
「……」
ふと、ソフィアがとても微妙な顔をしているのに気がついた。
アイシャを見て、それから自分を見て……再びアイシャを見る。
なぜか気まずそうだ。
アイシャの泳ぎが上達して、うれしくないのかな?
「ソフィア」
「……」
「ソフィア?」
「え? な、なんですか?」
「なにか悩みごと? 難しい顔をしているけど」
「そ、そんなことはありませんよ。ええ、そんなことはありませんとも!」
必死に否定するところが逆に怪しい。
ソフィアはなにを隠しているんだろう?
「謎あるところに、あたしあり! 名探偵リコリスちゃん、華麗に可憐にかわいく参上!」
どこからともなくリコリスが現れた。
リコリスなので、もう驚くことはない。
「謎って、どういうこと?」
「ソフィアが隠している謎よ」
「っ!?」
本当に謎を隠しているらしく、ソフィアが図星を突かれたという様子でビクリと震えた。
「迷探偵リコリスちゃんには全てお見通しよ!」
今、字がおかしかったような……?
「妙な意地を張ってないで、素直に打ち明けなさいよ」
「うぅ……で、ですが、フェイトにどう思われるか」
「気にしない気にしない。むしろ、女の子はいくらか弱点があった方がかわいく見えるんだから」
リコリスは弱点だらけだよね。
と思ったものの、口にはしないでおいた。
「ほら」
「えっと……」
リコリスに背中を押され、ソフィアが僕の前に。
一度、アイシャの泳ぎの練習は中断して、彼女の話に耳を傾ける。
「フェイト、その、私は実は……」
「うん」
「お……泳げないんです!!!」
とても恥ずかしそうにしつつ、ソフィアは大きな声で叫んだ。
「そう、なの……?」
「……はい……」
ちょっと意外だった。
ソフィアは、なんでもできるようなイメージがあったから。
「すみません、黙っていて……ですが、フェイトやアイシャちゃんの手前、なかなか言い出すことができなくて。うぅ……私の見栄です。笑ってくれていいですよ、さあ、笑ってください!」
「そ、そんなことしないから」
リコリスが言うように、泳げないというのなら、それはそれでかわいらしい弱点のような気がした。
隠されていたとしても、別に気にするようなことじゃない。
それに……
「なら、ソフィアも僕が教えようか?」
「い、いいのですか?」
「もちろん」
ソフィアの力になれることを見つけられて、それが素直にうれしい。
「えっと……」
恐る恐るという感じで、ソフィアがアイシャを見た。
娘に呆れられていないか不安だったのだろう。
でも現実は……
「おかーさん、泳げないの?」
「……はい」
「なら、一緒に練習しよう?」
「え?」
「わたし、おかーさんと一緒でうれしい」
「……アイシャちゃん……」
ソフィアは感極まった様子で、
「アイシャちゃん!」
「ふぎゅ」
おもいきりアイシャを抱きしめた。
「うぅ、そんなうれしいことを言ってくれるなんて。やっぱり、アイシャちゃんは自慢の娘です。かわいいだけじゃなくて、すごく優しいです! 最高です!」
「えへへ」
ちょっと苦しそうにしつつも、アイシャはうれしそうだった。
そんな二人を見ていると、ほっこりとした気持ちになる。
「いい、フェイト」
「え?」
「あの二人のように、変な隠し事はしない方がいいわ。素直に心にあるものを伝えるの。それが夫婦円満のコツよ!」
「ま、まだ夫婦じゃないんだけど……」
ソフィアのことは好きだ。
彼女からの好意も感じる。
でも、僕はまだまだ未熟。
彼女の隣に立つにふさわしい存在にならないといけない。
それはいつになるのか?
先は見えず、少し焦りを覚えていたのだけど……
この気持ちも、ちゃんとソフィアに打ち明けた方がいいのかな?
そうすれば、今よりも、もっと……
「……ところで、リコリス」
「なに?」
「そう語るっていうことは、リコリスは彼氏や夫がいたことあるの?」
「さあ、海よ! 夏よ! おもいきり遊ぶわよ、ひゃっはー!!!」
わかりやすくごまかすリコリスだった。
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