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158話 かわいい

 体をまっすぐにして、水をかいて水を蹴る。

 前へ、前へ。

 ひたすらに前に。


 そして……


「ふぅ」


 しばらく泳いだところで、僕は砂浜に戻る。

 海から上がり、新鮮な空気をいっぱいに取り込んだ。


「おつかれさまです、フェイト」

「おとーさん、おつかれさま」


 ソフィアとアイシャが出迎えてくれた。

 僕の泳いているところを見たいと、二人は砂浜で見学をしていたのだ。


 リコリスはマイペースにどこかで遊んでいるのだと思う。


「フェイトは泳ぎが上手なのですね」

「うん、それなりに得意だと思うよ。荷物を背負わされて川を渡ったり……あと、水底に沈んでいるお宝を手に入れるため、十分以上、潜水をしたことがあるから。自然と鍛えられたんだ」

「それ、笑えないのですが……」

「あはは」


 確かに辛い思いでなのだけど……

 でも、その経験があるから、今こうして自由に泳ぐことができる。


 過去は過去。

 囚われることのないようにして、それを糧として前に歩いていかないとダメだよね。


「ソフィアとアイシャは泳がないの?」

「私は、こうしてのんびりしているだけで十分ですから」

「……」


 微笑むソフィアとは正反対に、アイシャは暗い顔をした。


「どうしたの、アイシャ?」

「……わたし、泳げない」

「そうなの?」

「うん。水に浮かばないの……」


 泳ぎたいけど、でも、泳ぐことができない。

 そんな感じで、アイシャは落ち込んでいるみたいだ。


「なら、僕が泳ぎを教えてあげようか?」

「おとーさんが?」

「うん。今見た通り、僕はそれなりに泳げるから……たぶん、教えることもできると思うよ」

「わたし……泳げるようになるかな?」

「なれるよ。大丈夫、僕が保証するよ」

「……がんばるね」


 アイシャは尻尾をぱたぱたさせつつ、にっこりと笑う。


「アイシャちゃん、かわいいです」

「わぷ」


 娘の愛らしさにやられたソフィアが、アイシャを後ろから抱きしめた。


「ソフィアも手伝ってほしいんだけど、いい?」

「え? えっと……はい、問題ありませんよ」


 あれ?

 なんか今、ちょっと様子がおかしかったような……気のせいかな?


「じゃあ、まずは浅瀬に行こうか」


 とにかくも練習をしようと、浅瀬に移動した。

 ここなら溺れる心配はないし、大きな波が来ることもない。


「アイシャは、水の中で目を開けることはできる?」

「うん、大丈夫」

「え!?」

「ソフィア?」


 なぜかソフィアが驚いていた。

 さっきから様子がおかしいけど、どうしたんだろう?


「い、いえ。なんでもありません」

「そう? えっと……じゃあ、水に浮くことは?」

「……沈んじゃう」

「そっか、ならそこからだね。ちょっと、やってみてくれるかな? 大丈夫。沈みそうになったら、すぐに僕が助けるから」

「うん」


 アイシャは言われるまま、水に浮かぼうとするのだけど……

 しかし、すぐに沈んでしまう。


 僕はすぐに背中を手で支えて、アイシャを水面に戻す。


「だめだった……」

「落ち込まないで。大丈夫、すぐに浮かぶようになるから」

「そう、なの?」

「うん。人も獣人も、たぶん、変わらないから……うん。基本的に浮かぶようになっているんだよ」

「でも、沈んじゃった……」

「水を怖がっているからなのか、体が曲がっていたからね。まっすぐにして、それでいて力を抜くんだ。ぼーっと、水面で寝るような感じ。そうすれば、基本的に沈むことはないよ」

「なるほど、寝るようにするのですね」

「ソフィア?」


 なぜか、ソフィアの方が熱心に説明を聞いていた。


「あ、いえ。なんでもありません」

「えっと……じゃあアイシャ、やってみて?」


 ソフィアの様子は気になるものの、今はアイシャが泳げるように色々と教えないと。


 アイシャはびくびくとしつつ、言われた通りに体をまっすぐにした。

 今度は沈まないように、その背中を僕が支えてあげる。


「ん……」

「ちょっと力みすぎかな? もうちょっと体の力を抜いてみて」

「でも……」

「大丈夫。僕がこうして支えているから。僕を信じて」

「……うん、おとーさんがいれば、安心」


 アイシャの表情がリラックスしたものに。

 自然と体から力が抜けていき……


 ふわっと、アイシャが水面に浮いた。

 僕の支えなしに、ゆらゆらと浮かんでいる。


「わぁ」


 驚いて、喜ぶアイシャ。

 そのせいで沈んでしまうのだけど……

 勢いよく水から顔を出す。

 その顔はキラキラと輝いていた。


「おとーさん、おかーさん。今、わたし、ぷかぷかって浮いていたよ?」

「うん、そうだね」

「ふふ、やりましたね、アイシャちゃん。こんなにも早く浮くことができるなんて、すごいです」

「えへへ」


 僕とソフィアに頭を撫でられて、アイシャはとてもうれしそうに笑った。

 尻尾も、ぶんぶんと横に揺れて水面を叩いている。


 うん。

 僕達の娘、かわいい。

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◆◇◆ お知らせ ◆◇◆
さらに新作を書いてみました。
【おっさん冒険者の遅れた英雄譚~感謝の素振りを1日1万回していたら、剣聖が弟子入り志願にやってきた~】
こちらも読んでもらえたら嬉しいです。
― 新着の感想 ―
[良い点] おや?ソフィア、あなたまさか・・? これはリコリスにいいネタを振るチャンス・・。 って、あれあれ?ソフィアさん?またいつの間に?そしてなんですか?その手は?あとその妙な殺気は? や、やだな…
[一言] 尻尾って毛の間に水をため込んで 泳ぐ時不利になると思うんですよ。 ビーバーの様に方向舵として プラスに働く場合も有るとは思いますが ・・・ いきなり浮く事が出来た アイシャはかなり優秀だと…
[一言] ソフィアの気持ちわかるなぁ
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