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157話 お願いできますか?

 初めての海だ。

 たくさん泳いで、砂浜なんかで遊んで、おもいきり海を満喫しよう!


 そんなことを思っていたのだけど……


「……ほら、ソフィア。いきなさいよ」

「……ほ、本当にやらないとダメなのですか?」

「……おかーさん、ふぁいと」


 なにやら女性陣の様子がおかしい。


 ソフィアは、どこか恥ずかしそうにしていて……

 急かすような感じで、リコリスがソフィアの肩を叩く。


 どうしたんだろう?

 不思議に思っていると、ソフィアは赤い顔をしてこちらに。

 その手には小さな瓶が握られていた。


「あ、あの……フェイト?」

「うん、どうしたの?」

「えっと、ですね……その、なんていうか……」


 もじもじとするソフィアは、なんだか妙な色気がある。

 水着姿もあって、ちょっとまっすぐ見るのが難しい。


 やがて、ソフィアは意を決したように、強い調子で言う。


「ひ、日焼け止めを塗ってもらえませんか!?」

「……え?」

「その、なにもしていないと日に焼けてしまいますので……一人では手の届かないところも……お、主に背中とか」

「いや、でも、そういうことならアイシャに……」


 頼めばいいのでは?

 そう二人を見ると、


「ふふん」

「ふぁいと」


 がんばりなさいよ、という感じでリコリスが良い笑顔をした。

 アイシャも応援するように、両手をぐっとしている。


 ……これ、全部、リコリスの仕業だな。


「どう、でしょうか?」

「えっと……」


 僕がソフィアに日焼け止めを塗る?

 その白い肌に触るということで……


「っ」


 意識したら急に恥ずかしくなり、顔が熱くなる。


 そんな僕の反応を見たからなのか、ソフィアはますます恥ずかしそうに。

 普段、凛としている彼女だけど……

 こういうことは弱いらしく、おろおろおどおどしていた。


「……」

「……」

「ほら、さっさと塗ってあげなさい!」

「うわっ」


 どうしていいかわからず、二人揃って沈黙していると、リコリスに背中を押された。

 そのまま、パラソルの下へ。


「そ、それでは……その、お願いしますね?」


 ソフィアはどこか艶のある表情で、シートの上にうつ伏せに寝た。

 そして……スルッと、上の水着の紐を解いてしまう。


「そ、ソフィア!?」

「その、塗る時に邪魔になってしまいますから……そ、そのためです」

「そ、そっか……」


 とにかく顔が熱い。

 ドキドキと胸が鳴り、手が震えてしまう。


「じゃ、じゃあ……いくよ?」


 小瓶の蓋を取り、とろりとした液体を手に垂らす。

 そして、そっとソフィアの背中に触れた。


「ひゃん!?」


 触れた瞬間、ソフィアはびくりと体を震わせつつ、滅多に聞くことのないかわいらしい声をあげた。


「ご、ごめん!?」

「あ、いえ……冷たくて驚いただけなので、その……だ、大丈夫です。続けてください」

「う、うん」


 恐る恐る日焼け止めを塗る。

 どうしても手が震えてしまうのだけど、仕方ないよね……?


「ん……」

「い、痛くない?」

「大丈夫です。少し……気持ちいいくらいです」

「そ、そうなんだ」

「もう少し強くしても大丈夫ですよ」

「これくらい……かな?」


 押すような感じで、日焼け止めを塗り拡げていく。


 ソフィアの肌は柔らかくて、スベスベしていて……

 そういえば、彼女に触れるのはこれが初めてでは?

 軽いスキンシップはあるものの、こんなにもガッツリと触れるなんて初めてのことで、そのせいかやたらと意識してしまう。


「はぁ……ん」

「……」

「ふぅ、あ……はぁあ」

「……」

「んっ……ふぁ」


 ソフィアの吐息がやたらと艶めかしいのはなんで!?

 ドキドキしっぱなしで、なんかもう、どうにかなってしまいそうだ。


 そんな僕を見て、ソフィアが妖艶に微笑む。


「ふふ……フェイトは今、ドキドキしているのですか?」

「そ、それは……」

「大丈夫です、怒ったりなんてしません。むしろ……うれしいです」

「え?」

「好きな男の子が、私にドキドキしてくれる……女性としては、とてもうれしいことですよ?」

「そ、そうなんだ……」

「だから……もっと触ってもいいですよ?」


 甘く蠱惑的に、ソフィアが潤んだ瞳をこちらに向けてきた。


 この妖しい状況に飲み込まれて、ちょっと理性が飛んでいるみたいで……

 普段は口にしないような、とんでもない台詞を放つ。


「胸とかお尻とか……フェイトの好きにしていいですよ?」

「えっ……!?」

「水着……全部、取りましょうか?」

「う……」


 僕も男だ。

 好きな女の子にそんなことを言われたら、もう……


「おとーさんとおかーさん、見たことのない顔してる」

「「っ!?」」


 ついつい二人きりの世界を作ってしまっていたけど、ここは海水浴場で、他にたくさんの人がいて……

 そしてなによりも、アイシャとリコリスがすぐ傍にいる。

 そんな中で、僕達はなにを……?


「「……」」


 二人同時に真っ赤になり、


「「こ、これで終わり!!!」」


 我に返った僕とソフィアは、慌てて身なりを整える。


「ヘタレねー」


 リコリスがニヤニヤと、どこか楽しそうにしつつ、そんなことをつぶやくのだった。

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◆◇◆ お知らせ ◆◇◆
さらに新作を書いてみました。
【おっさん冒険者の遅れた英雄譚~感謝の素振りを1日1万回していたら、剣聖が弟子入り志願にやってきた~】
こちらも読んでもらえたら嬉しいです。
― 新着の感想 ―
[良い点] リコリス、ありがとう! 今回はよくこのシチュエーションを作ってくれた! 褒美にかき氷を申請しよう。
[一言] アイシャの一言が無かったら、どうなってたんだろうw
[良い点] ぶっちゃけます! 自分アイシャの御両親は御存命で 嬉しいけれど、少しだけ寂しい ・・・ そんな旅立ちの別れが訪れるのは 必然だと、覚悟を固めて居りました ・・・ ・・・ でもね ・・…
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