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153話 獣人研究家

 ひとまず、宿のことは気にしないことにして……

 荷物を部屋に置いた後、再び街へ。


 エドワードさんとエミリアさんの話によると、獣人研究家は、ブルーアイランドの端の方に住んでいるらしい。

 研究に専念するために、騒々しい中心部から離れたという。


 街を一望できるような丘の上。

 そこに獣人研究家の家があった。


「すみません」


 扉をノックして、声をかける。


 ……しかし、反応はない。


「すみませーん!」


 もう一度、扉をノックした。

 少し大きめの声も出す。


 でも、やはり反応がない。


 試しにドアノブを回してみると、ガチャリと鍵がかかっていた。


「留守なのかな?」

「えっと……人の気配は感じられませんね」

「そういう確認の仕方、あるんだ……」


 気配で留守の有無を判別してしまうなんて。

 ソフィアって、たまにデタラメだよね。


 ……たまにじゃなくて、いつもかな?


「どうすんの? 帰ってくるのを待つ?」

「そうしたいところだけど……あ、やっぱりそれはやめた方がいいかな」

「なんでよ?」

「ポストを見て」


 ポストは大量の投函物であふれていた。

 家主がしばらく家に帰ってきていない証拠だ。


「仕事なのか旅行なのか、そこはよくわからないけど、長い間家を空けているみたいだね」

「困りましたね……」

「ちょちょいと鍵を開けて、中を勝手に調べさせてもらう、っていうのは?」

「なにを調べたらいいかわからないし、そもそも、それは犯罪だよ」

「ふふん、冗談よ冗談」


 いや、リコリスは本気だった。

 そう思ったものの、口にはしないでおく。


「学者さん、いないの?」

「そうみたいですね、残念です」

「おかーさん、よしよし」

「はぁあああ……もう、娘がかわいすぎてどうにかなってしまいそうです!」

「ふぎゅ」


 目をハートマークにしたソフィアは、アイシャをぎゅっと抱きしめた。

 力加減はしているみたいだけど、それでも苦しいらしく、アイシャがジタバタともがく。


「ソフィア、落ち着いて」

「はっ!? すみません、アイシャちゃん……」

「ううん、気にしてないよ」


 アイシャを好きすぎるから暴走してしまう。

 そのことを理解しているらしく、アイシャはうれしそうにしていた。


「ひとまず、近くの家の人に話を聞いてみようか」

「そうですね」


 少し離れたところにある民家へ。

 こちらは留守ということはなくて、獣人研究家についての話を聞くことができた。


 なんでも、少し前に講演会の仕事が入ったらしく、他の街へ移動したとのこと。

 予定によると、一週間は不在だとか。


「ありがとうございました」


 話を聞き終えた後、改めて獣人研究家の家の前に。


「出かけたのが二日前みたいだから、あと五日は帰ってこないことになるね」

「やっぱり、勝手に入った方が早いんじゃない?」

「なんで、リコリスはそういう過激な発想に至るの……?」


 妖精は、もっとおとなしくて穏やかな種族って聞いていたんだけど……

 リコリスが特別なのかな?


 どちらにしても、アイシャの教育に悪いから、そういうことは言わないでほしい。


「とりあえず、手紙を置いていきましょう」


 五日後に帰ってくるらしいけど、予定がズレることもある。

 行き違いになると大変なので、僕達の来訪を告げる手紙を残しておくことにした。


 いっぱいのポストを整理してから、手紙を投函。

 ひとまず、これで今できることは完了した。


「これからどうしようか?」


 五日間も予定が空いてしまった。

 宿代は心配いらないけど、どうやって時間を潰せばいいか、そこが問題だ。


「せっかくなので、この街でなにか依頼をこなしておきますか?」

「あ、それはいいかも」


 場所が変われば依頼も変わる。

 ブルーアイランドならではのおもしろい依頼があるかもしれない。


「はー……なってない、なっちゃいないわね。こんなところでまで仕事をしようとするなんて、二人共、ワーカーホリック? ホント、やれやれね」


 リコリスが、これみよがしに盛大にため息をついてみせた。


「仕事ばかりしてないで、たまには休みなさいよ。そうしないと、リコリスちゃんも休めないでしょ」

「リコリスは、好きな時に好きなだけ休んでいたような……?」

「うっさいわね!」


 リコリスはふわりと宙を飛んで、アイシャの頭の上に着地。

 そして、ビシリとこちらを指差す。


「さあ、アイシャ。あんたの胸の内の想いをぶちまけてやりなさい!」

「う?」

「したいこと、あるんでしょ?」

「……」


 リコリスが適当なことを言っているわけじゃなくて……

 アイシャは、ちらりと僕とソフィアを見た。


 尻尾が不安そうに揺れている。

 なにか言いたいことがあるみたいだけど、でも、リコリスが言うように我慢していたらしい。


 僕はしゃがみ、アイシャと目線を合わせる。


「どうしたの、アイシャ? なにか言いたいことがあるなら、遠慮なく言って」

「フェイトの言う通りですよ。変な遠慮はしないでくださいね」

「えっと、その……」


 アイシャはちらりと海を見て、それから僕達に視線を戻した。


「海、初めてだから……遊んでみたい」

「そっか」


 考えてみれば、アイシャの欲求は当たり前のものだ。

 初めて見る海。

 子供なら遊んでみたいと思うだろう。


「うん。なら、海で遊ぼうか」

「いいの……?」

「もちろん」

「ごめんなさい、アイシャちゃん。私達の仕事の邪魔をしないかと、気にしてくれていたんですよね。でも、大丈夫ですよ。お金には困っていませんから、無理に仕事をする必要はないですし……なにより、私もアイシャちゃんと海で遊びたいですから」

「わぁ……!」


 よほど海で遊びたかったらしく、アイシャの顔がぱぁっと輝いた。


 なんていうか、申しわけない。

 リコリスが言い出してくれなかったら、気づかなかったかもしれない。


「ありがとう、リコリス」

「ふふーん、気にしなくていいわよ。あたしって、超がつくほどの気遣い上手だから、これくらいなんてことないわ。あ、でも、今夜は肉が食べたいわ。肉!」

「了解」


 こうして……

 獣人研究家が戻ってくるまでの間、僕達は海を楽しむことに決めた。

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◆◇◆ お知らせ ◆◇◆
さらに新作を書いてみました。
【おっさん冒険者の遅れた英雄譚~感謝の素振りを1日1万回していたら、剣聖が弟子入り志願にやってきた~】
こちらも読んでもらえたら嬉しいです。
― 新着の感想 ―
[良い点] なるほど、この先はまだわたしは読んでないエリアに入るんですが。海で遊ぶ展開が待ってたんですね。
[良い点] フェイト " ソフィアってたまに、デタラメだよね ・・・ " いいえいいえ、それなら貴方は常時デタラメです♪ なんてったって " 規格外 " ですから ・・・ (笑)   [気になる…
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