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149話 これからも

「あの時の約束、守ってくれてありがとうございます」


 思い出話が終わり、ソフィアはにっこりと笑う。


 その笑顔はとても綺麗で……

 何度見てもドキドキしてしまうため、ちょっと照れて目を逸らしてしまう。


「お礼を言われるようなことじゃないよ。僕自身が望んだことで……あと、ちょっと危ういところだったし」


 騙されて、奴隷にされて。

 ソフィアに助けてもらわなかったら、今も奴隷のままだっただろう。


 だから、僕はなにもしていない。

 約束をなんとか守ることができたけど……

 それは全部、ソフィアのおかげだ。


「いいえ、それは違います」


 僕の考えを、ソフィアはあっさりと否定した。


「奴隷にされたとしても、フェイトは諦めなかったでしょう? ずっと、私のことを考えてくれていたんですよね?」

「うん、そうだよ」

「そうやって諦めないことが、一番大切だったんだと思います。もしも途中で諦めていたら、たぶん、私とフェイトは出会うことができず……今も離れ離れだったと思います」

「そうかな? そんなことは……」


 ない、と言おうとして、しかし言葉が出てこない。


 諦めない。


 言葉にするなら、とても簡単なことだ。

 でも、いざ実行するとなると、これほど難しいものはない。


 僕のように、冒険者を目指して、ソフィアとの約束を守ろうとしても。

 あるいは、芸術家を目指すとか。

 はたまた、一流の商人を目指すとか。


 誰もが夢を持ち、叶えたいものを胸に抱く。

 でも、何度も何度も壁にぶつかり、時に理不尽に襲われてしまう。


 そんな中でも諦めないということは、なかなかに難しいのでは?


「フェイトは、何年も諦めませんでした。それは、とてもすごいことだと思います。少なくとも、私には真似できません」

「そんなことはないよ。ソフィアなら、もっとうまくやれると思うし……」

「フェイトは、自己評価がちょっと低すぎです」


 むう、というような感じでソフィアが頬を膨らませた。

 怒っていますよ、とアピールしているらしい。


「奴隷に落とされて、何年もひどい扱いを受けて……それでもなお、諦めない。折れない心を持つということは、相当にすさまじいことですよ?」

「そう、かな?」

「そうですよ。何年もの間、肉体的な負荷を受け続けて、それに耐えたこともかなりすごいですが……やはり、心が折れないことがすごいです。普通の人は……いいえ、歴史に残る偉人であっても、そのような目に遭えば心が潰されてしまいます。精神的な傷というものは、それほどまでに耐え難いものなのですから」


 言われて、納得してしまう。


 肉体的な痛みや傷は、慣れてしまえば我慢できるものだ。

 ある程度は、痛みはコントロールできる。


 しかし、心はそうはいかない。

 目に見えないものだから、コントロールのしようがなくて……

 壊れる時は簡単に壊れてしまうだろうし、自分が気づいていないだけで、すでに砕けているというパターンもあるだろう。


「だから……がんばってくれて、ありがとうございます」

「……ソフィア……」

「私との約束を守ってくれて、本当にうれしかったです」

「それは、だって……うん。ソフィアのためだから」


 もう一度会おう、って約束をした。

 一緒に冒険をしよう、って約束をした。


 だから、がんばることができた。

 僕の原動力はソフィアなのだ。


「はい、ありがとうございます」


 ソフィアは、とてもうれしそうにはにかんだ。


「大好きな男の子が、私のために……と言ってくれる。女として、これほどうれしいことはありません」

「え、えっと……」

「ふふ、どうしたんですか。もしかして、照れています?」

「……少し」


 からかうように言うソフィアから、ちょっと目を逸らしてしまう。


 そういう顔は反則だ。

 視線を奪われてしまうし……

 心も盗まれてしまう。


「ねえ、フェイト」

「うん?」

「なにか、新しい約束をしませんか?」

「新しい?」

「昔の約束は、フェイトのおかげで果たすことができました。だから……また、なにか新しい約束をしたいと思うんです。そうすることで、フェイトとの繋がりができるというか、欲しいというか……そういう感じです」


 良いアイディアだ、と素直に思った。

 でも、新しい約束か……うーん。


「どんなものがいいのかな?」

「できれば、私達だけではなくて、アイシャやリコリスも一緒のような、そんな約束がいいのですが……」

「そうだね。今は、僕達二人だけじゃなくて……うん、みんなが一緒だからね」


 アイシャは大事な娘。

 リコリスは大事な仲間。というか、家族?


 四人の絆を繋ぐような、そんな約束が欲しい。


「……いつか、さ」

「はい」

「どこかに家を買って、のんびりと、みんな一緒に過ごすことができたらいいな……って思うんだ。ちょっと方向性は違うけど、それを約束にする、っていうのはどうかな?」

「そうなると……みんなで一緒に暮らすためにがんばる、という感じでしょうか?」

「うん、そんな感じで」


 約束というよりは願いだ。

 みんなが笑って過ごすことができる、優しい夢。


 うん。

 それを叶えるために、色々と……今まで以上にがんばろう。


「がんばらないとね」

「そうですね。でも……その前に、誓いの証を立てておかないといけませんね」

「証?」

「はい、証です」


 ソフィアは頬を染めて、そっと顔を近づけてきて……


「……んっ……」


 二人の距離がゼロになる。


「……え?」

「こ、これが、その……証です」

「えっと……え?」

「その、あの……わ、私、ちょっと用事を思い出したので、先に家に帰りますね。では!」


 耳まで赤くしたソフィアは、逃げるようにこの場を立ち去る。


 一方、僕は呆然としたまま……

 ぼーっとしつつ、唇をそっと指先でなぞる。


「今の……キス、だよね?」


 一分ほど遅れて、ようやくその事実を認識して……

 僕は、羞恥と喜びと驚きに悶絶することになった。

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◆◇◆ お知らせ ◆◇◆
さらに新作を書いてみました。
【おっさん冒険者の遅れた英雄譚~感謝の素振りを1日1万回していたら、剣聖が弟子入り志願にやってきた~】
こちらも読んでもらえたら嬉しいです。
― 新着の感想 ―
[気になる点] 今話に限った話では無いのですが、 思考しただけなのか、 実際に声に出しているのか、 一読しただけでは、混乱する時が有ります。 うっかり恥ずかしい思考をダダ漏れにして、 フェイトが、周…
[良い点] 二人の関係がまた一歩進んだ事 [一言] いよいよ、旅立の時が来た感じかな すっかりエミリアさんに食べ物で釣られているアイシャは 大丈夫だろうかw
[気になる点] 自信→自身 じしん→じしん [一言] これからも頑張ってください!
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