143話 もらっちゃいました
いくらかの店を見て回り……
ソフィアと一緒に公園を散歩して……
ほどよくお腹が空いてきたところで、昼ごはんにすることにした。
「このお店は、リーフランドで一番のオススメですよ」
「なんだか、すごいおしゃれなところだね」
ソフィアに案内されてやってきたのは、魚料理を専門とするお店だった。
店に入ると、すでに良い匂いがして、お腹が鳴ってしまいそうだ。
「うーん、どれにしようかな?」
香草焼き、パイ包み、塩釜焼き……たくさんのメニューがあって迷う。
それはソフィアも同じみたいで、じっとメニューを見つめていた。
「久しぶりにパイ包みを……いえ、でもシンプルに焼くだけの魚も捨てがたいですね。しかし……」
「ねえ、ソフィア」
「はい?」
「迷っているなら、二人で気になるものを頼んで、後でシェアしない?」
「いいんですか?」
「うん、そうした方がお得かな、って」
「では、そうしましょう」
こうして、メニューが決定。
店員に注文を伝えた後、しばらく他愛のない話をして、のんびりとした時間を過ごして……
ほどなくして料理が運ばれてきた。
「「わぁ」」
絵画のように綺麗な料理を前にして、ソフィアと一緒に感嘆の声をあげる。
綺麗なだけじゃなくて、良い匂いがする。
食欲を刺激される匂いで、人目がなかったらそのままかじりついていたかもしれない。
ちなみに、僕の料理は香草焼きをメインとしたランチセット。
ソフィアは、パイ包みのセットだ。
ドリンクとサラダ、パンとデザートがついてくる、なかなかにお得で豪華だったりする。
「それじゃあ……」
「いただきます」
さっそく料理を一口。
うん、おいしい!
魚はしっかりと下ごしらえと味付けがされていて……
それを香草と一緒に焼くことで、風味が加わっていて、とても上品な味に仕上がっていた。
それでいて食欲が刺激されるような味付けでもあるので、どんどん食べられそうだ。
「ここの料理、すごくおいしいね」
「そう言っていただけると、私もうれしいです。小さい頃からの馴染みのお店なので」
「ソフィアの料理は、どう?」
「とてもおいしいですよ。あと、懐かしいです。色々とあって、なかなか来ることができなかったので……はむ」
ソフィアは、満面の笑みで魚のパイ包みを食べている。
笑顔がこぼれ落ちてしまいそうで、とても幸せそうだ。
そんな彼女の顔を見ていると、僕も幸せな気持ちになる。
うん。
やっぱり僕は、ソフィアのことが大好きなんだな。
「……」
ふと、ソフィアがじっとこちらを見ていることに気がついた。
いや。
僕じゃなくて、手元の料理を見ている。
物欲しそうな感じで、どことなくアイシャと似ていた。
さすが母娘。
「香草焼き、食べる?」
「いいんですか?」
「元々、シェアしようっていう話だったから。えっと……」
ふと、ちょっとしたいたずらを思いついた。
僕は魚の香草焼きを切り分けて、フォークに乗せる。
それをソフィアの前に差し出した。
「あーん」
「え?」
「あーん」
「えっと、その……私、自分で……」
「ほら、あーん」
「うぅ……」
ソフィアは恥ずかしそうに頬を染めた。
ただ、どことなく期待している感じで、その瞳はキラキラとしている。
ソフィアって、普段の態度からはあまり想像できないんだけど、こういうテンプレ的なやりとりが好きなんだよね。
たまに、こういうことをしてほしそうにこちらを見ることがある。
僕も恥ずかしいので、本当はあまりしたくないのだけど……
でも、今日はせっかくのデートだ。
ソフィアが喜ぶこと、なんでもしてあげたいと思う。
「はい、どうぞ」
「……あーん」
恥ずかしそうにしつつ、ソフィアはぱくりとフォークを咥えた。
「どう? おいしい?」
「……緊張して、あまり味がわかりませんでした」
「そんなに緊張するの?」
「します! フェイトにあーんをしてもらうなんて……はぁ、ここは天国ですか」
うっとりとした顔に。
大げさだなあ、と思うのだけど……
でも、僕がソフィアにあーんをされたら、どうなるだろう?
うん。
同じ反応を見せると思う。
大げさじゃないか。
「なら、もっとあーんをしようか?」
「い、いえ。これ以上は恥ずかしいので、普通に分けてくれれば……」
「僕は、あーんがしたいかな」
「む……」
ソフィアが拗ねたように唇を尖らせた。
それから、ニヤリと唇の端を吊り上げる。
あ。
これは、いけないスイッチが入ってしまったかも。
「ねえ、フェイト」
ソフィアが身を乗り出すようにして、顔を近づけてきた。
ともすれば唇が触れてしまいそうな距離で……
な、なんでこんなことに?
ドキドキが止まらない。
「ソースがついていますよ」
「え?」
「……ん」
ペロリと頬を舐められてしまう。
ソフィアは、やけに艶めかしい仕草で舌を動かして……
それから、舐め取ったソースをごくんと飲み込んだ。
「ふふ、フェイトの味がします」
「え、えっと……うあ……」
顔が熱い。
ソフィアをまともに見ることができなくて、ついつい視線を逸らしてしまう。
そんな僕を見て、
「ふふ、フェイトはかわいいですね」
ソフィアは妖しく、そんなことを言うのだった。
まだまだ彼女には敵わない。
そう思い、僕はやれやれと天井を見上げた。
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