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141話 子離れできない親

「というわけで、明日にでもリーフランドを立とうと思います」

「なん、だと……!?」


 みんなで食卓を囲む、アスカルト家の夕食の席。

 そこでソフィアが今後の予定を告げると、エドワードさんが愕然とした表情に。

 ものすごいショックを受けているらしく、硬直して、その手からぽろりとナイフとフォークが落ちる。


「あら、ソフィアはもう旅に出てしまうの?」


 エミリアさんは落ち着いたもので、そう問いかけてきた。


「はい。アイシャちゃんのことを、少しでも早く解決したいので」

「そう……そういう理由なら仕方ないですね。明日はお見送りの……」

「……ならん」

「旦那さま?」

「ならぬぞ! すぐに家を出るなど、そのようなことはあってはならぬ!」


 なぜかエドワードさんが怒る。


 いや。

 怒るというか、焦っている……?


「なぜダメなのですか?」

「それは、いや……つまりだな……そう! 休暇が必要だ。先の事件で疲労が溜まっているだろう? 無理をしてはいけないぞ」

「私は特に疲れていませんが……」


 ソフィアがこちらを見る。


「えっと……僕も、そんなに疲れてはいないかな」


 アイシャを見る。


「わたし、だいじょうぶ」


 アイシャがリコリスを見る。


「ウルトラメガかわいいリコリスちゃんは、本当なら休暇をもらって、めいっぱい遊びたいところだけど……まあ、アイシャのためだからねー。すぐ出発しても問題ないわよ」

「と、いうことです」

「ぬぐぐ……」


 ソフィアの塩対応に、エドワードさんがとても苦い顔に。


 一応、二人は仲直りしているのだけど……

 それでも、ソフィアは色々と思うところがあるのか、ちょっと対応が厳しい。


「で、では、ソフィアは家に残るということにすれば……」

「なにを言っているのですか? 私はフェイトの生涯のパートナーであり、アイシャちゃんの母親です。放っておけるわけないでしょう」

「むぐぐ……」


 生涯のパートナー、のところでエドワードさんが、ものすごい勢いで僕を睨んできた。

 ソフィアと仲直りしたものの、それでもなお、割り切れないものがあるのだろう。


 なんていうか、ごめんなさい。

 アイシャがいるから、一応、僕もエドワードさんの気持ちは少しわかるつもりだ。


「そ、それならば、アイシャを家に置いて……」

「アイシャちゃんのことを調べるための旅なのですよ? 当の本人がいなければ、色々とわからないことが出てきます」

「ぐぬぬ……」


 エドワードさんは、どうにかしてソフィアとアイシャを引き止めたいみたいだ。


 今ならわかる。

 ソフィアの邪魔をしたいわけじゃなくて……

 ただ単に、エドワードさんは大事な愛娘と一緒にいたいのだろう。


 だから、勝手に許嫁を作った。

 そうすれば、激怒したソフィアが戻ってくるとわかっていたから。


 おそらく、最終的にはどうにかして許嫁はなかったことにしたのだろう。

 そうすることと引き換えに、ソフィアを家に留める……そんなことを考えていたのだと思う。


 以前、リコリスが言った、子離れできていない、という意味が理解できた。

 エドワードさんは、本当にソフィアを大事に思っているんだなあ。


「ねえ、ソフィア」

「なんですか?」

「あと一週間くらい、リーフランドに滞在しない?」

「え?」


 お父さまの味方をするのですか? というような感じで、ソフィアが驚いた顔に。


 エドワードさんのことが気にかかるのは確かだけど……

 でも、それ以外に滞在する理由がある。


「できるだけ急ぎたいのはわかるけど、でも、旅の準備は必要だよね」

「それはそうですが、急げば数時間で……」

「ブルーアイランドはけっこう遠いから、焦らないで、しっかりと準備をした方がいいよ」


 ブルーアイランドまでは、約一ヶ月の行程となる。

 というのも、途中、馬車が通っていない場所があるのだ。

 徒歩が含まれるため、それだけの時間がかかってしまう。


「あと、久しぶりの故郷なんだから、色々と挨拶とかしておいた方がいいよ」

「それは……」

「次に来れるのはいつになるかわからないんだから。そういうことは、ちゃんとしておこう?」

「……はい」

「あと……」


 小声で、ソフィアだけに聞こえるように言う。


「……急いた方がいいのはわかるけど、でも、アイシャにもっとこの街のことを見せてあげたいんだ。だって、ソフィアの故郷だもん」

「……フェイト……」

「……あと、体は問題なくてもストレスが溜まっているかもしれないし、少し遊んだ方がいいと思うんだ」


 これはアイシャだけじゃなくて、ソフィアにも言えることだ。

 リーフランドに来て、色々なことがあった。


 ソフィアは剣聖だから、体力に問題はないだろうけど……

 心の疲弊は、そうそうすぐに回復することはないだろう。


 一週間くらい、ゆっくりとした方がいいと思う。


「……わかりました」


 迷うような間を挟んでから、ソフィアはゆっくりと頷いた。


「フェイトの言うことはもっともなので、あと一週間、滞在することにしましょう」

「うん、そうした方がいいよ」

「お父さま、お母さま。そういうわけなので……あと一週間、こちらに滞在してもよろしいでしょうか?」

「ええ、もちろんですよ。ここは、ソフィアの家なのですから」

「そ、そうか……うむ。まあ、そういうことならば仕方ないな。お前の部屋は空いているし、小僧の部屋も問題はない。仕方ないから泊まっていくといい」

「あのおっちゃん、とんでもないツンデレねー」


 うれしさを隠しきれないエドワードさんを見て、リコリスが呆れたようにつぶやくのだった。


「おとーさん、おかーさん。出発しないの?」

「うん。あと一週間、ここに滞在するよ」

「アイシャちゃんは、すぐに出発したいですか?」

「ううん。おじーちゃんとおばーちゃんと、一緒にあそびたい!」

「ぐふっ」


 エドワードさんが胸を押さえて、そのまま倒れそうになっていた。

 アイシャの尊さにやられたらしい。


「ふふ、うれしいことを言ってくれるのですね。アイシャちゃん、明日はなにを食べたいですか? 好きなものを作ってあげますよ」

「おばーちゃんの料理?」

「はい。おばあちゃんの料理です」

「えっと、えっと……甘いもの?」

「はい、了解です」


 こうして、僕達はもう一週間、リーフランドに滞在することになった。

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◆◇◆ お知らせ ◆◇◆
さらに新作を書いてみました。
【おっさん冒険者の遅れた英雄譚~感謝の素振りを1日1万回していたら、剣聖が弟子入り志願にやってきた~】
こちらも読んでもらえたら嬉しいです。
― 新着の感想 ―
[良い点] 作者様、妄想の時間となりました。 もしもイリスが先生で生徒がリコリスとルナだったら・・。 イリス「・・ということでこういう歴史が生まれたのです。分かりましたか?」 リコリス「うぐぐ・・この…
[良い点] ヴィジュアルストーリー(本編とは深く関わらない日常編)かな次回は?
[一言] フェイトとソフィア。 さっさと結婚して子供作った方が、きっとエドワードさんも「孫ができた」と喜ぶはず。
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