140話 アイシャの謎
「……んぅ?」
窓から差し込む陽の光で目が覚めた。
カーテンが全部閉まっていなかったらしく、明るい空が見えた。
今日の天気は快晴。
うん。
良い一日になりそうだ。
「って……あれ?」
布団が盛り上がっていた。
なんだろう、これ?
不思議に思いつつ、布団をめくってみると……
「すぅ、すぅ……んん……くぅ……」
くるっと体を丸めて、アイシャが気持ちよさそうに寝ていた。
「いつの間に」
ソフィアと一緒に寝ていたと思うんだけど……
夜中、トイレに起きるなどして、その帰りで間違えてこっちに来ちゃったのかな?
「……わふぅ……」
そっと頭を撫でると、気持ちよさそうな顔に。
その顔を見ていると、なんともいえない温かい気持ちになる。
うん。
僕は、アイシャの父親だ。
そして、アイシャは大事な娘。
そのことを再認識した。
「だからこそ、これからのことをしっかりと考えないと」
――――――――――
「なるほど、そんなことが……」
みんなが起きて、朝食を済ませて……
それから、僕とソフィアとエドワードさんは情報交換をしていた。
ちなみに、リコリスとアイシャはいない。
子供に聞かせるような話じゃないので、エミリアさんに遊んでもらっている。
「謎の襲撃者、魔剣、そして黎明の同盟……」
「なにかが動き始めている、と言っても過言ではありませんね」
「そして、それにアイシャが関わっている可能性が高い……」
昨夜の話をまとめると、そんな結論に達した。
敵の狙いはアイシャ。
そして、魔剣が関わっている。
「厄介な状況ですね……」
「なにがどうなっているのか、情報がまったく足りていないところが問題だよね」
魔剣。
黎明の同盟。
そして、アイシャが狙われる理由。
それらの情報が圧倒的に足りていない。
どう動けばいいか、頭を悩ませてしまう。
「ふむ……ならば、魔剣については儂の方で調べておこう」
「いいのですか、お父さま?」
「儂が選んだソフィアの許嫁が魔剣を所持していた。そして、その父親は、儂の敵対者」
エドワードさんがアイザックを許嫁に選んだ理由は、敵対する派閥と講和するためだったらしい。
あと、アイザックもわりと好青年だったと聞くのだけど……
僕は、魔剣によって変貌した後の彼しか知らないので、そこはなんとも言えない。
「今回の一件、儂も無関係とは言えぬ。それに、黎明の同盟とやらも放置しておくわけにはいかないだろう。単純なテロリストではないようだが……その戦闘力、組織力を見るからに、放置できるものではない」
「お願いします、お父さま」
ソフィアがぺこりと頭を下げて、エドワードさんがしっかりと頷いてみせる。
うーん。
この二人、剣を交わしているところしか見ていないから、こんなやりとりは新鮮だ。
できるなら、このまま仲良くいてほしい。
「なら、僕達はアイシャのことを調べようか」
そもそも……
アイシャって、けっこう謎が多い。
なぜ捕まっていたのか?
ドクトルは、彼女になにをしようとしていたのか?
今回、狙われた理由は?
たぶん、魔剣が関わっているのだろう。
それと黎明の同盟も。
でも、今のところ情報はゼロ。
今朝、軽くアイシャに聞いてみたけど、彼女も心当たりがまるでないようだった。
「なんで、アイシャが狙われているのかな?」
「わかりませんが……ですが、よからぬ輩がいるというのなら、全て叩き斬るまでです」
「うん、そうだね。アイシャのことは、僕達が絶対に守らないと」
「……」
エドワードさんは、どこか眩しそうな顔をしてこちらを見ていた。
「エドワードさん? どうしたんですか?」
「……ソフィア」
「はい?」
「すまなかった」
エドワードさんが深く頭を下げた。
「お父さま……?」
「許嫁の件、お前に黙って勝手に進めたこと、間違いだったと反省している。今のお前を見て、ようやく理解した。お前が笑顔でいられるのは、そこの小僧……いや、スティアートくんのおかげなのだな」
「……お父さま……」
「スティアートくん」
「は、はい」
「散々、ひどいことを言っておいて今更と思うかもしれない。虫の良い話だ。それでも……どうか、これからもソフィアと一緒にいてくれないだろうか?」
ようやく、僕達の気持ちがエドワードさんに通じた。
そのことがうれしくて幸せで、ついつい感動で泣いてしまいそうになる。
でも、涙は見せない。
代わりに笑顔を。
「はい、もちろん!!」
「ありがとう」
色々とあったものの、最終的に和解することができた。
うん。
ソフィアの許嫁の件に関しては、ハッピーエンドと言ってもいいのではないだろうか?
まあ、アイシャの件に関しては、さらに問題と謎が増えたのだけど。
「これからどうしようか?」
アイシャのことを放置しておくわけにはいかない。
今回のように、また狙われてしまうかもしれない。
根本的な問題を解決するため、彼女の謎など、全てのことを知っておきたいのだけど……
うーん、どうしたものだろう?
「なら、ブルーアイランドへ行くといい。彼の地には、獣人に詳しい学者が住んでいると聞く。アイシャちゃんのことがわかるかどうか、なんとも言えぬが……なにも得られないということはないだろう」
「そう、ですね……そういうことならば……フェイト、どうしますか?」
「うん。他に手がかりもないし、ブルーアイランドを目指してみよう」
こうして、僕達の次の目的地が決まった。
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