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138話 これはいったい?

 あれは寝ぼけていたことだから。

 不可抗力だから。

 特に気にしていないし、むしろかわいいところを見ることができてラッキー。


 そんな感じでなんとか落ち着かせることに成功。

 その後、領主の娘を誘拐したとして、アイザックは逮捕。

 色々な手続きをしたり事情聴取に応じたり……


 事件の後始末から解放されたのは、翌朝になってからだった。


「眠いです……」

「色々あった上で、さらに徹夜だからきついね……」


 今すぐ宿へ戻り、ベッドに倒れ込んでしまいたい。

 でも、それはできない。


 遅くなってしまったから、アイシャが心配しているに違いない。

 それに、エドワードさんとエミリアさんに、ソフィアが無事なことを伝えないと。


「帰ろうか」

「はい」


 手を繋いで、僕達はソフィアの家に向かった。




――――――――――




「これは……」

「いったい……」


 屋敷へ戻ると、予想外の光景が待ち受けていた。


 調度品などが壊れ、床や壁が傷ついている。

 そんな中を忙しそうに移動する使用人達。


 これだけでも相当な驚きなのに……


「アイシャよ、そろそろ寝てはどうだ? ソフィアやあの小僧のことが気になるのはわかるが、もう限界じゃろう?」

「うう、ん……がんばる。おとーさんとおかーさん……お迎え、するの」

「うむ、うむ。そうじゃな、お迎えはしたいな。なら、もう少しだけがんばるとしよう。よし、眠気覚ましにちょうどいいお茶を淹れよう。あと、朝食にしようか。パンケーキなんてどうだい?」

「わぁ♪」

「おぉ、そうかそうか。パンケーキは好きか。クリームとフルーツたっぷりの、おいしいパンケーキを焼いてもらうからな、待っているのだぞ」

「うん、おじーちゃん」


 エドワードさんが、アイシャに思い切りデレていた。


 アイシャは子供なので、それほど厳しい態度はとられていなかったけど……

 でも、関心はなかったと思う。

 少なくとも、自分の膝の上に乗せて、頬が落ちてしまいそうなほどの笑みを向けることはなかった。


 それなのに、今はどうだろうか?

 どこからどう見ても、孫を溺愛するおじいちゃんだ。


「あら? ソフィア、おかえりなさい」


 エミリアさんがこちらに気がついて、にっこりと笑う。


「スティアートくんに助けてもらったみたいですね。大丈夫ですか?」

「あ、はい……私はなにも問題はありません。ただ……」

「ソフィア!」


 アイシャを一旦脇に移動させて、エドワードさんが立ち上がる。

 ものすごく厳しい顔だ。


「……」


 ソフィアも緊張した様子に。


 剣聖として。

 剣の娘として、薬なんかにやられるなんて情けない真似を見せた。

 そのことを咎められる……そう思っているのかもしれない。


 でも、現実はまったくの逆。


「よくぞ、無事に戻った……!!」

「え?」


 エドワードさんは、ソフィアを抱きしめた。

 強く強く……それでいて繊細なガラス細工を扱うように、大事に抱きしめた。


「あの馬鹿者共がなにか企んでいるのは察していたが、まさか、ここまで愚かな行動に出るとは思わず……儂の責任だ。すまない、本当にすまない……!」

「お、お父さま? その……怒らないのですか?」

「なぜ怒る?」

「それは、私が無様なところを見せたから……」

「あれは儂のせいでもある。ソフィアを一方的に責めることなどできぬ」

「……お父さま……」

「すまなかった。あのような男を許嫁になんて、儂の目が曇っていた……本当にすまなかった」

「……」


 ソフィアはなにも言わず、エドワードさんを抱き返した。

 無事に仲直り完了、かな?


「おとーさん!」

「アイシャ、ただいま」

「おかえり、なさい……えへへ。わたし、ちゃんとお留守番できたよ?」


 えらい? えらい? というような感じでこちらを見る。

 そんなアイシャの頭をなでなでした。


「うん、アイシャは偉いね。すごくがんばったね」

「えへへ」


 アイシャの尻尾がぶんぶんと横に大きく振られる。


「おつかれさま、スティアートくん。それと、娘のことをありがとう」

「いえ、そんな……! 当たり前のことをしただけですから!」


 エミリアさんに頭を下げられてしまい、ちょっと慌ててしまう。

 そんな僕を見て、エミリアさんは微笑ましそうな顔に。


「やっぱり、ソフィアにはスティアートくんが一番ね。大丈夫です。今回のことで、旦那さまも目を覚ましてくれたでしょうから」

「それなら、うれしいんですけど……って、この有様はいったい?」

「ああ、それがですね。旦那さまは、孫娘のアイシャちゃんの魅力にやられてしまいまして」

「え?」

「旦那さまは鈍いというか、他のことに目がいかないというか……今まで、アイシャちゃんのことが孫娘だとは気がついていなかったようで。それで、さきほどそのことを理解されて、「おじーちゃん」と呼んでもらい……それで即アウトですね」

「な、なるほど」


 僕は、まだまだ子供なのだけど……

 それでも、エドワードさんの気持ちはわかるような気がした。


 孫に対して、祖父母はとことん甘くなると聞くし……

 なによりも、アイシャはかわいい。

 とんでもなくかわいい。

 その上、優しくて素直で良い子で、まるで天使のよう。


 そんなアイシャが孫娘となれば、あのエドワードさんといえどデレデレになってしまうだろう。


「って、そうじゃなくて」


 エドワードさんの豹変っぷりも確かに気になるけど、それ以上に見過ごしてはいけない問題がある。


「あちらこちらが荒れていますけど、これはどうしたんですか?」

「……そうですね。それについては、また後で話しましょう。ひとまず、撃退は完了しましたから」

「撃退……?」

「今は、ゆっくりと休んでください。とても疲れたでしょう?」

「でも……」

「アイシャちゃんも寝ていないので、一緒に寝た方がいいですよ」

「……わかりました」


 アイシャのことを持ち出されたら、断ることはできない。

 とても気になるのだけど……

 ひとまず、お言葉に甘えて屋敷で休むことにした。

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◆◇◆ お知らせ ◆◇◆
さらに新作を書いてみました。
【おっさん冒険者の遅れた英雄譚~感謝の素振りを1日1万回していたら、剣聖が弟子入り志願にやってきた~】
こちらも読んでもらえたら嬉しいです。
― 新着の感想 ―
[良い点] 半年前にも書いたが、改めて書かせてもらいます。 アイシャ・・恐ろしい子・・!
[一言] 取調べに協力する時に、 「まず第一にソフィアの無事を、アスカルト家に伝えて欲しい」 と伝言を頼まないのは不自然で、取調べた組織の方も、依頼されなくても伝令を走らせるのが常識でしょう。 エド…
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