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136話 魔剣士

「黎明の同盟……? 魔剣士……?」


 聞いたことのない言葉に、思わず眉を潜めてしまう。


 奴隷にされていた期間はあるのだけど……

 一応、僕の冒険者歴はそれなりに長い。


 色々なことを聞いて、色々な情報を頭に叩き込んできた。

 でも、その中にない単語だ。


「なんのこと? っていう顔をしているねー。うん。そうだよね、普通わからないよねー。だから、ちょっとだけ教えてあげる」

「え、教えてくれるの?」


 意外だ。

 こういうことは、普通、秘密にするものじゃないのかな?


「ボク、優しいから。今回は特別サービス。聞きたいことを聞いていいよ? まあ、全部の質問に答えられるわけじゃないけどね」

「なら……魔剣っていうのは?」

「んー……どこまで言っていいものかな? 簡単に言うと、聖剣と対をなす存在だよ。聖剣が人々の祈りを力とするなら、魔剣は負の感情を力とする」

「なんで、そんなものが?」

「とある存在によって生み出されたんだけど……詳細は秘密♪」


 パチンとウインクをされて、かわいらしく拒絶されてしまう。

 なんていうか、掴みどころのない女の子だ。


「魔剣士っていうのは……魔剣を使う存在のこと?」

「うんうん、正解。ちなみに、ボクは第三位なんだ」

「三位?」

「組織内の序列だよ。えへん、ボクはけっこう偉いのさ」


 第3位ということは……

 最低でも、あと二人は魔剣士がいるというわけか。


 それは、レナよりも強いのだろう。


「黎明の同盟っていうのは?」

「ぶっちゃけると、テロ組織」

「本当にぶっちゃけたね……」

「一応、ボク達なりの大義というか正義はあるんだけど、でもそれは、今の秩序を破壊するようなものだからねー。傍から見れば、テロ組織以外の何物でもないんだよね、あははは」


 テロ組織と認めつつ、あっけらかんと笑ってしまうその根性は素直にすごいと思う。


「目的を話してもらうことは?」

「んー、今はそれはできないかな? まあ、おまけして話すとしたら、魔剣の増産。それと、魔剣士の育成……かな? いずれ来る戦いに備えて、ね」


 たったの一本で、扱う者によっては剣聖に匹敵するほどの力を得ることができる。

 そんなものを増産されたら、とんでもないことになってしまう。


 レナが言うテロ組織という意味を理解した。


「……」


 ふと、思う。


「もしかして、アイシャは魔剣に関係がある?」

「アイシャ? 獣人の女の子?」

「うん。犬……というか狼? の耳と尻尾が生えた、小さな女の子」

「あー……うん、そうだね。おもいきり関係があるね」

「やっぱり……」

「よくわかったね?」

「前に魔剣を持っていた相手……ドクトルが、アイシャにやけに執着していたみたいだから。それで、関連があるのかな、って」

「そっか……それは失敗だなあ」


 アイシャが関連していることは知られたくなかったらしい。

 レナは苦い顔に。


「それについて教えてもらうことは……」

「んー……ダメ。そこまでサービスしたら、さすがに怒られちゃう」

「そっか。ならいいや」

「ずいぶんあっさりと引き下がるんだね?」

「教えられない、って言っているから。無理矢理にでも聞きたいところだけど……でも、ボクはレナに勝てない」

「……へぇ」


 レナがとても面白そうな顔になる。


「どうしてそう思うの?」

「なんとなく、かな?」


 こうしてレナと対峙していると、全身が震えてしまいそうになる。

 今の彼女は、普段は隠しているであろう圧を隠しておらず……

 恐怖で失神してしまいそうなほどのプレッシャーがあった。


「そっか、そっか。ボクには勝てないって、理解しているんだ」

「なにもしていないのにそんなことを言うなんて、幻滅した?」

「ううん。むしろ、より評価が上がったかな? 相手の力をきちんと見極めることができる。これは、戦士にとってとても大事なことだよ。ボク、ますますフェイトのことが気に入っちゃった」


 そう言って、レナは笑う。

 お世辞とかそういうものではなくて、本心からの言葉みたいだ。


「でも、どうして色々と教えてくれるの? レナがテロ組織に所属しているなら、ボクは余計な目撃者で、普通に考えて始末した方が早いんじゃあ?」

「そうなんだけどね? でも、ボクはフェイトのことが気に入っているんだ。とてもまっすぐなところ。優しいところ。そして……強いところ」

「えっと……僕は大して強くないよ?」

「今はね」


 レナは微笑みを浮かべる。

 まるで、未来を見通しているかのような不思議な笑みだった。


「ボクの勘が告げているんだ。フェイトは、いずれとんでもなく強くなる。世界最強になって、剣神の称号を得るかもしれない」

「まさか……」

「ボクの勘は、けっこう当たるんだよ?」

「……」


 そんなことを言われても実感がわかない。


「だから、できる限りのことは話しているんだ。それで……できれば、ボク達の仲間になってくれるとうれしいな」

「え?」


 思わぬ提案に、ついつい目を丸くしてしまう。


「どうどう? ボク達の仲間にならない?」

「えっと……いきなりそんなことを言われても」

「仲間になれば全部を話すし、色々と特典もあるよ。今なら家とメイドさん付きで、お給料もアップ!」

「どういう勧誘……?」

「で……ボクの彼氏になって」


 ごほっ、と咳き込んでしまう。


「前も言っていたけど、そ、それは本気なの……?」

「もちろん」


 レナは即答した。

 ウソをついている様子はない。


「ボク、フェイトのことが気に入っちゃった。一時はがっかりしたこともあるんだけど、でも、それは昔の話。今はすごくすごく気になってて……うん、これは恋だね。ボク、フェイトが好きになっちゃった」

「え、えっと……」


 女の子から好意を向けられるなんて、ソフィア以外に初めてだ。

 思わずしどろもどろになってしまう。


「ねえねえ、ボクと付き合おう? ボク、こう見えて尽くすタイプだよ? フェイトのためにおいしいごはんを作るし、お掃除もがんばるよ。もちろん、えっちなこともしてあげる♪」

「ごほっ!?」


 とんでもないことを言われてしまい、さらに咳き込んでしまう。

 いけない。

 レナのペースに乗せられてしまっている。


「いや、その、えっと……」

「ダメ? 本当になんでもするよ? フェイトがちょっと常識じゃない性癖でも、ボクは受け入れるよ?」

「そ、そんなことはないけど……あ、いや。そうじゃなくて」

「うん」

「僕は……ごめん。心に決めた人がいるから」


 レナがテロ組織の一員だとしても。

 僕に向けてくれる好意は本物のように感じたから、こちらも誠実に答える。


「僕は、他に好きな女の子がいるんだ」

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◆◇◆ お知らせ ◆◇◆
さらに新作を書いてみました。
【おっさん冒険者の遅れた英雄譚~感謝の素振りを1日1万回していたら、剣聖が弟子入り志願にやってきた~】
こちらも読んでもらえたら嬉しいです。
― 新着の感想 ―
[一言] ある意味キモいレナ嬢の告白にフェイトくん、よく言った!!
[良い点] 凄い娘ですね ・・・ レナは ・・・ ソフィアより先に出会うには同郷に生まれ落ちるしかない訳ですが、それは巡り合わせなので ・・・ フェイトがソフィアと再会する前の、暗黒の奴隷時代から…
[気になる点] 気のせいだろうか。 フェイトとレナのこの会話を”ある人物”が聞いていて、 ゴゴゴゴゴゴゴゴとオーラ全開で、嫉妬と怒りが混ざり合って、本来なら剣聖+”デレ”なのだが、今は剣聖+”ヤンデレ…
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