135話 ボクのものになって?
「誰だ!?」
突然の声に、慌てて振り返る。
「やっほー」
「……レナ?」
この場にそぐわない呑気な挨拶をするのは、レナだった。
街の食堂で出会った女の子。
一度しか顔を合わせていないのだけど……
いきなり告白? をされたものだからよく覚えている。
「どうしてここに?」
剣を構えつつ、問いかける。
女の子に剣を向けるなんて……
と思わないのでもないけど、でも、レナは別だ。
こうして対峙しているだけでイヤな汗が止まらない。
まるで猛獣が目の前にいるかのようだ。
いや……猛獣で収まるだろうか?
それ以上のなにか。
それこそ、物語の中に出てくる悪魔や魔王というような、そんな類の存在に思えた。
そんな僕を見て、レナが不満そうな顔に。
「むうー。今はその気になっているとはいえ、その反応は傷つくなあ」
「え? あ……その、ごめんなさい」
「……」
頭を下げると、レナがぽかんとなる。
そして、大きな声で笑い始めた。
「あはっ、あははは! そこで素直に謝っちゃうの? もう、どこまでお人好しなのさ。あはははっ」
「そこで笑われても……」
「ごめんごめん。でも、フェイトがあまりにも予想外のことをするんだもん。フェイトのせいだよ? うん、フェイトが悪い」
「えぇ……」
「うーん、やっぱりフェイトはおもしろいなあ。是が非でもボクのものにしたくなってきたけど……まずは、その前に」
「え?」
蜃気楼のようにレナが消えてしまう。
幻と話をしていた?
いや、そんなわけがない。
いったい、どこへ……
「はい、回収完了」
「なっ……!?」
いつの間に回り込んだのか、レナは後ろに移動していた。
その手には魔剣が握られている。
「それをどうするつもり!?」
「今は回収するだけだよん」
「回収……?」
「この魔剣は、ボク達が提供したものだからね。レンタル形式だから、後で返してもらうのは当然だよね? そこそこのやつを渡したし、うまいこと剣聖を誘拐できたから、聖剣を手に入られると思ったんだけど……うーん、ダメか。魔剣のせいで理性とかぶっ飛んでるし、本来の性格とは大幅に違っているし、ダメだよねー。やっぱ、適正のない人が使うと狂人になっちゃうか」
ということは、アイザックの本当の狙いはソフィアじゃなくて聖剣?
「レナ、キミはいったい……」
何者なんだ?
以前会った時は、高位の冒険者だと思っていた。
見た目はかわいい女の子だけど……
でも、とんでもない実力者という展開もある。
身近に、そういう例があるし。
でも、彼女は冒険者なんかじゃない。
それ以上の存在というか……
今まで出会ったことのタイプの人だ。
「やだなあ。私は、どこにでもいるような普通の冒険者だよ?」
「……」
「そんなわけないだろー、っていう目だね。うん。そうだよねー、今更、それは通用しないか」
考えるような仕草。
ややあって、レナはニヤリと笑う。
「んー……そうだね。せっかくだから自己紹介しておこうか」
レナが軽く手を振ると、その手に持っていた魔剣が消えてしまう。
いったいどこに……?
僕の驚きを気にすることなく、レナは優雅に一礼してみせる。
そして、己の正体を告げた。
「ボクは、レナ・サマーフィールド。『黎明の同盟』に所属する、魔剣士だよ」
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