133話 今なら
ドクトルが所有していたものと形状は異なるけれど……
アイザックが持つ剣は、確かに魔剣だった。
アイザックがニヤリと、悪意たっぷりの笑みを浮かべる。
「ほう、魔剣のことを知っていますか。少しは学があるようですね」
「どこで、それを……?」
「素直にしゃべるとでも?」
「だよね」
僕は、改めて剣の柄を強く握る。
「なら、力づくで吐かせてみせる!」
魔剣についての情報は大して持っていない。
わかっていることは、すごい力がある、ということだけ。
普通に考えるなら最大限に警戒をして、まずは様子を見なければいけない。
きっと、それが最善だと思う。
でも、僕はあえて踏み込むことにした。
先手を打ち、こちらから攻撃をしかける。
「神王竜剣術、壱之太刀……破山っ!!!」
天を突くように剣を構え、一気に振り下ろす。
ギィンッ!!!
アイザックは、こちらの一撃をしっかりと受け止めてみせた。
そして反撃に……
「まだまだ!」
「くっ」
反撃に移る間を与えず、連続で剣を叩き込んでいく。
下から上に跳ね上げる。
そこから斜め下に薙ぎ払い、体を回転させつつ、剣の腹をぶつける。
連続して突きを放ち、時折、蹴撃も織り交ぜてやる。
「く……この卑怯者め! 剣だけで戦わないか!」
「戦いに卑怯もなにもないよ!」
アイザックが吠えるけど、それは全て無視。
僕は、ひたすらに攻撃を繰り返して、ありとあらゆる角度から斬りつけてやる。
そうやって戦闘を続けることで理解した。
アイザックは怖くない。
魔剣を持っていたとしても、大して強くない。
ドクトルは強敵だった。
元冒険者ということで、かなりの戦闘技術を有していた。
そのため、魔剣の力を全開に引き出すことができて、僕とソフィアの二人がかりでないと倒せないほどだった。
でも、アイザックは違う。
剣は学んでいるみたいだけど、圧倒的に技術が足りていない。
実戦経験が少なすぎる。
そんなことで魔剣の力を引き出すことはできない。
「やっぱりだ」
「なに?」
「あなたは、大して怖くない。ドクトルと対峙した時と違って、なにも感じない。うん……大したことはない」
「貴様っ、この俺を愚弄するか!?」
「事実を述べたまでだよ」
「殺すっ、貴様だけは俺の手で殺してあげますよ!」
激高したアイザックは、でたらめに魔剣を振り回してきた。
怒りのせいで集中力が落ちていて、精度がとても甘い。
こんな剣に当たる気はしない。
こんな簡単な挑発にかかってしまうなんて……
うん。
本当に大したことはなさそうだ。
「ソフィアを返してもらうよ」
「貴様とて、自分のもののように言うではありませんか!?」
「僕とソフィアの心は同じだって、そう断言できるから」
わがままな考えかもしれないけど……
でも、ソフィアに関してだけは、そう言うことができる。
そう確信している。
だって彼女は……
「ソフィアは、大事な幼馴染なんだから!」
「このガキがぁっ!!!」
「神王竜剣術、四之太刀……」
剣を鞘に戻した。
ただし、手は柄に添えたまま。
深く、深く構える。
すぅうううと、息を吸う。
それと同時に力を貯めて、貯めて、貯めて……
一気に解き放つ!
「蓮華!」
超高速の抜剣術。
ちゃんと教えられたわけではなくて、見様見真似のものだけど……
それでも、成功した。
風を巻き取るように放つ刃が、アイザックの脇腹を撃ち抜く。
彼はまったく反応することができなかった。
「がっ……!?」
小さな悲鳴。
それと、肺から強引に空気が絞り出される音。
アイザックはぐらりとよろめいて……
そのまま、白目を剥いて倒れた。
さすがに殺すのはどうかと思うから、一応、刃は立てていない。
「……ふう」
アイザックが完全に気絶していることを確認してから、雪水晶の剣を鞘に戻した。
「おー、フェイトってば、めっちゃ強くなってるじゃない。なんか、あたしの予想を上回る成長速度?」
「この前の、ソフィアとの稽古がよかったんだと思うよ」
「なにしたかわからないけど、ボロボロになるまでやってたからねー。そこまでがんばれるのは、素直にすごいと思うわ。フェイトって、努力の天才なのね」
「そうかな?」
「そうよ。このリコリスちゃんが褒めてあげているんだから、少しは誇りなさい」
「うん。ありがとう、リコリス」
これで障害は排除した。
あとはソフィアを助けるだけなのだけど……
「その前に、魔剣を回収しておこうか」
ドクトルの魔剣は砕け散ってしまったけど、幸いというべきか、アイザックの魔剣は無傷だ。
こんなものを放置することはできないし……
鑑定などをすることで、なにかしら得られるものがあるかもしれない。
そう思い、僕は魔剣に手を伸ばして……
「うーん、それを回収されるのはちょっと困るかな?」
ふと、そんな声が割り込んできた。
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