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131話 孫

「なん……だと!?」


 衝撃的な事実を告げられて、エドワードは目を大きくした。


 いや。

 衝撃的というわけではない。

 フェイトとソフィアは隠すようなことはしていないし、まったく気づいていないのはエドワードくらいだ。

 フェイトに固執するあまり、他に目がいっていなかったのだろう。


「あ、あの小僧……儂のソフィアに手を、だ、出していたというのか……!?」

「好き合っているのですから、手を出していたとしても不思議ではありませんよ。二人共、もう子供ではないのですから」

「ぐ、ぐぬぬぬっ……!」


 エドワードの怒りが爆発しようとするが、


「ただ、まだそういう関係には発展していないのでしょうね」


 エミリアの一言で、怒りが保留される。


「どういうことだ?」

「ソフィアは、ああ見えて、そういうことに関しては奥手ですから。そういう雰囲気になっても恥ずかしがり、自分からは行動できないと思いますよ。スティアートくんは、とても誠実な子なので、結婚するまでは……なんて考えているのではないかと」

「仮にそれが正しいとしたら……この子はどういうことだ? 二人の……娘、なのだろう?」

「その辺りは、まだ詳細を聞いていないのでわかりませんが……養子ということでは?」

「むう」

「そもそも、種族が違いますよ? 血の繋がりがないことは明白だと思いますが」

「……」


 そういえば、と今更ながら気づいた様子で、エドワードは再び目を丸くした。


「ですが、ソフィア達にとって血の繋がりは関係ないのでしょうね。アイシャちゃんを見ていれば、とても愛されていることがわかります」


 そう言うエミリアは、とても優しい顔をアイシャに向けていた。

 そんな視線を感じ取ったアイシャは、エミリアを優しい人と認識する。


「おいで」

「……ん」


 エミリアが両手を広げると、アイシャそこにすっぽりと収まる。

 少しおどおどしているのだけど、


「よしよし」

「んぅ」


 頭を撫でられるとすぐに心を許したらしく、尻尾をうれしそうに振る。

 時折、わんっ、と小さく鳴いていた。


 そんな二人を、エドワードはどこかうらやましそうに見る。

 そして、そんな自分に気がついて愕然とする。


 儂は、妻と小娘のやりとりを見て、うらやましいと思っていたのか?

 儂もああしたいと、そう思っていたのか?


 エドワードの中で妙な葛藤が生まれて……

 そんな夫を見たエミリアは、今度はエドワードの方に向けて、アイシャの背を軽く押す。


「旦那さまがアイシャちゃんとコミュニケーションをとりたいみたいなので、声をかけてあげてくれませんか?」

「あう……」


 アイシャは迷うような感じで、尻尾をしゅんとさせた。


 そんな反応を見て、エドワードは、胸に矢を受けたような衝撃を覚える。

 味わう感情は……悲しみ。

 ひたすらの悲しみ。


 なぜだ?

 なぜ儂は、たかが小娘に拒絶されたくらいで落ち込んでいるのだ?


 わけのわからない感情に、エドワードは動揺してしまう。


「アイシャちゃん、大丈夫ですよ。ああ見えて、旦那さまは子供が好きなので」

「う?」

「ほら、旦那さまも怖い顔をしないでください。緊張しているのはわかりますが、孫の前ですよ?」

「……孫……」


 それは、とても甘美な響きだった。

 自然と体の力が抜けていき、心が温かいもので満たされる。


「……おじーちゃん?」


 アイシャは首をコテンと傾けつつ、確認するようにそう言った。


「っ!!!?」


 エドワードは胸元を押さえて、ぐらりとよろめいた。


 おじいちゃん。

 なんていう破壊力だろうか。

 たったの一言で、剣術道場の師範とあろうものが倒されてしまいそうになるなんて。


「大丈夫?」


 ふらついたエドワードを心配するように、アイシャはとてとてと歩み寄ってきた。

 その仕草がたまらなくかわいい。

 どこか小動物に似ていて、永遠に見ていることができそうだ。


「う、うむ……儂は大丈夫じゃ」

「んー」


 アイシャは心配そうにした。


 なにかを考えるような仕草を取り……

 ややあって、閃いた様子で笑顔になる。


 小さな両足をいっぱいに伸ばして、エドワードの胸元に手をやる。

 そして……


「いたいのいたいの、とんでけー」


 両親にたまにしてもらうおまじないをした。


「元気になった?」


 アイシャは得意げだった。

 これなら大丈夫、と思っているらしい。


 そんな孫娘を見て、エドワードは……


「……尊い……」

「ふぁ?」

「うむ、うむ。ありがとう、アイシャ。おかげで助かった。このようなことができるなんて、アイシャはかわいいだけではなく、すごい子なのじゃな」


 エドワード、陥落。

 いかなる頑固者であろうと、孫に勝てる老人はいない。


 孫娘の魅力にすっかりやられてしまったエドワードは、にへら、という決して弟子には見せられない情けない顔になる。


 今のエドワードは怖くない。

 むしろ、優しそうだった。


 なぜそんな風になったのか?

 アイシャはさっぱりわからなかったが……

 ただ、優しいならそれでいいや、と途中で思考を放棄した。


「おじーちゃん♪」

「おー、よしよし」


 祖父に甘えるアイシャ。

 初孫ができたことを実感して、これ以上ないほどに甘やかそうとするエドワード。

 そんな二人を見て、エミリアはやれやれと苦笑するのだった。

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◆◇◆ お知らせ ◆◇◆
さらに新作を書いてみました。
【おっさん冒険者の遅れた英雄譚~感謝の素振りを1日1万回していたら、剣聖が弟子入り志願にやってきた~】
こちらも読んでもらえたら嬉しいです。
― 新着の感想 ―
[良い点] アイシャ・・恐ろしい子・・!
[一言] おじいちゃん「今のワシなら魔王をも単騎で倒せる!!」
[一言] ?なんか精神系攻撃受けてたのか?
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