128話 顔合わせ
一週間後。
ソフィアは、実家の自室にいた。
ドレスに着替え、きらびやかな装飾品で身を飾っている。
「わぁー……おかーさん、きれー!」
アイシャはキラキラと目を輝かせて、尻尾をブンブンと横に振っていた。
その気持ちはよくわかる。
今のソフィアは、地上に舞い降りた女神のようだ。
全身が宝石のようにキラキラと輝いている。
それでいて嫌味な感じはなくて、自然体。
彼女の魅力は何倍にも増していて、視線を離すことができない。
ずっとずっと、いつまでも見つめていたい。
「はう……」
ソフィアが耳まで赤くなり、両手で顔をおさえてしまう。
あれ、どうしたのだろう?
「フェイト。あんた今、全部、言葉にしてたわよ」
「えっ」
しまった、なんていう失敗をしてしまったんだ。
あわあわと慌てる。
「えっと、その……ごめんね、ソフィア」
「い、いえ、私は気にしていないので……」
「でも、ウソとかお世辞とか、そういうわけじゃないから! 全部、本気だから! あまりに綺麗なものだから、それで、ついつい本音がこぼれて……」
「うぅ……フェイトは、私を恥ずかしさのあまり殺そうとしているのですか? それとも、喜ばせすぎて昇天させようとしているのですか?」
「あれ?」
謝罪して、落ち着かせるつもりが、ソフィアはさらに赤くなってしまった。
なんで?
「いい、アイシャ? あんたの父親と母親は、バカップル、っていうの。はい、復唱」
「ばかっぷる?」
「うん、それでよし」
「「変なことを教えないで!!」」
――――――――――
きらびやかなドレスに身を包んだソフィアは、屋敷で一番の客間に移動した。
そして、ため息。
「顔合わせとはいえ、わざわざこのような格好をしないといけないのは、あまり気が進みませんね」
フェイトのためならば、いくらでも、喜んで着飾ろう。
最大限にメイクをして。
限界突破をして綺麗になってみせよう。
しかし、今回は違う。
見ず知らずの相手に、このドレス姿を見せなければいけない。
そのことが、ソフィアのテンションを著しく低下させていた。
「そういえば……」
許嫁の名前を聞き忘れていた。
いったい、どこの誰なのだろうか?
少しくらい八つ当たりをしても構わないだろうか?
物騒なことを考えていると、扉がノックされる音が響いた。
「はい」
「失礼します」
姿を見せたのは、二十代半ばくらいの男だった。
立派な服で身を飾っているが、それに負けないくらい、顔は綺麗に整っていた。
眼鏡をかけているからか、その笑顔はとても穏やかなものに見えた。
事実、男はゆっくりと、落ち着いた仕草で礼をする。
「ソフィア・アスカルト嬢ですね? はじめまして。俺は、アイザック・ニードルと言います。よろしくおねがいします」
「ソフィア・アスカルトです」
ソフィアは立ち上がり、同じく礼を返した。
それから、互いに向き合うように席に座る。
ひとまず、笑顔で雑談を交わす。
当たり障りのない内容の会話だけど、これは相手の出方をうかがうようなもの。
まずは、どのような性格なのか見極める。
許嫁の話は断ること前提ではあるが……
もしも性格が良く、長けた能力を持っているのならば、ここで繋がりを作っておいた方がいいだろう。
そう判断してのことだ。
それにしても……?
ソフィアは、心の中で小首を傾げた。
ニードルという姓は、どこかで聞いた覚えがある。
どこだっただろうか?
おぼろげな記憶を手繰り寄せるものの……
「それにしても」
思い出すよりも先に、アイザックが話題を変えて、意識がそちらに持っていかれてしまう。
「ソフィアさんは、とても聡明な女性なのですね」
「あら。そんな言葉をいただけるのはうれしいのですが、どのような根拠で?」
適当を言うのなら叩く。
そんな想いを心の中に隠しつつ、ソフィアは笑顔で問いかけた。
「今、俺のことがどのような人間なのか、推し量っているでしょう?」
「……なんのことでしょうか」
「ごまかさなくていいですよ。その目。それと、話のテンポ……俺のことを見定めているとしか思えませんからね」
「鋭い観察眼を持っているのですね」
「恐縮です。俺は父の仕事を手伝っているのですが、その性質上、自然と目が鍛えられまして」
「なるほど……」
油断のならない男だ。
そう思う一方で、ソフィアはアイザックの評価を上方修正した。
思っていた以上に頭の回転が早い。
(でも……)
アイザックならば、ソフィアにその気がないことはすでに気がついているだろう。
それなのに話を続けるのは、どういう意図があってのことか?
しばらくは話をしなければいけないと、ソフィアに付き合ってくれているからなのか。
あるいは、同じようにソフィアを見定めているのか。
もしくは……最悪の可能性ではあるが、ソフィアを気に入り、なんとしても手に入れようと機会をうかがっているのか。
どうにも判断がつかず、ソフィアは小さな吐息をこぼした。
「ところで、ソフィアさんはワインはお好きですか?」
「ワイン、ですか?」
「とても良いワインが手に入ったので、ぜひ、ソフィアさんと一緒に飲みたいと思いまして」
「えっと……そうですね。なら、少しいただきます」
断るのも失礼と思い、ソフィアはその申し出を受けた。
アイザックは合図をして、従者と思わしき者にワインを持ってきて、グラスに注いでもらう。
冷えているところを見ると、断られることは考えていなかったのだろう。
「では、そうですね……俺達の出会いに乾杯を」
先にアイザックがワインを飲み、そして、ソフィアもワインを飲んだ。
そして……
「なっ……!?」
ぐらりと、ソフィアの体が揺れた。
「あなたと、あなたの剣をもらいますよ」
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