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127話 うっかり

 フェイトと別れたレナは、何食わぬ顔で街の大通りを歩いて……

 いくらかの細い道に入った後、隠れ家に移動した。


 家の中に入り、はあああ、とため息をこぼす。


「疲れた……あと、危なかった……」

「やけに疲れているようじゃな」


 隠れ家には、すでにリケンの姿があった。

 優雅にお茶を飲みつつ、くつろいでいる。


「なにか失敗でもしたか?」

「ううん、それは大丈夫。あれこれ聞かれたけど、誰もボクのことを怪しんでいないから。ただ、ごまかすのがめんどくさくて疲れたー」

「なにかミスをしたのではないか?」

「してない、と……思う、よ?」

「したのか……」


 やれやれと、リケンはため息をこぼした。


 レナは優秀で、その戦闘力はリケンを超える。

 しかし、諜報活動に関しては、やや不安を覚えるくらいの能力だ。

 今回のようなミスをすることは多い。


「だ、大丈夫! ちょっと騎士団と接触することになったけど、怪しまれていないし」

「本当か?」

「本当、本当! あと、ちゃんと魔剣も処分しておいたよ」


 男が持っていた魔剣は、意味不明に壊れたわけではない。

 魔剣のことをよく知るレナが、自壊コードを発動させたのだ。


 その場面をフェイトに見られたものの……

 魔剣の知識がない彼からしたら、なにが起きたかさっぱりわからないだろう。


「当たり前だ。今はまだ、魔剣のことを世に知られるわけにはいかぬ」

「だよねー。魔剣は聖剣の対となる存在……聖剣が世界を救うのなら、魔剣は世界を壊す。物騒極まりないからねー」

「我らにとっては、こんなまがい物の世界は壊す以外の選択肢はない」

「まあねー」

「聖剣の方はどうだ?」

「あー……それね。やっぱりダメ。量産型の魔剣……しかも、使い手は適当極まりないザコ。それじゃあ、聖剣をどうにかすることはできないよ」

「ふむ……できることならば、聖剣も我らのものとしておきたかったが、剣聖が手にしているのならば仕方ないか」

「フェイトにも負けちゃうくらいだからねー」

「それで……作戦は、次の段階へ進めていいのじゃな?」

「うん、大丈夫。次は、あの男を使おう」

「了解じゃ。しかし……ミスをしたという割には、うれしそうじゃな?」

「そうかな? そうかも。えへへー」


 レナは無邪気に笑う。


「ボク、本気でフェイトが欲しくなってきたかも」




――――――――――




 ややスッキリしない結末ではあったものの……

 でも、街を騒がせていた漆黒の剣鬼を討伐することができた。


 すでに被害に遭った人については、安らかにとしか言えないのだけど……

 でも、これ以上の被害が出ることはない。

 それは幸いというべきだろう。


 騎士団の調査に協力しつつ、事情を知り、駆けつけてきた冒険者ギルドの職員、それとギルドマスターに色々と説明をした。

 結果、僕は依頼を達成したと判断された。


 そして……


「というわけで、巷で話題になっていた漆黒の剣鬼は、フェイトが討伐いたしました」

「うぐ……」

「漆黒の剣鬼は、数々の冒険者を手にかけてきた実力者。その漆黒の剣鬼を倒したフェイトは、力があるという証明になりますね」

「むぐ……」

「そしてなによりも、フェイトは街の人のために戦いました。その心、想いは称賛させるべきだと思いますが」

「うぐぐぐ……」


 場所は、再びソフィアの実家。


 事件を解決した後、エドワードさんとの面会を約束することができて……

 話をしに行ったところ、ソフィアが得意そうな顔で今回の事件のことを語り始めた。


「これでもまだ、フェイトのことは認めないと言うのですか?」

「ぐうううううっ……!」


 反論する隙を与えられず、エドワードさんがとても悔しそうに唸る。

 そして、僕のことを、ものすごい目で睨みつけてきた。


 いや、あの……

 なんか、ごめんなさい。


「ソフィア、そういう話ならやめておこう」

「え? ど、どうして止めるのですか? 今回の事件で、フェイトは決定的な手柄を立てることができたのですよ? それなら……」

「がんばってくれるソフィアには悪いんだけど、でも……やっぱり、今回の事件を利用するようなことはしたくないんだ」


 少ないものの、すでに犠牲者が出てしまっている。

 それなのに、事件を利用するようなことをしたら……

 僕は、とんでもない愚か者になってしまうような気がした。


 そんな胸の内を話すと、ソフィアは目を丸くして、次いで、仕方ないなというような優しい顔をした。

 その隣で、エドワードさんが驚いていた。


「エドワードさんに認めてほしいけど、でも、もうちょっとまっすぐな方法をとりたいんだ。強い魔物を倒すとか、難しいダンジョンを踏破するとか。今回の事件も、手柄と言えなくもないけど……でも、犠牲者が出ているし、そのことを利用するのは不謹慎だと思うんだ」

「そうですね……すみません、フェイト。私が間違っていました」

「ううん。ソフィアは、僕のことを考えてくれたわけだから、怒ることなんてできないよ」

「はい」


 ソフィアはうれしそうにして、


「……むう」


 エドワードさんは、眉間にしわを寄せていた。

 怒っているのだろうか?

 それにしては、いつもの怒鳴り声が飛んでこないのだけど……


「……小僧」

「は、はい」

「……小僧が倒した男は、儂と因縁のある男だった」

「え?」

「そうなのですか?」


 思わぬ事実を告げられて、僕とソフィアは目を丸くして驚いた。


「うむ。ヤツは以前は冒険者ではなくて、街の行政に関わっていた。しかし、ろくでもない輩に騙され、地位を失い、冒険者となった……そのことで儂を恨んでいてな」

「それは、逆恨みでは……?」

「そうだな。しかし、恨まずにはいられなかったのだろう。誰かに怒りをぶつけることで、心の正常を保っていたのだろう。そして……どこの誰か知らぬが、そこに付け入られた」

「……」

「放っておけば、妻やソフィアにも害が及んでいたかもしれん。その点については、礼を言おう……ソフィア」


 少し考えるような間を挟んだ後、エドワードさんが静かに呼んだ。


「どうしても、その小僧がいいのか?」

「はい」

「他の男は考えられないのか?」

「もちろんです」

「……」

「私は、フェイトが好きです。子供の頃から、大好きでした。ずっと一緒にいたいと思うほど……世界で一番、愛しています」


 いつもなら、ここでエドワードさんが激怒するのだけど……


「……」


 沈黙を保ったままだ。


「ソフィア」

「はい」

「一週間後、許嫁との顔合わせの場を設ける」

「お父さま! まだ、そのようなことを……」

「顔合わせ、だ。仮とはいえ、そう定めた以上、顔合わせもせずになかったことにすることはできん。だから、一回限りとはいえ話をしてこい。その後は……好きにするといい」

「え? それは、つまり……」

「言っておくが、許嫁をなかったことにするまでだ! それだけだ! そこの小僧との仲を認めたわけではないからな?!」


 なんてことを言っているのだけど……

 少なくとも、今回のことがなければ、エドワードさんの態度は変わらなかっただろう。


 つまり、多少なりとも僕のことを認めてくれたということになる。

 そのことはうれしく、ついつい笑みがこぼれてしまう。


「小僧、なにを笑っている? 貴様を認めたわけではないと、そう言ったじゃろう!」

「はい、ありがとうございます」

「ええいっ、だから認めたわけではないわ! 礼を言うでない!」

「ありがとうございます!」

「くううう……まったく、この小僧は!」


 後ろの方で、


「おとーさん達……仲直り?」

「その一歩手前、って感じかしらねー」


 アイシャとリコリスの、そんなやりとりが聞こえてくるのだった。

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◆◇◆ お知らせ ◆◇◆
さらに新作を書いてみました。
【おっさん冒険者の遅れた英雄譚~感謝の素振りを1日1万回していたら、剣聖が弟子入り志願にやってきた~】
こちらも読んでもらえたら嬉しいです。
― 新着の感想 ―
[良い点] 至誠、岩をも通す。 ソフィアがトスを上げて・・・ナチュラルな言動が人たらし (笑) なフェイトでした。 リコリスもツッコミ兼解説者役で、すっかりフェイト一家のお姉ちゃんポジが板に付いて…
[一言] 許嫁って本当にいたんだ。ソフィアを呼び戻すための口実かと思ってた。
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