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124話 力こそ全て

「どうして、こんなことを!?」


 答えが返ってくるかわからないのだけど、でも、問いかけずにはいられなかった。


 僕達冒険者は、誰かのためにある。

 自分のために力を使うのではなくて、困っている人を助けるためのものだ。


 それなのに、通り魔になるなんて……


「……俺は、強い」


 意外というべきか、返事があった。

 ややかすれた声で、静かに言う。


「力を手に入れた」

「力……?」

「全て、俺の前にひざまずくべきだ……そう、そうでなければいけない。だから、従わない者は斬る……そう、斬らなければいけない。もう二度と、あの男に負けるわけにはいかない。屈するわけにはいかない」


 ぶつぶつと言葉を並べるものの、意味がわからない。

 この人は、いったいなにを言いたいのだろう?


 突然、話が飛んだかと思えば、脈絡のない言葉を並べて……

 意味不明すぎる。

 こんなことを言うのはなんだけど、正気なのだろうか?


「あの男……エドワードを……斬る!」

「なんだって?」


 エドワードさんの関係者?

 だとしたら、いったい……


 目を見る。


 男の目は、川底のヘドロのように淀んでいた。

 見ているだけで、吸い込まれてしまいそうな、そんな錯覚を抱く。


「あなたは、いったい……」

「そう……俺は、勝者になる。ならなければいけない」

「あっ……!? その剣、もしかして……?!」


 男の剣は初めて見るのだけど、しかし、見覚えがあった。

 そんな矛盾した感想。


 漆黒の刃は、わずかに湾曲している。

 赤い宝石がハメこまれていて、血のような輝きを放っている。


 心がザワザワとするような感覚。

 本能的な嫌悪感。


 間違いない。

 これは……魔剣だ。


「あなたは、どこでその剣を……?」

「ウゥ……」

「もしかして、様子がおかしいのは、その魔剣のせい? 魔剣は人を狂わせる……? でも、ドクトルは……」


 いや、まった。

 ドクトルは、一見、正気に見えたけど……

 その行いは狂気以外の何物でもなかった。


 もしかして、ドクトルも魔剣に侵されて狂っていた?


「お前は、俺の正義を邪魔するのだな? ならば、断罪しなければならない。そう、これは世界のためなのだ」

「その剣を捨てろ! その剣は……ダメだ!!!」


 このまま放置したらいけない。

 この人にとっても、他の人にとっても、災厄にしかならない。


 危機感を覚えて、頭の中で警報が鳴る。

 それに突き動かされるまま、僕は前に踏み出した。


「はぁっ!!!」


 全力の上段斬り。

 しかし、敵もさるものながら、しっかりとした動きで僕の攻撃を受け止めてみせる。


 さらに連続で剣を叩き込むものの、全て防がれてしまう。


 男の様子を見る限り、自我があるか非常に怪しい。

 ただ、その技は体に染み込んでいるのか、剣の腕はまったく衰えていない。

 むしろ、魔剣を手に入れたことで、さらに強くなっているみたいだ。


「さあ、死ね!」


 男のカウンター。

 僕の連撃のわずかな隙を突いて、懐に潜り込んできた。

 その勢いのまま、こちらの胸に剣を突き立てようとする。


 速い!


 まるで風のような攻撃だ。

 体を捻り、ギリギリのところで避ける。


 男の攻撃は止まらない。

 今度は自分の番というように、立て続けに剣を振る。


 右から左へ。

 跳ねたように斜め下へ飛び、そこから直上へ跳ね上げる。


 変幻自在の剣筋というべきか。

 速度がすさまじいだけではなくて、動きもトリッキーなため、回避が精一杯だ。


「死ね! 死ね! 死ね!」

「わかりました、死にます……なんて言うわけないよ!」

「ならば……死ね!」

「ああもうっ、会話が成り立たない!」


 説得は不可能。


 倒すか……それとも、殺すか。

 その二択しかないだろう。


 できるのなら、前者にとどめたいのだけど……

 そんな余裕、あるかどうか。


「落ち着け、落ち着くんだ、僕」


 一度距離を取り、深呼吸を一回した。

 そして、ソフィアとの稽古を思い返す。


 敵は強い。

 とてつもなく強い上に、魔剣を持っている。

 想定外の展開だ。


 ただ……


 恐怖はない。

 これくらいなら、ソフィアの方が怖い。

 稽古をした時の方が、何倍も怖い。


「……よし」


 心を落ち着かせることに成功した。

 今なら、多少はなんとかなるはず。


「神王竜剣術・壱之太刀……」


 男が突っ込んできた。

 一瞬で目の前に迫るほどの、脅威的な速度だ。


 でも。


 僕の方が速い!


「破山っ!!!」


 全身全霊の一撃。

 山を断ち割るような、極大の斬撃を繰り出してやる。


 ここまできたら、男の生死を気にする余裕はない。

 できるのならば、という思いはあるのだけど……


 でも、僕の方が格下だ。

 手加減する余裕なんてないし、そんなことを考えれば即座にやられてしまう。


 ソフィアがいる。

 アイシャがいる。

 リコリスがいる。

 僕を待ってくれている人を悲しませないためにも、悪いけど、僕自身を優先させてもらう!

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◆◇◆ お知らせ ◆◇◆
さらに新作を書いてみました。
【おっさん冒険者の遅れた英雄譚~感謝の素振りを1日1万回していたら、剣聖が弟子入り志願にやってきた~】
こちらも読んでもらえたら嬉しいです。
― 新着の感想 ―
[良い点] 僕自身を優先させてもらう! それで良いんです。 死合では何が起こるか分かりません。倒せる時に確実に倒す ・・・ 生き残る為の鉄則です。 [気になる点] 「・・・・・・もしかして、魔剣?」…
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