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114話 小さな事件

 リーフランドの住宅街にある広場。

 緑が多く景色も良い場所で、普段は住民達の憩の場となっている。


 お茶やお菓子を持ち寄り、おしゃべりをしたり。

 子供たちがボールを手に遊んだり。


 いつも和やかな光景が広がる場所なのだけど……

 今朝、その光景は一変した。


 慌ただしい様子を見せる騎士達。

 遠巻きに広場を見る住民達は、一様に不安の表情を浮かべている。


 そして……

 広場の中心には、事切れた遺体があった。




――――――――――




「殺人事件?」


 エドワードが執事よりその報告を受けたのは、事件発生から数時間が経過した、午後のことだった。


 ソフィアに家に戻るように言い、しかし断られて……

 昨日と同じく、壮絶な親子喧嘩を繰り返しそうになりつつも、仕事をしなければいけないためなんとか我慢して……


 簡単な昼食を済ませて、いくらかの書類に目を通している最中に、その報告がもたらされた。


「今朝、住宅街の広場で、明らかな他殺と思われる死体が発見されました。散歩をしていた住民が発見、騎士団に通報。現在は、現場検証が行われています」

「明らかな、ということは、切り傷でもあったのか?」

「はい。詳細は、後ほど騎士団から改めて報告が上がってくると思いますが……目撃者の話によると、事故などでは起きないような、酷い切り傷ができていた、と」

「それは、どういうものなのだ?」

「剣で斬りつけたようなものでありながら、ノコギリを使ったかのように、傷口はズタズタになっていた、と聞いております」

「それは、獣や魔物の類とは違うのか?」

「一応、傷は剣の形となっていたので、人為的な犯行で間違いはないかと」

「ふむ」


 ソフィアを相手にすると、威厳をどこかに捨ててしまうエドワードではあるが、領主としては有能だ。

 キリッとした顔で、事件について考える。


 が、いかんせん情報が少ない。

 現段階では、なんとも言えない。


「騎士団には、念入りに捜査するように伝えろ。それと、街の警備の警戒度を、一段階引き上げるように」

「また事件が起きると考えているのですか?」

「なんとも言えないが、その可能性も考えて行動しておいた方がいいだろう。無論、そうならないことを祈るが」


 エドワードは憂い顔で、窓の外を見上げた。

 空は曇り、今にも雨が降り出しそうだった。




――――――――――




「むう」


 宿の一室。

 紅茶を飲みつつ、しかし心は晴れないらしく、ソフィアは膨れ顔だ。


 エドワードさんに挨拶をしてから、数日。

 未だ僕達の仲は認められていない。


 当然、諦めるつもりはないし、何度でも話をするつもりだ。

 ただ、今は忙しいらしく、面会の機会をもらえないでいた。


 状況が進展しないことに苛立っている様子で、ソフィアの機嫌は悪い。


「おかーさん、元気ない……?」


 そう勘違いしたアイシャが、心配そうにソフィアを見る。


 こんな小さな子に心配をかけてしまった。

 ソフィアは慌てて笑顔を浮かべて、アイシャを抱き寄せて、抱っこする。


「大丈夫ですよ。心配してくれて、ありがとうございます。ふふ、アイシャは優しい子ですね」

「あうー」


 頬をスリスリされて、アイシャはくすぐったそうな顔に。

 でも、とても喜んでいるみたいで、犬尻尾がフリフリと揺れていた。


 いいな。

 僕も、アイシャとスキンシップをしたい。


 でも、アイシャは女の子だから、嫌がるかもしれない。


「おとーさん」


 あれこれ考えていると、今度は、アイシャが僕のところに。

 そして、膝の上に乗り、なにかおねだりするようにこちらを見た。


「……よしよし」

「えへへ」


 正解だったみたいだ。

 頭を撫でると、アイシャは尻尾をブンブンと横に振る。


 そんな僕達を、ソフィアが優しい顔をして見て……

 うん、よかった。

 どうやら、機嫌は直ったみたいだ。


「あんたら、呑気ねー」

「でも、エドワードさんは忙しいみたいだから、今はなにもできないし」

「本当に忙しいのか、疑わしいですけどね。私達の話を聞きたくないために、忙しいとウソを吐いている可能性がありますよ」

「うーん、それはないと思うんだけど」


 ちょっと私情が混じるところがあるみたいだけど……

 基本、エドワードさんはピシリとした立派な人に見えた。

 仕事を言い訳にするようには思えない。


「ま、それなら他の方法を探しておいた方がいいんじゃない?」

「他の方法?」

「認めてもらうのは、話をするだけじゃないでしょ? なんか、こう……大きな手柄を立てるとか。そうしたら、あのおっちゃんも、少しはフェイトのことを認めるんじゃない」

「おー、なるほど」

「リコリスの口から、そんな知的な案が出るなんて、驚きですね」

「ソフィアは、あたしにケンカを売っているの……?」


 リコリスのジト目を無視しつつ、ソフィアが張り切り出す。


「よし! がんばりましょうね、フェイト! まずは街に出て、手柄を立てるための話がないか、情報収集をしましょう」

「うん。ソフィアのため、アイシャとリコリスのため、がんばるよ」

「それでこそ、私の大好きなフェイトです♪」


 ソフィアは頬を染めつつ、にっこりと笑うのだった。

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◆◇◆ お知らせ ◆◇◆
さらに新作を書いてみました。
【おっさん冒険者の遅れた英雄譚~感謝の素振りを1日1万回していたら、剣聖が弟子入り志願にやってきた~】
こちらも読んでもらえたら嬉しいです。
― 新着の感想 ―
[気になる点] 凶器ってまさかの「鉈」⁉︎ [一言] うわぁ・・・リーフランド編だけでもフェイト君のメインウエポンをベコベコのオリハルコンバットに変更です。対抗手段はそれしか有りません。(断言) 剣聖…
[一言] 中々仕留められない、しぶとい父親w
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