112話 ライバル誕生
「……今、なんて?」
僕の聞き間違いじゃなければ、レナは……
「ボクと付き合ってよ」
聞き間違いじゃなかった。
「えっと、いや、えっと……えぇ!?」
「あはは、驚きすぎだよー」
「そ、そう言われても……」
女の子から告白されるなんて、十数年ぶり。
というか、ソフィア以来だ。
驚いて、慌ててしまうのも仕方ない。
「うわ……フェイトってば、ソフィアがいるのに、他の子にモーションかけていたわけ? サイテー」
「おとーさん、サイテー?」
「そうよ。あんたのパパは、やっちゃいけないことをしたの」
「待って待って待って!」
お願いだから、誤解をしないでほしい。
あと、アイシャにとんでもないことを吹き込まないでほしい。
「僕はなにもしていないよ! そもそも、レナとは会ったばかりなんだから」
「本当に? 実は以前に、っていう展開はない?」
「ないよ!」
「即答ね……ま、信じてあげますか」
「ほ……」
リコリスが信じてくれて、安堵の吐息がこぼれた。
彼女のことだから、おもしろおかしく囃し立てるかと思ったのだけど……
アイシャのことを考えてくれているらしく、それはしないみたいだ。
助かる。
「というか……君は」
「レナ、って呼んで♪」
「……サマーフィールドさんは」
「レナ♪」
「……レナさんは」
「呼び捨てで♪ でないと、あることないこと言いふらすぞ」
この子は、悪魔だろうか?
「レナは、本気なの?」
「もちろん、本気だよ。ボク、フェイトのことを気に入っちゃった」
「だからって、いきなり告白なんて……普通は、もっとこう、色々と段階を踏んでいくものじゃないかな?」
「フェイトってば、価値観が古いなー。でも、そういうところもいいね」
にっこりとレナが笑う。
無邪気な笑顔で、ウソを吐くような子には見えない。
だから、告白も本当なのだろう。
でも、なんで僕?
物語に出てくるような英雄ではないし、二枚目でもない。
どこにでもいるような、普通の男なんだけど……
「一目惚れ、に近い感じかな? フェイトと一緒にいたら、すごく楽しそうだからね! だから、ボクと付き合おう?」
「そんなことを言われても……」
「ボク、こう見えて、けっこう尽くすタイプだよ? フェイトのためなら、毎日、おいしいごはんを作るし、お掃除もするし、ペットを飼うなら世話もするよ。あと……夜も、いっぱいご奉仕してあ・げ・る」
レナは、艷やかな顔をして妖しく微笑む。
悪魔じゃなくて、サキュバスかな?
普通の男なら、レナの魅力に一瞬で虜になっていたのかもしれない。
ただ、あいにくだけど、僕にはソフィアがいる。
レナも魅力的だけど……
でも、それ以上に、ソフィアの方が魅力的だ。
「悪いけど、僕にはもう……」
「……フェイト、なにをしているのですか?」
「っ!?」
ゾクリと背中が震えた。
極寒地帯に放り込まれたかのように、とんでもない寒気がする。
恐る恐る振り返ると……にっこりと、すごく良い笑顔を浮かべるソフィアの姿が。
「そ、ソフィア!? どうして、ここに……」
「お父さまへのお仕置きが終わったので、私も合流しようと。そうしたら……あらあらあら。そこの泥棒猫は誰なのでしょうか? 私にも紹介していただけませんか?」
ものすごいプレッシャーだ。
怒気と殺気が撒き散らされている。
アイシャとリコリスにはぶつけないという、器用な真似をしているものの……
他の客や店員はまともに浴びてしまい、ガクガクと震えている。
レナも、当然、そのオーラを浴びているのだけど……
しかし、彼女は平然としていた。
「ねえねえ、フェイト。この女、誰?」
「え?」
「それは私の台詞ですよ、フェイト。この女は、誰ですか?」
「え?」
なんで、二人共、僕に聞くの?
相手に尋ねるということはしないの?
「ボク、フェイトと楽しくおしゃべりしているんだけど、邪魔しないでくれる?」
「あなたこそ、私とフェイトの間に割り込もうとしないでくれませんか?」
「なにさ。キミ、誰? フェイトのなんなの?」
「私は、ソフィア・アスカルトです。フェイトの幼馴染であり、将来を誓い合った仲ですよ」
そう言うソフィアは、ちょっと得意げだ。
あなたなんか敵じゃない。
そんな声が聞こえてきそう。
でも、レナはまったくへこたれない。
むしろ、不敵な笑みを浮かべる。
「っていうことは、まだ結婚はしていないんだ? なら、ボクにも十分チャンスはあるよね」
「なっ……」
「ボク、ここまで興味を持った男の人って、フェイトが初めてなんだよね。だから、絶対に逃さない。ボクのものにするよ。フェイトも、ボクのこと、全部好きにしていいからね?」
「え? いや、それは……」
「フェイト! なにをデレデレしているのですか!?」
「してないよ!?」
「そ、そんなにえっちなことがしたいのなら、その……わ、私がいるではありませんか! 私なら、なんでもしてあげますし、どのような性癖も受け止めてみせますし、どこまでも尽くしてみせます!」
「こんなところでなにを言っているの!?」
「リコリス、せーへき、ってなに?」
「アイシャにはまだ早いわ」
ほら、アイシャが興味を持っちゃったじゃないか。
「まあ……あまり目立ちたくないし、今は退いてあげようかな」
いつの間にか、レナは自分の料理を食べ終えていた。
テーブルの上に代金を置いて、席を立つ。
「じゃあ、またね。フェイト、今度会ったら、デートしようね。約束だよ?」
「すぐに消えなさい!」
「怖い怖い。じゃあねー!」
レナは手を振り、元気よく立ち去った。
嵐のような女の子だったな……
僕のことが気になると言うのだけど、あれは、本当なのだろうか?
「フェイト」
氷点下のように冷たいソフィアの声。
「詳しく、詳しく、詳しくぅううう話を聞かせてもらいますよ?」
「ハイ」
詳細は省くのだけど……
とにかく、ソフィアが恐ろしかった。
『面白かった』『続きが気になる』と思って頂けたなら、
ブックマークや☆評価をしていただけると、執筆の励みになります。
よろしくお願いします!




