表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
11/520

11話 裏でこそこそと

 ワイバーンという予想外の乱入者が出てきたものの、ライガーボアの討伐は無事に完了。

 冒険者ギルドに戻り、そのことを報告すると……


「……ウソだろう?」

「いえ、ギルドマスター……この牙と爪は、間違いなくワイバーンのものですよ。スティアートさんの話は本当かと……」

「おいおい、マジか……ワイバーンを一人で倒すなんて、しかも、冒険者にもなっていないひよっこが倒すなんて……いったい、どんな手品を使ったんだ?」


 唖然とするアイゼン。

 どのようにして倒したのか、コツが知りたいらしい。


 でも、そんなことを聞かれても困る。


「え? いや、特にコレといって……」

「なにかあるだろう? なにか」

「そう言われても……あ、そうだ。実は、ワイバーンの幼体だったとか? だから、僕でも倒すことができたんじゃないですかね」


 アイゼンが受付嬢を見る。

 受付嬢は首を横に振る。


「これは、紛れもなく成体のものですね」

「そうか……」

「えっと……なんで、倒せたんでしょうね?」

「俺の方が聞きたい!!!」


 どこか疲れた様子で、アイゼンは強く叫ぶのだった。


「はあ……まあいい。結果としては、文句のつけようがない。一つ目の試験は合格だ」

「よし!」

「おめでとうございます、フェイト」


 どこかへ姿を消していたソフィアは、さきほど戻ってきた。

 俺の合格を自分のことのように喜んでくれている。


「ソフィアのおかげだよ、ありがとう」

「私はなにもしていませんが……」

「アドバイスをくれたでしょ? あと、剣も教えてくれた。それがなかったら、僕は、生きて帰ることはできなかったかもしれない。本当にありがとう。ソフィアに感謝を」

「ふふっ、フェイトの役に立つことができたのなら、とてもうれしいです。もっともっと、役に立ってみせますね」

「今でも十分なのに、これ以上なんて……」

「フェイトのためなら、いくらでもがんばれますからね」

「あー……イチャつくのは後にしてくれないか? 話、続けていいか?」


 アイゼンがどこか呆れたように言う。


「あ、はい。すみません」

「まったく……で、次の試験は、筆記テストだ」


 冒険者についての知識を試すもの。

 筆記問題に挑み、制限時間内に一定の正解数を得ること。

 それが合格の条件らしい。


「もう準備は済んでいる。今すぐにでもできるか、どうする?」

「やらせてください」

「わかった。なら、こっちへ来い」


 気合を入れて、奥の客間へ移動した。




――――――――――




「ふふふ、どうやら私の出番のようですね」


 フェイト達の様子をこっそりとうかがうレクターは、ニヤリと笑う。


 彼は魔法を使うことで、アイゼンが用意した試験の内容を事前に把握した。

 そして、ミラと同じように嫌がらせをするために、あれこれと準備を。


 その結果を確かめるため、同じく魔法を使い、そっと客間の様子をうかがう。


「では、筆記テストについての説明を行う」

「はい」

「制限時間は二時間。先に説明したように、一定数の正解を得ることで合格となる」

「これがテスト問題で……こちらの参考書は?」

「スティアートは素人だからな。救済措置として、参考書を用意しておいた。ただ、答えが載っているわけではない。参考書は基本のことしか書かれていないため、試験問題を解くためには、応用と柔軟な発想が求められる。つまり、冒険者に必要な知識と発想力があるかどうか、見極めることができるというわけだ」

「なるほど」


 筆記テストの内容を盗み聞きしたレクターは、くくくと小さく笑う。

 元奴隷のフェイトに達成できるものではない。

 ここで落第するだろうと、その時を想像して嗤う。


 それに、念の為にとある仕掛けをしておいた。


 それは、参考書に魔法をかけて、ページを開くことができないようにする、というものだ。

 とても地味ではあるが、しかし、効果は大きいだろう。

 素人のフェイトが、参考書なしに筆記テストを乗り越えられるわけがないのだから。

 これて落第は確実だ。


「さて……慌てふためき、無様な姿を晒すところを、こっそりと見学させてもらいますよ」


 レクターは裏でほくそ笑む。


「では、今から第二のテスト、筆記試験を行う。監査官は俺だ。二時間の制限時間があるが、最後まで諦めずにがんばるように」

「了解です」

「では、始め!」


 アイゼンの合図で、フェイトは参考書に手を伸ばした。


 しかし……


「あれ?」


 魔法のせいで参考書を開くことはできない。

 何度も試すのだけど、やはり無理だ。

 強引に開こうとすれば、参考書を破いてしまうだろう。


 どうしても参考書を開くことができず、フェイトが首を傾げる。


「くくく、せいぜいがんばってもらいましょうか」


 フェイトが無様に足掻き、悩み、苦しむところを高みの見物といこう。

 レクターは底意地の悪い笑みを浮かべるのだった。




――――――――――




 困った。

 参考書を使わなければいけないのに、どうしても開くことができない。


「すいません」


 監督をするアイゼンに声をかける。


「うん、どうした?」

「参考書が開かないんですけど……」

「どれ、見せてみろ」


 アイゼンは参考書を手に取り、ページを開こうとする。

 しかし、どれだけ力を入れても開くことはない。


「なんだ、これは? 誰かがいたずらでもしたのか?」

「代わりの参考書はありませんか?」

「この参考書は、今、全部貸し出し中でな。これが最後の一冊だ。まいったな、どうするか……」

「ないんですね……なら、どうしよう? 他に、参考書の代わりになるものはないし……とりあえず、問題を見てみよう」


 参考書を諦めて、試験用紙と向き合う。


「こ、これは……!?」


 野営地の最適な場所の選定方法、夜間の獣や魔物の対策、水の確保の方法……

 依頼人との交渉術、最適な依頼の進め方、トラブルが起きた時の対処法……

 ダンジョンの探索法、強敵に遭遇した時の対処法、弱点の見極め方……


 そんな問題が並んでいたのだけど、これは、


「え? こんな簡単な問題でいいの?」


 奴隷だった頃……


 戦闘は、シグルド達が担当。

 その他、全ての雑用は僕が担当していたため、これらの問題は参考書を見るまでもなく、答えがわかる。


 なにしろ、きちんとした対処法を実践しなければ、容赦なく殴られていたからね。

 自然と色々なことを必死で覚えて、念の為に、普段は必要とされないであろう知識まで仕入れることにして……

 そして、今に至る。


 これくらいの問題は楽勝だ。

 参考書を開くまでもない。


「ふんふーん」


 鼻歌なんて歌いつつ、問題を解いていく。

 それくらいに簡単だった。


「うん? まだ参考書をどうするか思いついていないが……」

「あ、大丈夫でした。これくらいの問題なら、全部知っていることなので」

「なんだと? 全部知っているというのか?」

「はい、基礎知識かと」

「この問題を基礎と言うか……だから、参考書を開く必要すらない。なるほど……力だけではなくて、深い知識も持っているようだな。感心したぞ」

「どうも……って、まだ合格したわけじゃないから、がんばらないと」

「ああ、すまないな。俺のことは気にせず、がんばるといい。あと、参考書の問題もあったから、いくらか採点は甘くしておこう」

「ありがとうございます」


 どこからともなく、「まさか、評価を上げる手伝いをしてしまうなんて……くっ、私としたことが」なんていう声が聞こえてきたような気がするけど、気の所為だろう。


 僕は、そのまま制限時間いっぱい、筆記テストに取り組んで……

 見事に満点を取ることができて、第二の試験を突破するのだった。

『よかった』『続きが気になる』と思っていただけたら、

ブクマークや☆評価をしていただけると、とても励みになります。

よろしくおねがいします!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
◆◇◆ お知らせ ◆◇◆
さらに新作を書いてみました。
【おっさん冒険者の遅れた英雄譚~感謝の素振りを1日1万回していたら、剣聖が弟子入り志願にやってきた~】
こちらも読んでもらえたら嬉しいです。
― 新着の感想 ―
[一言] ヘーイそこのフールガイ? 妨害行為をするとはホトケになりたいらしいな?^^
[気になる点] 本人の資質や素行を見るためのテストなんだから、普通は一人か二人は監視する人間をつけない? 勝手に行かせて、戦利品を持ってきたからはい合格、は通じないと思うなぁ。 特に知り合いに剣聖なん…
[一言] 参考書・・・、妨害の証拠品ゲット。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ