表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
109/520

109話 蠢く影

 リーフランドの郊外にある、小さな一軒家。

 その中に、二人の人影があった。


 一人は、年老いた男性だ。

 白髪は肩の辺りまで伸びていて、綺麗に揃えられていた。

 髭も長く伸びていたが、丁寧に手入れされているからか、落ち着いた雰囲気を与える結果となっている。


 八十近いと思われる外見なのだけど、しかし、肉体の衰えは感じられない。

 背はまっすぐと伸びていて、筋肉こそないものの、その体は鋼鉄のような力強い印象を受ける。

 今こそが全盛期なのだと、そう肉体が主張していた。


 もう一人は、十五歳くらいの少女だ。

 十五ならば成人はしているのだけど、幼さが残る顔立ちのせいか、大人には見えない。

 大人と主張したら、うそだ、と多数の人に言われてしまうだろう。


 外見に引っ張られるかのように、体つきも幼い。

 でなければいけないところは引っ込んでいて、背は低く、体も小さい。

 愛らしさはあるものの、女性としての魅力には欠けているだろう。


 ただ、その顔は宝石のように綺麗に整っていた。

 優しく、甘く、綺麗な顔。

 まぎれもない美少女だ。


「ドクトルが敗れたようだ」


 老いた男が、静かにそう言った。

 それを聞いて、少女が目を大きくする。


「えっ、本当に? 今日、なんで呼ばれたかわからなかったんだけど……もしかして、そのこと?」

「うむ。レナには教えておいた方がいいと思い、こうして呼び出したわけだ。忙しいところ、すまないな」


 レナと呼ばれた少女は、気にしないでと手を横に振る。


「ううん、いいよ。それに、忙しいっていうなら、リケンの方が忙しいよね? ボクなんかより、色々なことをしているからね」

「まあ、色々と言えば色々ではあるが……誰かがやらねばならぬこと。ならば、大した力を持たない儂がやるべきであって、レナが気にすることではない」

「そういうものかな?」

「そういうものだ」

「って、話が逸れちゃったね。ドクトルが負けたっていうのは、本当のことなの? 確か、ドクトルにはティルフィングを与えたと思うんだけど……なにも能力を持たない低ランクの魔剣とはいえ、そこらの人が勝てるわけないのに」

「相手がまずかった」

「相手? もしかして、剣王とか魔法王が出てきたとか?」

「剣聖らしい」

「わぉ」


 リケンと呼ばれている老人の言葉に、レナはやや大げさに驚いてみせた。


「ちなみに、誰かわかる?」

「最年少で剣聖の座に辿り着いた天才……ソフィア・アスカルトだ」

「あー……なるほど。会ったことはないけど、色々と常識外れの噂は聞いているよ。山を斬ったとか、一万の魔物の大群を薙ぎ払ったとか。それらの噂、誇張されているわけじゃなくて、むしろ、控えめに表現されているっぽいんだよね。あー、そっか。あの剣聖が相手なら、ドクトル程度じゃあ、魔剣を手にしても歯が立たないか」


 なるほど、とレナは納得した。


 しかし、すぐに不思議そうに小首を傾げる。


「あれ? でも、ドクトルは素材を手に入れていたんだよね? それなら、ティルフィングの真の力を引き出すこともできたと思うんだけど……もしかして、それでも負けたの?」

「いや。どうやら、力を引き出すことには失敗したらしい。儀式を行うよりも前に襲撃を受けたようだ」

「なるほど。それじゃあ、剣聖の相手なんて務まらないか。ティルフィングは?」

「戦闘で破壊されたらしい」

「あー……ちょっと惜しいことをしたね。下級の魔剣とはいえ、素材さえあれば、中級くらいにはなっていただろうから。ドクトルにあげたのは失敗だったかな?」

「仕方あるまい。あれは、金は持っていた。金がなければ、我々も活動できないからな」

「世知辛いねー」

「それに、ドクトルも剣の腕が悪いというわけではない。今回は、相手が悪すぎた」

「最年少の剣聖、ソフィア・アスカルト……か。どんな子なのかな?」


 そう語るレナは、幼い子供のような顔をしていた。

 おもちゃを与えられたような感じで、とてもわくわくした様子だ。


「どれくらい強いのかな? 想像の上をいったりするのかな? うーん、戦いたい!」


 レナはバトルマニアだった。

 戦いの中でこそ、もっとも輝くことができて、自分の価値を見出すことができる。

 命を賭けた真剣勝負なら、なお良い。


「ねえねえ、リケン。ボクを呼んだのは、ドクトルのことを教えるだけ? それだけ?」

「まったく……勘が鋭いな」

「えへへー。褒め言葉として受け取っておくよ」

「今、この街……リーフランドに剣聖ソフィア・アスカルトがいるらしい」

「え、なんで?」

「さてな。家の問題と聞いているが、詳細は知らぬ」

「っていうことは、ビッグチャンス?」


 ソフィアと戦えるかもしれないと、レナはニヤリと笑う。


「この街で進めている計画は知っているな?」

「アレを使って、魔剣の増産。それと、改良でしょ?」

「うむ。剣聖が街に来たのは偶然と思いたいが……もしかしたら、という可能性もある。計画をかぎつけられては厄介だし、敵対されても厄介だ」

「そうなる前に潰せ、っていうこと?」

「焦るな。まずは、様子見だ。敵になると決めつけて下手に動けば、逆に気取られてしまうかもしれぬ。レナは、剣聖の動きを探ってほしい。儂は、できる限り、計画を前倒ししておこう」

「オッケー」


 レナは気軽に頷いてみせた。


 これで話は終わり。

 リケンは外に出ようとして……

 途中で足を止めて、思い出したように言う。


「そうそう、言い忘れていた。気にし過ぎかもしれないが、もう一人、気をつけた方がいいかもしれない者がいる」

「うん? 誰、それ?」

「フェイト・スティアートという少年だ」

『面白かった』『続きが気になる』と思って頂けたなら、

ブックマークや☆評価をしていただけると、執筆の励みになります。

よろしくお願いします!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
◆◇◆ お知らせ ◆◇◆
さらに新作を書いてみました。
【おっさん冒険者の遅れた英雄譚~感謝の素振りを1日1万回していたら、剣聖が弟子入り志願にやってきた~】
こちらも読んでもらえたら嬉しいです。
― 新着の感想 ―
[良い点] また、敵・・? 夜に悪徳の種は耐えないものなのか
[一言] ソフィア『んっ、気のせいかしら。女の気配がする』
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ