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108話 認めてほしい

 親子喧嘩が再発してしまったため、テストはうやむやに。


「ごめんなさいね。話をまとめてきますから、スティアートくんは、こちらで待っていてくださいね」


 そんな話をエミリアさんにされて、俺とリコリスとアイシャは客間に戻った。


 ソファーに座り、のんびりとクッキーを食べて、メイドさんが淹れてくれた紅茶をいただくのだけど……


 ドゴンッ!

 ガガガガガッ!!!

 ドガシャアアアアアーーーーッ!


 ちょくちょく、轟音が響いてくる。

 その度に、地震が起きたかのように床が揺れていた。


 剣聖と道場師範の喧嘩なので、すさまじい。

 でも、二度目ということもあり、もう慣れてしまった。

 アイシャも怯えることはなくて、笑顔でクッキーを食べている。


「アイシャ、クッキーの欠片がこぼれているよ」

「えっと……?」

「じっとしてて……うん、これでよし。綺麗になった」

「ありがと、おとーさん」

「どういたしまして」

「あんたら、こんな時なのに、ホント平常運転ねぇ……」


 そう言うリコリスも、両手でクッキーを持って、ハムスターのようにカリカリと食べているから、人のことは言えないと思う。


「ところでリコリス、さっきのはどういう意味なの?」

「さっき?」

「ほら、エドワードさんのことを、子離れできない、って言っていたじゃない」

「ああ、そのこと。それがどうかしたの?」

「どういう意味なのかな、って」

「どうもこうも、そのままの意味よ。あのおっちゃん、ぜんぜん、子離れができていないじゃない」

「そう……なのかな?」


 エドワードさんのことを思い返す。

 領主……そして、道場主にふさわしい威厳を備えていた。


 そんなエドワードさんが子離れできていないと言われても、なかなか納得することができない。


「あのおっちゃんがフェイトを認めなくて、あれこれと難癖をつけているのは、ソフィアを取られたくないからよ。だから、子離れできない、って言ったの」

「そういう意味で、僕に文句をつけていたのかな……? 僕は、そんな風には見えなかったんだけど」

「甘い、甘いわね。このスーパーリコリスちゃんアイをもってすれば、人間の考えていることなんてお見通しよ!」


 スーパーリコリスちゃんアイって、なんだろう?


「っていうか、あのおっちゃんは、すっごいわかりやすいと思うわ。怒ってごまかしてるけど、娘がかわいくてかわいくて仕方ない、っていう感じよ」

「そう、なのかな……?」

「そうよ。このリコリスちゃんが言うんだから、間違いないわ。っていうか、それくらいも見抜けないから、フェイトは昔、騙されたりしたんでしょ」

「うぐ」


 そこを突かれると弱い。


「しかし……そうなんだ。うん、それならよかった」

「あんた、認められないっていうのに、なんで笑っているのよ?」

「もしかしたら、親子仲が悪いのかな? って不安に思っていたんだ。でも、少なくともエドワードさんはソフィアのことを大事に思っているわけで……そういうことなら良かったなあ、って思ったんだ」

「お人好しねえ……ま、それがフェイトらしいか」


 カリカリと、リコリスはクッキーを食べる。

 それから、妖精サイズのカップで紅茶を飲み、話を続ける。


「そんな心配をしてるなら、安心していいわよ。なんだかんだで、あの親子、仲が良いと思うわ」

「なら、よかった」

「で、フェイトはどうするわけ?」

「どうする、っていうのは?」

「あのおっちゃん、ソフィアを手放したくないから、絶対にフェイトのことを認めないと思うわよ? あれこれと文句をつけて、交際を認めるなんてこと、ないと思うわ」

「それは困るなあ……」


 あれ?

 ふと、疑問に思う。


「でも、手紙だと、ソフィアの婚約者を決めた、ってあったけど……」


 それが本当なら、自分からソフィアのことを手放していないだろうか?


 そんな疑問を口にしてみると、リコリスはチッチッチと指を横に振る。


「甘い、甘いわね! パンケーキに練乳とはちみつと砂糖をかけたくらい甘い考えだわ!」

「おいしそう……」


 なぜか、アイシャが反応していた。

 ちょっとよだれが垂れている。

 うん。今度、パンケーキを作ってあげよう。


「おっちゃんが決めたのは、あくまでも婚約者でしょう? 娘を嫁に出すとは言っていない」

「つまり……?」

「あれは、ソフィアを呼び戻すための餌ね。ああいうことを書けば、絶対にソフィアが戻ってくるって思っていたんでしょうね。で、戻ってきた後で、やっぱり婚約はなし、ってことにすればいいのよ。自分でセッティングしたんだから、それくらいできるでしょ」

「なるほど」


 リコリスの言うことが正しいなら……

 僕がエドワードさんに認められる可能性は、限りなく低いだろう。

 ゼロと言ってもいいかもしれない。


「どうするの? おっちゃんがあんな感じなら、あたしは、ここにいるだけ無駄だと思うけど」

「かもしれないね」

「その顔……諦めるつもりはないみたいね」

「うん、そうだね」


 認められる可能性はゼロに近い。

 それでも、僕は退きたくない。


「ここで、ソフィアを連れてどこかへ行く、っていう選択もあると思うよ。でも、そうなると、エドワードさんとの間に決定的な溝ができちゃうと思うんだ。それは、寂しいよ。親子なんだから、やっぱり仲良くしないと」

「そのために、がんばる、っていうの?」

「そうだね。がんばろうと思う」


 どうにかして、エドワードさんに認めてもらい……

 そして、ソフィアはエドワードさんと仲直りをする。

 また、仲の良い親子に戻る。


 それがベストだ。


「あれもこれも欲しいなんて言っていると、全部、取りこぼしちゃうわよ?」

「そうならないように、がんばるよ」

「成功する根拠は?」

「ないけど、がんばるよ」

「はぁ……」


 やれやれと、リコリスはため息をこぼした。


 でも、すぐに、ニヤリと笑う。


「ふふーん、面白いじゃない」

「なにが?」

「そこらの人間だと、困難にぶつかった時、大抵、妥協しちゃうわ。こうするしかない、全部を拾うのは無理だから諦めないと……っていう感じでね」

「それは、仕方ない流れだと思うけどね」

「でも、フェイトは違うじゃない。あくまでも、強欲に全部掴み取ろうとしている……うん、面白いわ! そんな人間、見たことない。よし! このスーパー天災ミラクル美少女探偵リコリスちゃんの頭脳を貸してあげる。一緒にがんばりましょう」

「ありがとう、リコリス」


 でも、今、天才のところが別の不吉な文字になっていたような気が……?


「ちょうど時間もあることだから、対策を考えましょう」

「うん、三人で色々とアイディアを出してみようか」

「ふえ……わたしも?」

「お願いできないかな? アイシャだからこそ、思い浮かぶアイディアがあると思うんだ」

「うん。おとーさんとおかーさんのために、わたし、がんばる!」


 娘がかわいすぎて、どうにかなってしまいそうだ。


 でも……そうか。

 エドワードさんは、こんな気持ちなのかな?

 もしも、アイシャが嫁に行くとしたら、僕はなにがなんでも反対してしまうかもしれない。


 ちょっとだけ、エドワードさんの気持ちがわかるのだった。

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◆◇◆ お知らせ ◆◇◆
さらに新作を書いてみました。
【おっさん冒険者の遅れた英雄譚~感謝の素振りを1日1万回していたら、剣聖が弟子入り志願にやってきた~】
こちらも読んでもらえたら嬉しいです。
― 新着の感想 ―
[良い点] 半年ぶりに最初から読み直してるが、リコリス・・頼って良いのだろうか・・ あの時の私もこう思ったはず、幾ばくか不安なり・・と。
[良い点] なんか知らんが、リコリスに頼るとロクでもない結果になりそうな気が・・ ってリコリス?何でココに?いやその・・弁解の余地はありませんかねぇ?うわ魔法放たないでー!
[一言] 娘に会いたいが為の嘘だったらガチ嫌われて結婚式にも呼ばれないって地獄になりそうだがwww
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