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107話 大人げない大人

「くっ……」


 折れた木剣を突きつけられたアクセルは、悔しそうに唇を噛んで……

 ややあって、ふっと表情を柔らかくした。


 折れた木剣を手放して、そのまま両手を上げる。

 僕の名前が勝者として告げられる。


「わかった、降参だ……ったく、とんでもないヤツだな。道場一の実力者っていうわけじゃねえけどさ、俺も、それなりに腕が立つんだぜ? それなのに、こうもしてやられるなんて……あー、悔しいな」


 なんてことを言うのだけど、アクセルは、どこか晴れ晴れとした顔をしていた。

 たぶん、僕も似たような顔をしていると思う。


 剣を交わして心を交わす。

 そんなことができたのだろう。


「ぬぐぐぐ……」


 思うような展開にならず、エドワードさんは、とても悔しそうに唸っていた。

 そんな父親に対して、ソフィアは笑顔で語りかける。


「お父さま。これで、フェイトのことを認めてくれますね?」

「……」

「お父さまが指名した者に勝利をして、力を示すことができました。もちろん、不正なんてありません。それは、この場にいる者全員が証人です。フェイトは正々堂々と戦い、アクセルを打ち破り、力を示しました」

「……」

「お父さまの口から、フェイトのことを認めていただきたいのですが……どうしたのですか? 黙っていないで、早く宣言してほしいのですが。私とフェイトの交際を認める……と」

「……で」


 しばらくの沈黙の後、エドワードさんは、ぷるぷると全身を震わせつつ、小さな声でつぶやいた。


 なんだろう?

 不思議に思っていると、ゆらりとエドワードさんが立ち上がる。


 うつむいているので表情はわからない。

 ただ、ただならぬ気を発していて、威圧感がすごい。

 いくらかの門下生は、ひっ、と小さな悲鳴をあげていた。


「……できるものか」

「え?」

「そのようなふざけたこと、できるものかぁああああああああああっ!!!!!」


 落雷のような、エドワードさんのすさまじい叫び声が道場に響き渡る。


 さらに何人かの門下生が悲鳴をあげて……

 そのうちのいくらかは、エドワードさんの怒気にあてられてしまい、気絶してしまう。


「ぴゃうっ!?」


 アイシャも例外ではなくて、怯えていた。

 ただ、不幸中の幸いというべきか……

 ハードな人生を送ってきたため、多少は耐性があるらしく、涙目になる程度で済んだ。


「この儂が、そこの小僧を認める? そのようなこと、ありえぬ! 絶対にありえぬぅっ!!!」

「ですが旦那さま? スティアートくんは、見事に試験をクリアーしましたが?」

「まだ、一つ目の試験をクリアーしただけだ!」

「……一つ目?」

「そうだ、試験が一つなどと言った覚えはない! 次は、門下生、全員を一度に相手してもらおうか! 門下生達は、全員、真剣だ! 小僧は素手だ!」

「えぇ……」


 無茶苦茶を言われてしまい、思わず顔をしかめてしまう。


 そんな僕の反応が気に入らなかったらしく、エドワードさんはさらに怒りを加速させる。


「できぬのか!? ならば、貴様の力、器はその程度ということ。そのような輩に、ソフィアを任せられるものか!」

「いや、そう言われても、さすがに今のは無茶苦茶だと思うんですけど……」

「黙れいっ! 儂に歯向かうか!? 言っておくが、今のテストで終わりではないぞ? 仮にクリアーしたとしても、次は、知識や礼儀作法、ありとあらゆる科目をクリアーして……そして、最後に儂を打倒してみせよ! まずは、そこまでしてからだ!」

「えっと……」


 あまりにも無茶苦茶だ。

 こんな無茶な要求を重ねられてしまうと、認めるつもりはないのでは? と疑ってしまう。


 いや……


 実際、エドワードさんは僕を認めるつもりがないのかもしれない。

 あれこれと文句をつけて、僕が諦めることを期待しているのだろう。


 そう決めつけるのは良くないことなのだけど……

 でも、それ以外に考えられない。


 エミリアさんは、あまりの無茶っぷりに呆れているらしく、やれやれという顔でため息をこぼしていた。


「あのおっちゃん、すごいわねー。あんなわがままで、子離れできない人間、初めて見たわー」

「うん?」


 子離れできない?

 それは、どういうことなのだろう?


 リコリスに尋ねようとするのだけど……


「……お父さま?」


 ゆらりと、ただならぬオーラを発して、ソフィアが立ち上がる。

 その瞳はキランと輝いていて……

 そして、剣を抜く。


 真剣だ。

 そして、聖剣エクスカリバーだ。


「お父さまのことなので、駄々をこねることは予想していましたが……」


 あ、そこは予想していたんだ。

 妙な信頼をしているんだな。


「だからといって、周囲に当たり散らすなんて、大人のすることですか……?」

「ふんっ、この程度で怯え、泣くなど、なんて情けない。我が門下生にそのような軟弱者がいるとはな。また、一から鍛え直さなくては」


 エドワードさんは、まったく反省していないみたいだけど……

 違う、違いますよ。

 ソフィアは、門下生のことを気にかけているのではなくて……


「へぇ……そうですか。アイシャを、このような小さな女の子を泣かせておいて、そのような世迷い言を口にするのですか……」


 そうなのだ。

 ソフィアが怒っているのは、アイシャが泣いてしまったからなのだ。


 子を泣かされて怒らない母はいない。


 うん。

 こんな時だけど、ソフィアが、ちゃんと「お母さん」をやれていてうれしい。


「う……ぬ」


 今になって、アイシャが泣いていることに気がついたらしい。

 さすがのエドワードさんも、気まずい様子で口を閉じる。


 しかし……すでに手遅れ。


 ソフィアの怒りは頂点に達していた。

 僕の時よりもひどいかもしれない。


 まあ……うん、仕方ない。

 子を守る時こそ、母は本気になるものだ。


「お父さまは、少し、反省をしていただかないといけませんね……そう、物理的に反省をしていただかないと」

「そ、ソフィア……?」


 エドワードさんは、一歩、後ずさる。

 その分、ソフィアは、一歩、前に出る。


「お父さま」


 ソフィアは、にっこりと笑い……


「ちょっと殴らせてください」

「ぬぉ!?」


 ……再び、親子喧嘩が勃発するのだった。

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◆◇◆ お知らせ ◆◇◆
さらに新作を書いてみました。
【おっさん冒険者の遅れた英雄譚~感謝の素振りを1日1万回していたら、剣聖が弟子入り志願にやってきた~】
こちらも読んでもらえたら嬉しいです。
― 新着の感想 ―
[一言] 離婚、波紋、称号剥奪、待った無しなクズ人間行動に絶句。どうなる父様。
[良い点] あ〜触らぬソフィアに祟りなし・・。
[一言] 尻に敷かれマンで、昭和型頑固親父で、子離れが出来ない駄目大人で、ワガママ放題のとっつぁん坊やで、恐らく他の貴族か何かの圧力に屈してる駄目領主。 数え役満ですね・・・年齢が年齢だから今更改心…
2021/06/12 15:22 退会済み
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