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105話 力のテスト・その1

 まずは、僕の実力をテストしたい。

 そんな話になり、場所を道場に変えた。


「では、これより力のテストを行う」

「ルールは簡単よ。私達が指名した相手と戦い、勝利すること」

「ふんっ……簡単に勝てると思うな? それと、戦士にあるまじき卑怯なことをすれば、その時点で失格だ。追い返すだけではなくて、牢に叩き込んでくれよう」

「あ、ですが、剣だけで戦う必要はありませんよ? 実戦を想定していますから、体術でも魔法でも、なんでも問題ありません」

「え……か、母さん、それは……?」


 予定外のことを言われたらしく、エドワードさんが戸惑いを見せた。

 対するエミリアさんは、平然と言葉を続ける。


「旦那さまは、なにか反論が?」

「ここは剣の道場なのだから、剣だけで戦うべきでは……」

「あら、おかしなことを言うのですね。神王竜剣術は、実戦を想定しているではありませんか。試合でも、剣以外を使うことは認められているはず。それなのに、どうして今回に限り、剣のみにしようというのですか?」

「そ、それは……」

「もしかして……スティアートくんに対して有利な立場に立ちたいから、剣だけにしようと? 旦那さまは、そのような浅ましい戦略を考えていたのですか?」


 エミリアさんは笑顔なのだけど、しかし、その目はまったく笑っていない。

 むしろ、怒っているようだ。

 妙な威圧感を覚えるほどで、いくらか気温が低下したような気がした。


「そ、そのようなことはない! ないぞ!?」

「そうですか。なら、薬を使うなどの卑怯な手を除いて、なんでもありということで問題ありませんね」

「……ない」


 がくりとうなだれつつ、エドワードさんはエミリアさんの言葉を全面的に受け入れた。

 僕としては、喜ぶべきことなのだろうけど……

 それでも、ちょっとエドワードさんに同情してしまうのだった。


「それにしても……」


 道場内を見回す。


 人、人、人。

 話を聞いたらしく、たくさんの門下生達が見学に訪れていた。


「こんなにたくさんの人がいると、ちょっと緊張するね」

「緊張する必要なんてありませんよ。フェイトなら、どのような相手であれ、打ち勝つことができると信じています」

「うん。ありがとう、ソフィア」

「ふふっ。フェイトの将来の伴侶として、あなたを信じることは当たり前のことですから」

「だからさあ……あんたら、イチャイチャする時は、場所を選びなさいよ」

「「あ……」」


 リコリスに言われて、僕とソフィアは同時に赤くなる。

 少し……いや、かなり恥ずかしい。


「えへへ。おとーさんとおかーさん、仲良し」


 でもまあ、アイシャはうれしそうにしていたから、それでよしとするか。


「では、テストを……試合を始める!」


 エドワードさんの声が響いて、僕の対戦相手が姿を見せる。

 それは……


「アクセル?」

「よう」


 気軽に挨拶をされた。


「僕は、アクセルと戦うの?」

「みたいだな。まあ、俺としてはお嬢さまの想い人に剣なんて向けたくはないんだが……師範の命令となると、断ることはできなくてな。悪いが、手加減はしないぜ」

「うん、それでお願い」

「へ?」

「勝ちたいと思うけど、でも、手を抜かれて勝っても嬉しくないからね。一応、僕も男だから、その辺りのプライドはあるよ」


 アクセルはぽかんとして、


「はははっ」


 楽しそうに笑った。


「さすが、お嬢さまが選ぶ相手というか……おもしろいな、お前。勝っても負けても、恨みっこなしだぜ」

「うん。正々堂々と戦おう」


 前に出ようとして、


「……フェイト」


 ソフィアに引き止められる。


「最近のアクセルは知らないのですが……しかし、彼は、才能がある剣士ということは覚えています。魔物に襲われて慌てていた、ということで楽観せず、気を引き締めてくださいね?」

「わかっているよ。絶対、油断なんてしないから」

「それでこそ、フェイトです。いってらっしゃい」

「いってきます」


 ソフィアの笑顔に見送られて、アクセルと対峙する。


 その際、周囲の門下生達から刺すような視線が飛んできた。

 嫉妬の感情があるみたいだけど……

 ソフィアのことで、やっかみを覚えているのだろうか?


 ソフィアは綺麗で優しくて、とても素敵な女性だから、僕のことをおもしろく思わないのは当然かもしれない。

 でも、手を引くつもりはない。

 全力で挑み、そして、認めてもらうつもりだ。


「両者、構え!」


 エドワードさんの合図で、僕とアクセルは一定の距離を保ち、それぞれ剣を構えた。


 今回は、あくまても試合。

 力を測るためのテストなので、殺傷力のない木剣を使うことに。


 それでも、アクセルから放たれる威圧感はすさまじい。

 戦場で対峙しているかのようなプレッシャーと危機感。

 覚悟なしに対峙したら、すぐに飲み込まれてしまうだろう。


 アクセルは、それほどの相手だ。


「はじめ!」


 戦闘開始。

 僕とアクセルは同時に道場の床を蹴り……


「はぁっ!」

「うらぁっ!!!」


 ギィンッ! と剣と剣を交差させた。

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◆◇◆ お知らせ ◆◇◆
さらに新作を書いてみました。
【おっさん冒険者の遅れた英雄譚~感謝の素振りを1日1万回していたら、剣聖が弟子入り志願にやってきた~】
こちらも読んでもらえたら嬉しいです。
― 新着の感想 ―
[気になる点] 素人意見ですが、木剣使ってるのにぶつかりあった擬音が 「ギィンッ」というのは違和感があります。 「ガッッ」とかの方が良いのでは?
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