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104話 母は強し

「エミリア! なぜ、こんなところへ来た! この小僧の対応は、儂がすると言ったはず」

「話が進むかどうか不安だったので、様子を見に来ました。そうしたら、案の定なので……ここからは、私も同席いたしますね」

「ならぬ! このような馬の骨と同席するなど、アスカルト家の品位に……」

「同席いたしますね?」

「だ、だから、それはならぬと……」

「いたしますね?」

「……う、うむ」


 エドワードさん、エミリアさんの笑顔の圧に押し負けた。


 もしかして、奥さんに頭が上がらないのだろうか?

 だとしたら、ちょっとした親近感を覚える。


 ちょっと意味合いは違うのだけど……

 僕も、ソフィアに対しては頭が上がらないからなあ。


「久しぶりですね、スティアートくん。私のことは覚えていますか?」

「あ、はい。久しぶりです、エミリアおばさん……エミリアおばさんですよね?」

「はい、そうですよ。私の顔、忘れてしまいましたか? まあ、十年以上も前のことなので、それも仕方ないかもしれませんが」

「いえ、覚えています。ただ……記憶とぜんぜん変わらないというか、むしろ、あの時よりも綺麗になっている気がして。それで、ちょっと戸惑いが」

「あら。あらあらあら」


 素直な気持ちをぶつけてみると、エミリアさんは笑みを深くした。


「こんなおばさんに、そんなうれしい言葉をかけてくれるなんて。スティアートくんは、女の子泣かせになりそうですね」

「い、いえ。そんなつもりは……」

「ふふっ、冗談です。スティアートくんは、ウチの娘……ソフィア一筋なのでしょう?」

「は、はい……そうですね。ソフィア以外の女の子は、考えられません」

「……フェイト……」


 隣に座るソフィアがうっとりとして、


「ぐぐぐ……」


 エドワードさんが、射るような勢いでこちらを睨みつけてきた。


 おばさんからは笑みを向けられて、おじさんからは睨みつけられる。

 なかなかにカオスな状況だ。


「久しぶりの娘の帰郷。スティアートくんを連れてきて、それだけではなくて……なにやら、おもしろそうなお客さまもいる様子」


 エミリアさんは、ちらりとリコリスとアイシャを見た。


「本来ならば、盛大におもてなしをしたいのですが……残念ながら、旦那さまがこのような感じでして」

「ふんっ。どこぞの馬の骨に、アスカルト家の娘をやるわけにはいかん。当たり前の話だろう?」

「旦那さま。ソフィアとスティアートくんの仲の良さは、よく知っているでしょう? こうなることも、簡単に想像できたはず。それなのに、なぜ反対するのですか?」

「それは……」


 エドワードさんは、一瞬、言いよどみ、


「……そんな貧弱な小僧に、娘を任せられるものか!」


 くわっと目を見開いて、こちらを再び睨みつけてきた。


「ソフィアの伴侶になるということは、儂の跡継ぎ候補にもなる。それなのに、軟弱者、愚か者に任せられるわけがないだろう!」

「……お父さま? それは、私のフェイトが軟弱という意味でしょうか? 愚かという意味なのでしょうか?」


 最初にソフィアがキレて、


「旦那さま? いくらなんでも、それは、スティアートくんに失礼というものですよ? 最近、剣にかかりきりになっていたせいか、貴族としての品位をお忘れになったのですか?」

「うっ……そ、それは」


 エミリアさんにも睨まれた。

 娘と母、二人を敵に回してしまい、エドワードさんはたじたじに。


 それでも、僕とソフィアの仲を認める気はないらしく、反論する。


「し、しかし、儂は領主であり、神王竜剣術の師範でもある! ソフィアと交際をしたいというのならば、強く、賢くないと務まらないではないか!」

「それは……まあ、旦那さまの言う通りですね」

「そうだろう、そうだろう!? なればこそ、ソフィアにふさわしい伴侶を儂が決めなければいけない。これは、正しいことなのだ!」


 エドワードさんが力強く言う。


 うーん?

 なんだろう?

 ふとした違和感というか……


 エドワードさんの態度は、どことなくおかしい。

 最初、顔を合わせた時は、とても威厳があったのだけど……

 今は、なぜか子供のような印象を受けた。


 なんでだろう?


「なるほど……わかりました。強く、賢くなければ、ソフィアの伴侶は務まらない。旦那さまのその意見に関しては、私も納得するところです」

「エミリアよ、わかってくれたか」

「そんなっ、お母さま!?」


 エドワードさんを擁護するような発言に、ソフィアが頬を膨らませる。

 母親に対する怒りというよりは、どうしてエドワードさんの味方なんてするの? と、ちょっと拗ねているみたいだ。


 二人は、とても仲が良いんだよね。

 小さい頃の話だけど、ソフィアはいつもエミリアさんに甘えていた。

 エミリアさんも、ソフィアを思う存分にかわいがっていた。


 だから、敵になるような発言に驚いたのだろう。

 でも、話は続きがあった。


「でしたら、スティアートくんの能力をテストすればいいのではないでしょうか?」

「なに?」

「本当に力が足りないのか? 本当に知識がないのか? まずは、それらを確かめるべきでしょう」

「し、しかし、そのようなことをしなくても、こんな小僧に……」

「あら。旦那さまは、一目見ただけで、相手の能力を完全に把握することができるのですか? それとも……気に入らないからという理由だけで、話を聞こうとせず、門前払いをするという愚行をなさるのですか?」

「うぐっ」


 痛いところを突かれたという様子で、エドワードさんは言葉に詰まる。


 なんだかんだで……

 エミリアさんは、基本的にソフィアの味方なのだろう。

 一気に畳み掛ける。


「旦那さまの立場は理解していますから、私も、無条件でスティアートくんを認めるつもりはありません。とはいえ、門前払いをするつもりもありません。ですので、スティアートくんの能力を測ることにいたしましょう」

「いや、しかし、それは……」

「もしも、落第するようならば、そこで終わり。ソフィアとの仲は認めません。しかし、無事に合格するようならば、きちんと認めましょう」

「こ、こんな小僧を……」

「力もあり、知識もあると証明されたのなら、なにも問題はないではありませんか。しかも、ソフィアと相思相愛。どこに文句をつける余地が?」

「うぐぐぐ……」

「異論はありませんね?」

「そ、それは……」

「ありませんね?」

「うっ……」

「旦那さま?」

「……異論はない」


 がくりとうなだれつつ、エドワードさんはエミリアさんの提案を受け入れた。


 喜ぶべきことなのだけど……

 同じ男として、ちょっとエドワードさんに同情してしまう。


 好きな女性にこんなことを言われたら、反論なんてできない。

 どう考えても、論破されてしまいそうだし……

 嫌なことだとしても、賛成するしかないだろう。


 母は強し。


 ふと、そんな言葉が思い浮かんだ。


「ということで」


 エドワードさんと話をしている時は、とんでもない威圧感を放っていたのだけど……

 それを捨て去り、にっこりとした笑顔を浮かべて、こちらを見る。


「こちらの勝手な都合で申しわけありませんが、スティアートくんは、私達のテストを受けていただけませんか? それに合格をすれば、スティアートくんこそが、ソフィアの正式な婚約者となりますから」

「はい、わかりました。そのテストを受けて、絶対に合格してみせます!」

「あら、即答ですか。ふふっ、とても頼もしいですね」


 俺の返事に満足したように、エミリアさんは優しい顔で笑うのだった。

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◆◇◆ お知らせ ◆◇◆
さらに新作を書いてみました。
【おっさん冒険者の遅れた英雄譚~感謝の素振りを1日1万回していたら、剣聖が弟子入り志願にやってきた~】
こちらも読んでもらえたら嬉しいです。
― 新着の感想 ―
[良い点] スズの試練を思い出しますなあ・・。
[一言] お父様、剣王なのに相手の力量を測れないのね。剣王って大したこと無いのですね。あっ道場師範程度だからか、それとも芝居かなぁ
[良い点] お母様が公正で聡明で優しくしかも美人‼︎ 流石ソフィアの母君、エドワードさんにはもったい無い‼︎・・・(笑) [気になる点] こんな娘バカの頑固親父が選んだ婚約者・・・ 色々な可能性が有り…
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