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103話 馬の骨め!

「どこぞの馬の骨ともわからんようなヤツに、娘をやれるものかぁっ!!!」


 二度目の怒声。

 ビリビリと空気が震えてしまうほどで、もう少し近くにいたら鼓膜が破れていたかもしれない。


 そんなことを心配するくらい、声が大きい。

 それだけ、エドワードさんは怒っているのだろう。


「お父さま、なぜ反対するのですか?」


 少しムッとした様子で、ソフィアは問いかけた。

 いきなり反対されるとは思っていなかったのだろう。


 ただ……僕としては、反対されるだろうなあ、とは思っていた。


 いくらソフィアの幼馴染だとしても、十年近く会っていなかったのだ。

 エドワードさんからしたら、突然現れた見知らぬ男としか見えないだろう。


「フェイトは、どこぞの馬の骨ではありません。小さい頃はよく一緒に遊び、そして、道場に通ったこともあるではないですか」

「あれ、そうだっけ?」

「忘れたのですか? 剣は習っていませんが、体力作りのために、一緒に運動をしたではありませんか」

「……あっ、そういえば」


 小さい頃は、ソフィアと一緒にいることがなによりも楽しくて、とにかく一緒にいたいと思った。

 そんなことを思っていたから、道場で一緒に運動をすることもあった。


 定期的に通っていたわけじゃないから、今まで忘れていたけど……


「そっか、そんなこともあったね。懐かしいなあ」

「ふふっ。あの頃のフェイトは、私の後をいつもついてきて、とてもかわいらしかったです」

「それくらい、ソフィアのことがかわいかったから」

「も、もう……」

「儂の前でなにをイチャイチャしておるかぁあああああっ!!!」

「「あっ」」


 すっかりエドワードさんのことを忘れていた。

 ソフィアも同じだったらしく、しまった、というような顔に。


 放置されたエドワードさんの怒りは沸騰。

 泡を飛ばしそうな勢いで叫ぶ。


「幼馴染だろうがなんだろうが、貴様などに娘をやれぬ! 絶対にやれぬぅうううううっ!!! 今すぐに、出てゆけいっ!!!」

「お父さま。今は、私が悪いと思います。しかし、話を聞かずに追い出すなんて……」

「出てゆけぇえええええっ!!!」

「フェイトは、とても強い力を持つ冒険者です。それだけではなくて、剣の才能もあります。神王竜剣術を学び、跡継ぎとして……」

「出て行かぬというのならば、叩き切ってくれるわっ!」

「……」


 あ、ソフィアがイラッとした顔に。


 エドワードさんの怒りは仕方ないと思うのだけど……

 でもソフィアは、そんなことは知るか、というようなことを考えているっぽい。


 人の話を聞こうとせず、一方的に要求を突きつける。

 それが大人のやることか……と。


 ソフィアの苛立ちがどんどん増していき……

 こちらも臨界突破。

 ソフィアはニコニコと笑い……そして、再び剣の柄に手を伸ばす。


「「っ!?」」


 部屋の端で待機していたメイドさん達が、剣呑な雰囲気を感じ取りビクリと震えた。


「ほう……都合が悪くなると剣を抜くか」

「お父さまが、まったく私の話を聞こうとしないのがいけないのです」

「おもしろい。では、またやり合うか? 言っておくが、今度は本気でいくぞ? さきほどの戦いでは、半分ほどの力しか出していなかったからな」

「では、私は、半分ほどの力でいきましょうか」

「……なんだと?」

「先の戦いでは、私は、十分の一くらいの力でした」

「……」

「いくらなんでも、親に本気で剣を向けるほど、親不孝ではありません。しかし」


 ソフィアは刃のように鋭い顔をして、剣の柄を握る。


「フェイトを罵倒したことは許せません。本気で相手をしましょうか?」

「ぬぐっ」


 エドワードさんに向けて、ソフィアの本気の威圧が放たれた。

 思いもよらないところで娘の成長を実感することになり、エドワードさんがたじろぐ。


 しかし、ここで退くという選択肢はないようだ。

 すぐに気持ちを立て直して、やるのならやるぞ? とソフィアを睨み返す。


 なんていうか……

 二人共、大人げない。

 子供みたいな親子喧嘩だ。


 とはいえ、片方は剣聖。

 片方は道場の師範。

 そんな二人が本気で激突をしたら、今度こそ、どうにかなってしまうかもしれない。


「ソフィア、ストップ。エドワードさんも、落ち着いてください」

「どうして止めるのですか?」

「小僧、儂に命令するか!?」


 二人は、息をぴたりと揃えて言う。

 こういうところを見ていると、親子だなあ、って思う。

 タイミングがぴったりなところとか、邪魔をされると怒るところとか、よく似ている。


「ソフィア、僕達は話し合いに来たんだよ。それなのに、ケンカをしてどうするのさ」

「それは……ですが、お父さまがぜんぜん人の話を聞かないから……」

「それに、怖い顔をしていたら、アイシャが怯えちゃうよ」

「うっ……」


 急所を突かれた様子で、ソフィアがたじろいだ。


「エドワードさんも、落ち着いてください。僕のことが気に入らないのはわかりますが、だからといって、それが領主の取る態度ですか。僕達の倍以上生きているのなら、それ相応の態度を見せてください」

「むぐっ……」


 至極まっとうな正論に反論できないらしく、エドワードさんは苦い顔に。


「はい、二人共剣を収めて。まずは、しっかりと話し合いをしましょう。力を行使するのは、それからです」

「「しかし……」」

「僕達は人間なんですよ? 力を振るうことしかできないなんて、魔物と同じ。そんなことでいいんですか?」

「「……よくないです」」

「なら、話し合いましょう」

「「はい……」」


 良かった、二人は納得してくれたみたいだ。

 それぞれ、ソファーに座り直した。


「ふふっ、見事です」


 ふと、第三者の声が割り込んだ。

 客間の扉が開いて、一人の女性が姿を見せる。


 長い髪は銀色に輝いていた。

 その身にまとう衣服は、銀髪を栄えさせるかのようなもの。

 女性としての魅力にあふれていて、ついつい見惚れてしまう。


 ……って、そうか。


 ソフィアがいるのに、この人に見惚れてしまうのは、それなりの理由があった。

 それは……


「お母さま!?」


 そう……この人が、ソフィアのお母さんだからだ。

 名前は、確か……エミリア・アスカルト。


「旦那さまとソフィアの喧嘩を仲裁してしまうなんて、なかなかできることではありません。その力、心の強さ、確かに見させていただきました」


 そう言い、エミリアさんはにっこりと笑うのだった。


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◆◇◆ お知らせ ◆◇◆
さらに新作を書いてみました。
【おっさん冒険者の遅れた英雄譚~感謝の素振りを1日1万回していたら、剣聖が弟子入り志願にやってきた~】
こちらも読んでもらえたら嬉しいです。
― 新着の感想 ―
[良い点] やはり、ユスティーナの母親同様、ソフィアの母親も肝は大きい。 作品を超えても母親が強い率が多いのは・・なぜ?
[一言] 愛娘フィルターがあるとはいえ、相手の真の力量を一目で、ましてや剣を交えても測れない剣王って大したこと無いのですね。剣王とは?
[一言] エミリア>フェイト>ソフィア>エドワード 駄々っ子(!?)ふたりを冷静に諌めるフェイト、その様を眺めながら満足そうに登場するエミリア様・・・色々構図が見えた様な・・・ エドワードの暴走を…
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