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102話 娘はやらん

 壮絶な親子ケンカの後……

 俺達は、アクセルとリナによって、アスカルト家の客間に案内された。


 領主の屋敷なのでとても広いのだけど、シックな作りなので落ち着くことができた。

 ソファーに座り、お茶をいただきながらエドワードさんを待つ。


 勝負はソフィアの圧勝に終わったのだけど、一応、手加減していたらしい。

 エドワードさんは大きな怪我を負うことはなくて、軽い打撲で済んだとのこと。

 それでも手当はしなければいけないので、今はここにいない。


「おかーさん、大丈夫? 怪我していない?」

「ふふっ、大丈夫ですよ。アイシャちゃんのお母さんは、とっても強いですからね」

「うん……お母さん、かっこよかった」

「あーもうっ、アイシャちゃん、かわいすぎです! 私の娘、最高です!」

「むぎゅ」


 アイシャに心配されて舞い上がるソフィア。

 デレデレの笑顔になって、おもいきりアイシャを抱きしめる。


 アイシャは、ちょっと苦しそうにしていたものの、なんだかんだでソフィアに抱きしめられることがうれしいらしく、にっこり笑顔だ。

 ちょっとうらやましい。


「ソフィア。どうして、いきなりあんなことを?」

「だって……とても勝手なことをするので、お父さまに対する鬱憤が溜まっていたのです。そんな状態で、お父さまがとても偉そうな態度を見せるから……つい」


 てへ、という感じでソフィアが舌を出して笑う。


 おどける彼女もかわいい……じゃなくて。


「気持ちはわからないでもないけど、でも、アイシャがいたんだから」

「うっ」

「いきなり、母親と祖父がケンカをしたら……ケンカなのかな、あれは? 私闘を通り越して、死闘になっていたような……まあいいや。とにかく、あんな派手なケンカをしたら、不安になっちゃうよ。現に、アイシャはこうして不安になっているし」

「うぅ……」

「もちろん、僕も不安だよ」

「はぅ……」

「だから、もうあんなことはしないでね?」

「……申しわけありませんでした」


 さすがのソフィアも反省したらしく、シュンと肩を落とした。


「私、まだまだ子供ですね……あそこまで、自分がコントロールできなくなるなんて、思ってもいませんでした。情けないです」

「僕は気にしていないよ。人間だから、足りないところがあるのは当然だと思うし……そういうところは僕が補うから」

「……フェイト……」

「あー……ちょっと、二人共? こんなところなのに、二人の世界を作らないでくれる?」

「あ、あはは……ごめんね、リコリス」

「まったく」


 リコリスはあからさまなため息をこぼしてみせて、ふわりと飛び、アイシャの頭の上に。

 最近は、アイシャの頭の上がお気に入りらしい。

 アイシャもリコリスのことが好きらしく、喜んで頭の上に迎え入れている。


「……またせたな」


 ややあって、エドワードさんが姿を見せた。

 それなりのダメージを受けたとは思えないほど、しっかりとした足取りで歩いて、対面のソファーに座る。


 その眼光は厳しく、自然と背筋が伸びた。


「えっと、僕は……」

「アクセルとリナから、だいたいの話は聞いた。自己紹介は不要だ」

「……」

「そうか、お前がフェイトか……」

「っ!?」


 ものすごい殺気をぶつけられた。

 ともすれば、そのまま窒息してしまうのではないかと思うほど、濃密で深い殺気だ。


 なんであろう?

 僕は、エドワードさんにはなにもしていないのだけど……

 ここまで恨まれる覚えがない。


「あぅ……」

「お父さま……? なにをしていらっしゃるのですか?」

「……すまない」


 アイシャが巻き添えをくらい、涙目に。

 それを見たソフィアが殺気を返して……


 そこで、ようやく我に返ったらしく、エドワードさんからの殺気が消えた。

 どうやら、今のはわざとではなくて、反射的にこぼれ出てしまったものらしい。


 ついつい殺気がこぼれてしまうほど、僕は恨まれているのだろうか?

 ますます謎だ。


「まあいい……よく帰ってきたな、ソフィアよ。儂からの手紙は読んでいるな?」

「はい。だからこそ、こうして戻ってきました」

「なら、すぐにでも相手を紹介しよう。場は儂が準備するから、ソフィアは相手の資料を読み……」

「お父さま。そのことですが、私は、その話をお断りさせていただきます」

「……なに?」


 予想外の展開らしく、エドワードさんは目を大きくした。

 その間に、ソフィアは言葉を畳み掛ける。


「私の知らない間に勝手に婚約者を決めて、勝手に話を進める……そのような勝手なことをされて、素直に従うとでも? ありえません。そのような勝手をしないでください……今回は、文句を言うために帰郷したのです」

「つまり、婚約はしたくないと?」

「当たり前です。見ず知らずの相手と、なぜ結婚しなければならないのですか?」

「確かに、今はなにも知らないかもしれない。しかし、儂が選んだ相手だ。誠実な人柄で、頭も良く、腕も立つ。顔を合わせれば、きっと気に入るだろう」

「ありえませんね」


 エドワードさんの言葉を、ソフィアはバッサリと一刀両断した。


「どのような方かわかりませんが、私が好意を寄せるということは、絶対にないかと」

「どのような相手か知らないのに、言い切れるのか?」

「言い切れます」

「なぜだ?」

「私には、すでに将来を誓い合った殿方がいるからです!」

「……っ……」


 ピクリと、エドワードさんのこめかみの辺りが動いた。


「面白い話だな。ソフィアには、すでに恋人がいると?」

「もちろんです」

「……将来を誓い合っていると?」

「もちろんです」

「……愛していると?」

「世界で一番愛しています」


 ちょっと照れた。

 リコリスがこのこのと肘で突っついてきて、アイシャは自分のことのようにうれしそうで笑顔だ。


「もしかして、とは思うが……それは、お前の隣にいる男のことか?」

「はい、そうです」

「……」

「お父さまも覚えていますよね? 私の幼馴染の、フェイト・スティアートです」

「……」

「私は、彼を愛しています。フェイト以外の殿方と一緒になるなんて、欠片も想像したことがありません。というか、無理です。フェイト以外、絶対に無理です」

「……」

「今日は、そのことを報告に……いえ。できるのなら、私とフェイトのことを認めてくれませんか?」


 できることなら、僕達のことをエドワードさんに認めてほしい。

 その想いはソフィアも共通するらしく、途中で言葉を言い換えていた。


「……」


 エドワードさんは、不気味な沈黙を保っていた。


 なんだろう?

 火山が噴火する前の不気味な静寂というか、嵐の前の静けさというか。

 とにかく、嫌な予感がした。


「……ん」

「え?」


 エドワードさんは、僕を今まで以上にきつく睨みつけて、


「貴様などに娘はやらんっ!!!」


 屋敷中に響き渡るような大きな声で、そう言い放つのだった。


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◆◇◆ お知らせ ◆◇◆
さらに新作を書いてみました。
【おっさん冒険者の遅れた英雄譚~感謝の素振りを1日1万回していたら、剣聖が弟子入り志願にやってきた~】
こちらも読んでもらえたら嬉しいです。
― 新着の感想 ―
[良い点] ソフィアの父親とユスティーナの父親、思考同じ説。 ・・という流れでいくとソフィアの母親は・・?
[一言] 『娘はやらん』 頑固親父の常套句。
[一言] はぁ〜 やっぱり・・・ フェイト君、ここは状況を逆手に取って神王竜剣術に仮入門でもしたらどうでしょう?剣術の基礎は体に通しておくだけでも、今後の戦いの幅が広がりますし、仮入門とはいえソフィア…
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