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10話 ワイバーン戦

 アイゼンが、とある依頼用紙を見せてきた。

 内容は、ライガーボアという魔物を十体討伐すること。


「これは?」

「試験は三つ、行わせてもらう。これが一つ目の試験だ。ライガーボアはEランクの魔物ではあるが、なかなかに厄介な相手だ。必ず群れで行動するため、隙が少ない。力もあり、時に鉄板をぶち抜く。この依頼を達成できるかどうかで、まずは冒険者としての素質、戦いの判断力などを見させてもらう」

「わかりました」

「楽な試験ではないため、危ないと思った時はすぐに撤退するように。いいな? 決して無理はするなよ? ライガーボアは思考が単純だから、逃げに徹すれば問題なく逃げられるはずだ」

「わかりました。心配していただいて、ありがとうございます」

「じゃあ、行きましょうか、フェイト」

「まてまて。なにを自然についていこうとしている。アスカルトの助力は禁止だ。一人でやらないと、テストにならないからな」

「む……」


 ソフィアがものすごく残念そうな顔に。


「ちょっとくらい、いいじゃないですか」

「剣聖のちょっとは、とてつもないレベルだろうが」

「意地悪ですね」

「試験にならないだろうが……」

「ソフィア、僕は大丈夫だから。ソフィアと一緒に冒険をするためにも、必ず合格してみせるよ」

「フェイト……はい、応援していますね。でも、くれぐれも気をつけてくださいね?」

「うん。絶対に合格できるように、がんばるよ」




――――――――――




 こっそりと魔法を使い、会話を盗み聞きする者が三人。

「なに、アイツ……あたしらの誘いを断っておいて、別のヤツと組んで冒険者になろうとしてるわけ? めっちゃ生意気なんですけど」

「ちっ。あの剣聖がいなけりゃ、どうにかして奴隷にしてコキ使ってやるのに……」

「しかし、あの無能は私達の誘いを断りましたからね。多少、役に立つかもしれないとはいえ、生意気な態度を見せる以上、僕らのパーティーには不要です」

「そうだが、もう関係ない、みたいな態度がむかつくな。くそっ、痛い目に遭わせてやりてえぜ」

「それなら、期待通りになるわ。アイツ、もうすぐ死ぬし」

「ん? そりゃ、どういうことだ?」

「ギルドの職員に金を渡して、こうなることを事前に聞いていたじゃない? だから、ちょっと依頼用紙に細工しておいたの。ライガーボアの生息地を、東の平原から南の山岳地帯に書き換えておいたのよ」

「おいおい、南の山岳地帯といえば、ライガーボアも生息しているが、それだけじゃなくて、ワイバーンの根城になってるじゃねえか。Aランクの魔物で、俺らでも苦労する相手だぜ?」

「だ・か・ら、書き換えてやったのよ。ワイバーンと遭遇して、あの無能は死ぬ。これでもう、あのうざい無能の顔を見なくて済むと思うと、スッキリしない?」

「ははっ、ソイツはナイスなアイディアだ。よくやったな、ミラ」

「ええ、彼女の発想はすばらしいものがありますね。今夜は、無能死亡記念日として、祝杯をあげましょうか」




――――――――――




 依頼用紙に記載されていた場所、ライガーボアが生息する山岳地帯へやってきた。


 腰に下げる剣を見る。

 今回の試験に挑むにあたり、ソフィアからもらった、彼女のコレクションの一つだ。

 切れ味は普通だけど、やたらと耐久力があり、ソフィアが乱暴に使っても折れることはないらしい。

 今の僕には、ピッタリの剣だと思う。


「さてと、ライガーボアはどこかな?」


 山岳地帯を歩いて、目標を探す。

 ライガーボアは見たことがないけど……

 派生種のホーンボアは見たことがある。


 たぶん、見ればすぐにわかるだろう。


「グルルルゥ」


 歩くこと三十分。

 二メートルほどの大きな体を持ち、稲妻のような模様の毛を持つイノシシが現れた。

 コイツがライガーボアだろう。


「よし、がんばるぞ」


 必ず試験に合格してみせる。

 気合を入れて剣を抜いて、ライガーボアと対峙した。


「グオッ!」


 咆哮と共に、ライガーボアが突撃する。

 けっこう速くて、驚いてしまう。


 ただ、こういう時は冷静にならないと。

 ソフィアのアドバイスを思い返す。


「いいですか? フェイトの身体能力は、私に匹敵するほどです。その能力があれば、ライガーボアなんて敵ではありません。きちんと相手の動きを見て、しっかりと考えて、行動してください。そうすれば、問題なく勝てるでしょう。一番気をつけることは、心を乱してはいけない、ということです」


 しっかりとライガーボアの動きを見る。

 動きは速いけれど、でも、見えないほどじゃない。

 むしろ、じっと注視すると、スローモーションのように遅く見えるほどだ。


「うん、それほどのものじゃないな」


 横にステップして、ライガーボアの突進を避けた。

 それと同時に、剣を薙ぎ払う。


 切れ味は普通らしいけど、そこは力でカバー。

 叩き込み、ねじ込むような一撃を繰り出す。


「グォオオオオオン!?」


 ライガーボアは断末魔の悲鳴をあげて倒れた。

 討伐の証明として、牙を抜き取る。


「よし、あと九体だ。がんばろう」


 気合を入れたところで、二体目が現れた。

 ちょうど良いタイミングだ。


「グルルルゥ……」

「グオウ!」


 さらに三体目、四体目が現れる。

 そういえば、群れで行動するって言っていたっけ。


 普通に考えればピンチなのかもしれないけど、焦りはぜんぜんない。

 シグルド達の奴隷でいた時、これよりも酷い状況で囮にされたことが何度もある。

 そのせいか、まったく危機感が湧いてこない。

 代わりに、これくらいならば対処できる、という自信が湧き上がる。


「って、油断は禁物だ。元奴隷の僕が、大したことができるわけないんだから。慎重に、丁寧に、しっかりと対処していこう。ソフィアも、そう注意していたからね」


 剣の柄をしっかりと握りしめた時、


「グギャアアアアアッ!!!」

「!?」


 突然、空から巨大な影が舞い降りてきた。

 咄嗟に後ろに跳ぶ。


 しかし、ライガーボア達は間に合わず、巨大な影に飲み込まれてしまう。


「ワイバーン……?」


 巨大な影は、Aランクの魔物、ワイバーンだった。

 竜の亜種で、圧倒的な戦闘力を誇る。

 ワイバーンに狙われたら最後、生きて帰ることはできないと言われているほどの強敵だ。

 事実、ワイバーンの被害に遭い、年にいくつものパーティーが壊滅している。


「くっ、こんなところで……!」


 なんて運の悪い。

 僕は冷や汗を流して、すぐに撤退を……


「まてよ?」


 ……しようとして、考え直す。


 ここで逃げたら、僕は、試験失格になるのだろうか?

 いや、それはいい。

 もしも、コイツを放置して……

 他の誰かが襲われたりしたら?


 それはイヤだ。

 なんとかしないと。


「それに……なにもしないで逃げるなんて、ダメだ。敵わないにしても、せめて、やれるだけのことはやってからにしないと。まずは、挑んでみないことには、なにも始まらない。今の僕は自由なんだから、なんにでも挑むことができるのだから、やらないと!」


 決意を新たにして、逃げるのを止めた。

 剣を構えて、ワイバーンと対峙する。


「グルルル……」


 なんだコイツ? というような感じで、ワイバーンが低く唸る。

 ただ、いきなり襲いかかってくることはない。

 翼を広げて威嚇をしたり、襲いかかるフリをしたり、なかなか攻撃に移らない。


「うーん?」


 よくよく見てみると、あまり威圧感がない。

 ライガーボアと比べると、とんでもない圧があるのだけど……

 でも、耐えられないほどじゃない。


 落ち着け。

 心を乱すな。

 ヤツをしっかりと見ろ。


「……」


 自然と心が研ぎ澄まされていく。

 体の中に、もう一つの世界ができるような、そんな不思議な感覚。


 僕は静かに剣を正眼に構えた。


「神王竜剣術・壱之太刀……」

「グルァアアアアアッ!!!」


 ワイバーンが空に飛び上がり……

 一気に急降下してきた。


 巨大な体が目の前に迫る。

 しかし、今の僕の心は無。

 剣と心を一体にして、無心で剣を振る。


「破山!!!」


 ワイバーンの巨体が通り過ぎた。

 こちらにヤツの牙が届くことはなくて……

 逆に、僕の剣が届いた。

 巨体が縦に両断されて、二つに分かれる。


「……よし!」


 危ないところだったけど、なんとかなった。

 僕はガッツポーズをして、素直に勝利を喜ぶのだった。




――――――――――




「……ウソでしょう?」


 こっそりと陰から様子を見ていたソフィアは、フェイトがワイバーンを一刀両断したことに唖然とした。


 助力は禁止されたが、気になるものは気になる。

 こっそりと後をつけて……

 なにか様子がおかしいことに気がついて……

 いざとなれば飛び出すつもりでいたが、驚きのあまり忘れてしまう。


「さすがに、この結果は予想外すぎるのですが……」


 デタラメな身体能力を持っていると思っていた。

 剣の才能もあると思っていた。


 しかし、まさか、ワイバーンを一撃で倒してしまうなんて。

 しかも初見。


 剣聖に至ったソフィアでさえ、単独でワイバーン討伐を成し遂げたのは、剣の練習を始めて一年後だ。

 それだけの時間を要したというのに……

 フェイトは、剣を握って、たった一日でワイバーン討伐を成し遂げてしまった。


「とんでもないですね……でも、さすがフェイトです」


 幼馴染は、やがて剣聖である自分を超えて、『剣神』に至るかもしれない。

 その時を想像したソフィアは、とても楽しそうな笑みを浮かべるのだった。

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◆◇◆ お知らせ ◆◇◆
さらに新作を書いてみました。
【おっさん冒険者の遅れた英雄譚~感謝の素振りを1日1万回していたら、剣聖が弟子入り志願にやってきた~】
こちらも読んでもらえたら嬉しいです。
― 新着の感想 ―
[一言] 頭が固いだろぉ!なんだったらプリンみたいに『柔らかく』してやろうかぁ!? あー、シグルドら……マジでブッ潰すぞコラ。
[気になる点] ダンジョンの魔物は避けのに、ライガーボアは近寄る不思議!
[一言] ワイバーンって多分干物とかにすると美味しそうだけど、寄生虫ご結構いそうなんでも食ってそうだし。
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