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再誓

  

 滞在しているピルラカの町から少しだけ離れた空き地にリオンは一人で居た。


 周りに誰もいないことを確認してから、リオンは銀の腕輪をはめた右手を地面へと叩きつけるように置いて、小さく叫ぶ。


「……荒れ狂う地(リッド・テール)!」


 だが、身体の内側に宿っているのは年相応の魔力ではない。

 七歳児の姿に変えられてから、魔力も半減しているため、通常の魔力を出力することが出来なかったリオンの魔法は想像以上に頼りないものだった。


「……」


 地面が少しだけえぐれて、土壌が盛り返されている状態がリオンの瞳には映っており、思わず深い溜息が漏れ出てしまう。


 本来ならば今の魔法は大きな溝が出来て、地表を歩けない程に凹凸(おうとつ)な地面へと変わるはずだ。


 しかし、目の前で具現化されている魔法は子どもが土をスコップで盛り返した程度のもので、とてもではないが王子が使う魔法とは程遠い現状だ。


「くそ……」


 半減となってしまった魔力をいまだに扱い切れていない。


 こうやって時折、一人で魔法の練習をしてはどうにか感覚を掴もうとしているが、長年、身体に染み込むように覚えた感覚と現状の魔力の量との差が大きすぎて、魔法を具現化出来ないでいるのだ。


 ……それでも、同じ七歳だった頃にはそれなりに魔法は使えていたはずなのに。


 風の魔法を操って、空を飛ぶことだって出来ていたし、魔獣を討伐する際には十分な火力だって出ていた。


 つまり、簡単に言えば、自分の魔法の質が落ちたわけではなく、子ども姿で魔法を使うという感覚に慣れていないだけなのだ。

 それならば、何度も繰り返し練習すれば馴染んでくるはずだと、リオンは密かに特訓していた。


 傍からみれば、魔法の練習をしている少年の姿に見えるだろう。

 だが、王子である自分が幼い姿で魔法を練習していると知れば、周囲は嘲笑うか、もしくは慰めるような瞳で見て来るかもしれない。


 ……冗談じゃない。


 やっと国王である父や魔法の師から、魔法使いとして認められる腕になったというのに、今更逆戻りなんて、悔しい以外に何があるだろうか。


 ……それに、魔法が使えなければ、俺は──アイラを守れない。


 リオンは唇を小さく噛みながら、地面に添えていた右手をぎゅっと握りしめる。


 アイラは自分だから、一緒に居たいと言ってくれた。


 王子でも、魔法使いでもなく、リオンという人間だからこそ、ずっと一緒に居たいと。

 その言葉がどうしようもなく嬉しくて、そして惨めに感じられた。


 彼女は自分のために剣術の腕を磨いたという。体術は武器がない時に、リオンを咄嗟に守れるように。

 礼儀作法だって、本当は苦手で堅苦しく思っているはずなのに、一生懸命に覚えようとしている。


 誰よりも努力家で、春の日差しのように柔らかな雰囲気で周囲に穏やかさをもたらす、自分にとってたった一人の──。


 そこで、リオンは顔を上げる。


 心の中に浮かんできたのは、アイラが言ってくれた言葉だ。

 どんな自分でも大好きだと、一緒に居たいと言ってくれた言葉が蘇り、強張っていた表情がいつの間にか解けていく気がした。


「敵わないな……」


 自嘲ではない笑みを小さく浮かべてから、リオンは短く息を吐いた。


 大丈夫だ。

 もし、大魔女ソフィアに会って、この姿から元に戻さないと言われても、自分はアイラの言葉さえあれば、立ち上がれる。


 たとえ、周囲から嘲笑と哀れみを受けても、絶対に立っていてみせる。

 最初に会った時に、アイラに誓ったではないか。──自分が守るから、と。


「……やってやるよ……。こう見えて、粘り強いんだからな……!」


 リオンはそれまで曇っていた表情を拭うように、不敵に笑ってみせる。


 再び銀の腕輪に魔力を注入しつつ、魔法を使うために意識を集中し、そして次の魔法の呪文を唱えるのであった。

  

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