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ちょいと突いてやればこの通りさ

 魅惑の中年って感じの美形だが、凄むと中々迫力がある。

 ドラゴンを素手で捻り殺したって噂は本当だろうか? だが、ぶっちゃけ信じちまうのも無理はないって雰囲気だ。



「一々騒がない。それよりも、君達は何をしているのかな?」


「……っ」



 なぁに、ビビってんだか。

 こうなる事なんか想像ついたろうに。



「説明しなさい。この騒ぎはなんです?」



 揉め事を嫌うマスターに見つかった以上、必ず誰かが責を問われる。

 そして今、責任が誰にあるのかは明白だ。



「彼らがイチャモンをつけてきたんです!」


「ああ!? テメエ何言って……!」


「わ、私達はただ……!」



 エミリオが指を差して糾弾する。この対応は、何よりも正しい。

 話の主導権を握るためには、先んじるよりも優先する事なんかありゃしねぇんだからな。



「……君達に聞いても拉致があかないな。誰か、彼の言葉に偽りはないか」



 一見して突き放すような言葉だが、これは理想的ともいえる展開だ。

 どちらが悪いかではなく、エミリオが本当の事を言っているのかが話の中心にある。


 つまりエミリオが、話の中心だ。


 そして、あえて派手に大声で喧嘩してた理由がここにある。



「そいつの言ってるのは本当だぜ」


「ああ、イチャモンを付けられたように聞こえたな」


「そのマッチョの方が話しかけたのは見てたぜ」



 口々に、証言が取れる。

 いつもなら我関せずを貫く連中も、マスターが言う事なら無視はできねえ。


 まあ、別に無視しても俺が証言すればいいだけなんだがな。



「ま、待ってくれよ! チーム内の喧嘩くらいよくある事だろう!? ま、マスターとはいえ部外者にとやかく言われる筋合いはねえぜ!」


「ただの喧嘩なら知った事ではないけれど、『ギルドから出ていけ』なんて言われればそうもいかない。その権限は、私にしかないんだからね」



 口が過ぎたな筋肉達磨。まさかマスターが出てくるなんて思わなくて、調子に乗ったようだな。


 しかし、これは偶然ではない。そもそも、この喧嘩を仕掛けたのは俺なのだ。

 職業柄ギルドとも関係が深い俺ならば、マスターがギルド内にいる時間くらい把握している。

 その時間を見計らって、エミリオを行かせたのだ。


 あとは、相手がイチャモンをつけてくるのを待つだけだ。

 つけてこなかったら別にそれはそれで問題ないしな。



「黙っていろ言ったぞバートン。……すみません、つい頭に血が上ってしまって」


「す、すまねえハリエット……」


「困った奴だ。謝るならエミリオにだろう」



 上手いなハリエット。

 この場を収めるために、頭くらいは下げる。

 安っぽいプライドなんか全て無意味となるほどの(したた)かさだ。


 ただ、それは喧嘩を売る前に発揮するべきだった。



「ちょっと失礼するぜ」


「おや、ローランスさん。もうお帰りですか?」


「いいや、ちょいと野暮をね」



 席を立ち、マスターの後ろ方向に移動する。そこは、エミリオの正面だ。

 視界の端に映る俺に気がついたらしいエミリオは、さりげなく俺の方を盗み見る。

 そして、俺は自分の胸元に手を触れた。上着の、内側だ。



「もういいよ、ハリエット。バートンも」


「おお、そうか。そう言ってくれると思っていたぞエミリオ」


「ああ、よく考えれば、大した事じゃあないしね。チーム内の仲違いなんて、よくある事さ」



 思っても見ない事を、エミリオは言う。

 しかし、これは必要な事だ。次の瞬間に、とても大きく響くはずだ。



「ところで、バートン。上着の内ポケットに入れているのは何かな?」


「……は?」



 内ポケット。

 俺がさりげなく合図した場所だ。傍目八目と言うように、側から見ていればその様子はよく見えた。エミリオを怒鳴りつけている筋肉野郎は、しきりに上着のポケットを気にしていたのだ。

 役目を終えた俺は、気がつかれるよりも早く席に戻る。ここからはちょっと楽しいぜ。



「い、いや……そんな事テメエに関係ねえだろ!!」


「是非見たいな。是非。それとももしかして、見せられないのかな?」



 エミリオは落ち着いてきたのか、口調に冷静さが見えてきた。

 いくら怒鳴りつけられる事が苦手でも、ここまで来ればもう安心だと思ったのだろう。



「ねえ、教えてよ。見せられないのは、僕に? それともマスターに?」


「ま、待て! こちらはちゃんと謝ったし、君はそれで納得したろう。な、なら、この話はここまでのはずだ」


「そうだよ、ハリエット。だから、これは関係ない話さ。ちょっと気になったから、聞いてみているだけじゃないか」



 俺の持論だが、支援職は結構性格が悪い。

 相手の気持ちを察する能力が高い分、嫌いな奴の心中を察して嫌がらせができたりするのだ。

 悪人でもなければ嫌な奴でもないのに、性格が悪い。チグハグなような気もするが、俺は正直嫌いじゃないね。



「見せなさい。何を隠しているんです」



 とうとう痺れを切らしたマスターまで言い始めた。

 言い逃れができる状況ではない。



「…………っ」



 観念したのか、筋肉野郎はようやく上着から隠していた物を取り出す。

 それは、一枚の紙のようだった。



「なんですか、これは。……『()()()()()()()()』? 私の署名までされていますね……」



 周りが、にわかにざわつく。



「なんだそれ? 聞いた事あるか?」


「知らねえな」


「ギルドに追放なんてあったのか?」



 エミリオの元チームである三人は、見るからに冷や汗をかいていた。ギルドマスターの名を騙った命令状の偽造など、あってはならない不正だ。

 これがまかり通るのならば、全ての冒険者は全ての冒険者を追放する事ができてしまう。



「お二人ともこんな事をしていたんですか!? 見損ないました!」


「は!?」


「な、何を……っ!」



 先程まで我関せずといった風だったもう一人の女が、急に声を荒げる。ハリエットと筋肉野郎は面食らったようだ。



「元々、私はエミリオさんをチームから外すのは反対だったんです! お二人がこんな無理矢理な方法をとっているなんて知っていれば……!」


「お、おいアマンダ! 都合の良い事言ってんじゃねえよ! 今更になって反対だと!?」


「そうだ! 君はいつもそう言ってのらりくらりと……」


「そうでしょうか! 私が一度でもお二人に賛同しましたか?」



 話は、どうやら平行線だ。

 マスターは次第に頭を抱える。苛立ちを募らせているのがハッキリと感じられた。



「弁明は、奥の部屋で聞こうか」



 三人は、引き摺られるように奥へ連れられる。

 一応言っておくと、マスターが奥に呼ぶのはかなり怒っている時のみだ。


 かくして平和。

 ギルドはいつもの喧騒を取り戻したのだった。


 さぁて、もう一杯酒でも飲むかね。

 昼間から飲むこれは格別なんだ。

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