ちょいと脅かしてやろうぜ
「あら、ローランスさん。昼間から珍しいですね」
「おう、ちょっと野暮用があってな」
場所は、冒険者ギルド内の酒場。かつては都一といわれた踊り子だか旅芸人だかが旦那に先立たれ、余生の暇つぶしとばかりに経営している。
なんでだかは知らんが、ギルドには酒場が一緒にあり、そこの主人は大体そんなもんだと相場がきまっている。
冒険者に酒が入ると必ずといっていい程揉め事を起こすが、それ以上に利点もある。冒険者同士の情報交換や交流というものは、こういった場所で行われるものだ。
まあ、俺の目的は単なる暇潰しだが。
「おい! なんでテメエがここにいるんだ!」
おっと始まったかな?
「あらあら、喧嘩かしら? 若いわねぇ」
「そうみたいだな」
何が起こったなんてのは知ってるが、説明する必要がないからすっとぼける。
どっちにしたってすぐ分かるしな。
「ぼ、僕がどこにいるかなんて関係ないだろ!」
「ンだと、役立たずが偉そうに!」
ビビってる方はエミリオ、怒鳴ってる方はエミリオが所属してたパーティのリーダーか。んで、パーティリーダーの後ろには気の強そうな女が二人控えている。
流石にリーダーをしてるだけはあるか。若いがガタイがよく、よく鍛えられている。細身のエミリオと並ぶと顕著だな。
周りの冒険者達が、興味深そうに喧嘩する二人を見ている。
血の気が多い連中は、必ずこういったものを面白がる。
そんで賭けとか始めて、ギルドマスターに大目玉くらうまでが様式美だ。
堅物マスターは揉め事を嫌う。
「き、君達はもう僕の仲間じゃないだろ! 何を言われる筋合いもないはずだ!」
「テメエがここにいると迷惑なんだよ! 人様に迷惑かけんじゃねえ!!」
中々好き勝手言いなさる。
無茶苦茶だ。
「なんで、ぼ、僕に気を遣ってくれない君達に気を遣わなくちゃならないんだ!」
「勝手な事言うな! 出てけって言ってんのが分からねえか!」
「——っ」
あぁあぁ、エミリオの奴、泣きそうじゃねえか。
これはちっと荷が勝ちすぎたかな?
もう少し様子を見て、駄目そうなら助け舟を出してやるか。
「テメエを摘み出すなんてのは簡単なんだぜ!? 俺は親切で出てけって言ってやってんだよ! テメエも痛えのは嫌だろあと思ってな!」
「う、嘘をつくなよ! 君が僕の事を考えるわけないだろ!」
「なんだと……っ!!」
「僕の事を考えてくれる奴が、役立たずだとか追放だとか言うはずないじゃないか!」
「こっちが下手に出てればいい気になりやがって!」
出てたか? 下手に。
ともあれ、どうやら心配はいらないようだな。
「テメエが役に立たねえのはホントの方だろうが!! だいたい追放の方は……!」
「よせ、バートン」
ずっと後ろに隠れていた女のうちの片方が、パーティリーダーの言葉を遮った。あの筋肉達磨バートンってのか。一応覚えといてやろう。
「だがよ、ハリエット……」
「聞こえなかったのか? 私は黙れと言ったんだ」
長い金髪を後ろで束ねた美人だが、どうも目つきが悪すぎる。下手な男がよってったら食い殺されちまいそうだ。
だが、見た目ほど粗暴じゃあないみたいだな。
少なくとも頭の方は、バートンよりもずっと良いみたいだ。
ハリエット。コイツは覚えとかねえといけねえ名前だな。
もしかしたら、客になるかもしれねえわけだし。
「すまないな、エミリオ。私に免じて許しておくれよ」
恐らく、実質的なリーダーはハリエットだろう。
筋肉達磨みてえなボンクラにチームの運営が務まるわけがないもんな。
ここを静かにおさめようって姿勢は確かに正解だ。
まあ、ただ一つダメ出しをするとしたら、“遅すぎる”ってところだな。
「何をしているのかな?」
「……!?」
はっは、みんな驚いてら。
この日この時間にいる事なんて有名だろうに、後ろめたい連中はどいつもこいつも大慌てだ。
「ま、マスター!?」
「ギルドマスター、ロザリック・スチュアートじゃねえか!?」
めっちゃ煩い。
マスター怒ってんぜ。