奇想小話 『箱入り娘』
今日も今日とて、やるべき一仕事を終え昼間からブラブラと歩き、顔なじみの骨董品屋にたどり着いた
中では同じく顔なじみの店員が小さめの木箱と話していた
「へぇ、じゃあお嬢さんっていう歳でもないんだね」
「ええ、一人の人生を添い遂げるぐらいには生きております」
何か面白い物でも仕入れたのか、と話しかけてみたら木箱のほうが先に
「はじめまして、ごきげんよう。面と向かって挨拶できませんが私は箱の中で生まれたパズルと申します。以後お見知り置きを」
と箱の中にいるのにやけに透き通った美人声と共に丁寧に挨拶してきたので、此方も丁寧に返した。
店員にどういった方なのか聴いてみると
「ああ、この木箱は少々不思議でね。人形に必要な部品を箱に入れてしばらく振ると奇跡的に中で組み合わせるんだ」
「そうして組み上がった人形は箱から出るまで、こうやって意思を持つみたいでね」
と、少し箱を持ち上げ揺らした。
「あまり強く揺らさないでいただけますと幸いです。できれば、ゆりかごのような揺れでお願いします」
「……申し訳ない」
「で、前の持ち主は彼女を作ったのはいいものの、箱から出すのを最後までためらったんだ。中から声のする木箱を棺桶と共に入れるのは忍びない」
「何よりこういった物は高く売れれそうだと流れ流れて、今はこうして買い手が見つかるまで僕と店番中」
そりゃ良い暇つぶし相手ができましたな。と思いつつ
実際外に出てみたいですか?と不躾に聴いてみたら
「外に出て自身の姿を見るというのも悪くはありませんが、長く生きていると外の興味よりも人の言葉の方が楽しいと感じるようになりました」
「最近は声さえ出せればいろんな世界と繋がれるようになりましたし、今しばらくはこの姿のままで良いと思っています」
と語った。
◇◆◇◆◇◆◇◆
その後、別れしばらく経った後、彼女は何処か人の手に渡ったらしい。
そうかそうかと日々過ごし、畑仕事をしながら気分転換にラジオを聴いていると聞き覚えのある、やけに透き通った美人声と共に丁寧に挨拶が聞こえてきた。
--はじめまして、ごきげんよう。そして、いつも聴いている方はありがとう。面と向かって挨拶できませんが私は箱の中で生まれたパズルと申します。以後お見知り置きを--




