奇想小話 『換毛期』
ある獣の神に手紙を渡しに行く仕事をした所、全身を覆っている重装備の神主に出迎えられ
少々驚いていると
「すみません。我が主が換毛期でございまして今、総出で毛づくろいをしている所なんです」
と言われ、納得したと同時にどんな物かと少々興味が沸いてきたのでよければ見せていただけませんか?と訪ねた所
「私と同じ物を装備して頂けるなら」
と言って許可をいただけたのでそのとおりにし、毛づくろいの様子を見させてもらった。
中には大変良い毛並みの方がいらしたので、此方に来た理由と共に手紙を渡し
しばらく大きな櫛で毛づくろいをされている様子を見ていたが
ふと、その抜けた毛はどうするのか?と聞いた所
「基本はお焚き上げですね。我が主クラスとなりますと抜け毛が他方に飛び散るだけで少々面倒な事になったりもしますから」
と言って、モゾモゾと動き始めた抜け毛をワタワタと纏めながら麻袋に入れていった。
◇◆◇◆◇◆◇◆
最近めっきり暖かくなってきたなと思いながら、家によく来る猫又と縁側でのどかに過ごしていた所
獣の神の抜けた毛がモゾモゾと動いていたのを思い出し、そろそろ猫も換毛期の時期だし猫又で毛玉を作ったらどうなるのだろうかと思い。
顔なじみの骨董品屋に行き事情を話した所、店員も面白そうだとタダで毛づくろい用の櫛を頂いた。
早速、毛づくろいしてやるからと猫又を膝の上に座らせ櫛で丁寧に解いてやると最終的にトマトぐらいの大きさの毛玉ができた。
猫又の方は「やれ終わったか」と言うふうに、いつの間にか来ていた猫又とよくいる少年の膝の上に乗り直した。
毛玉の方はうんともすんとも言わず、やはり猫又程度ではダメかと思い毛玉をゴミ箱に捨てようと強く握った所
『猫の足音』が聴こえたので驚き、「この音は」と少年の方を向くと言いたいことが分かったのか笑いながら
「龍神様の抜け髭は魚の呼吸の音がしますよ」
と返した。
『猫の足音』『魚の呼吸』
どちらも北欧神話に登場する、フェンリルを捕縛する魔法の紐【グレイプニル】を創るのに使用されこの世に存在しなくなったといわれる物
『この世の外』では存在するのか、はたまた存在しない音を勘違いしたのか……
少年のあの返しはジョークなのかなんなのか
そこら編はご想像におまかせします。




