奇想小話『湯呑の鬼火』
ある社家のお手伝いに行った時
「昔は便利だったんだけど。今は真空タンブラーとかあるし、これ少し使いづらいから……」
と鬼が手に火を持っている絵が描かれた古めかしい湯呑をもらった
湯呑等の陶器はよくわからないが何か気配を感じたのでありがたく頂いた。
試しにお湯を入れると不思議な事かいつまでも温かいままで
なるほど、真空タンブラーと比較して言っていたのはそういう事か。確かに保温が効くのは良いな。
と納得し、しばらく使っていたが、熱いお茶を入れると温度はそのままで場合によってはぬるく入れた物も熱くなるので猫舌の私には少々飲みにくいこともあった。
これまた
なるほど、言っていたのはそういう事か
と納得し、冷たい物も対応できる真空タンブラーを買うのも納得できるな。と引き続き使うか悩んだが、やはり風情というものを好む私にとっては使い続けたい一品でもあった。
少々湯呑の前で悩んでいた所、湯呑に描かれてある鬼と目があった。そのをじっくりと改めてよく見ると絵は小さい湯呑にしては細部まで描かれておりまるで本当に湯呑に鬼が住んでいるように見えたので
もしかしてと思い物は試しと
猫舌なので少し火を緩めてくれませんか?
と絵柄の鬼に声をかけた所、鬼は動き申し訳無さそうに手に持っている火を小さくした。
それを確認した後、再びお湯を入れて使ってみると、少々ぬるいが丁度いい感じの温度になったので
どうですか?といったような顔をした鬼に向かってありがとうございます。丁度いい温度です。
と礼を言った。