奇想小話『猫又と長火鉢』
最近めっきり暖かくなったので長火鉢を片付けていたら、家によく来る猫又がやってきた。
猫又は持っている長火鉢を見ると、「まだ置いてくれ」言わんばかりに、もの寂しそうに鳴いた。
確かに朝方はまだ寒いが日中は十分暖かく、縁側に居たら暑いぐらいだ。服の模様替えもとっくに済ましている。
なので、もう縁側の方が暖かいよ。と言って持っていた長火鉢を物置小屋に持っていった。
猫又も物置小屋にまで付いてきて、やはり物寂しそうに鳴いていたが灰も片付けており、物置小屋まで持ってきてしまったので、まあ許せと思いつつ締まってしまった。
次の日、雨と共に寒風が吹くので震えながら目を覚ました。
吐く息は白く、これではやってられないと薄くなった服を不格好ながら重ね着し、人心地着いた後
ふと、そう言えば人語は喋らないし殆ど猫として扱っているので忘れそうになるが、アレでも猫又だ。
長火鉢の暖かさ欲しさに冬でも呼び寄せたか?
と思い、少々震えながら仕舞っていた長火鉢を取り出すと猫又が何処からともなくやってきて、スッと猫板に座った。
しばし、ぱちくりとしていると「はよせんか」とばかりに不満げにニャーと鳴いた。
全くやれやれと思いながら、これはお前がやったのか?と空を見上げ言ってみると、
さも知らんとばかりに再び
「ニャー」
と一言だけ鳴いた。
怒る気力も失せ、慣れた手付きで長火鉢の灰を整え始めると、やっと始まったかとゴロゴロ、嬉しそうに喉を鳴らした。
長火鉢:火鉢にタンスを足したような物、時代劇などで偶に見る事ができる。
猫板:長火鉢の引出しがある上部にある板。熱くないのでここに急須や湯呑を置いたりする。猫板の上は温かいので、ここに猫がよくうずくまることからこう呼ばれる。