執着の始まり
シュンがそっと目を明けると部屋の薄明かりに照らされた愛しい人の寝顔が目に入る。
シュンの片方の腕は彼女の頭を支えているため、空いているもう片方の手で栗色の髪を払えばアイネスはくすぐったそうにモゾモゾと動く。それが愛しくて、シュンはアイネスの瞼にキスを落とす。
「アイネス……愛してる。君は俺の全てだ。」
シュンはアイネスを見つめて思う。
アイネスと出会わなければ今頃は自分はどこかに逃げていたのではないかと。
バース家の予備としての自分を捨てるために……。
シュンは幼い頃自分の立ち位置を恨めしく思っていた。
自分は兄としても、跡継ぎとしても非の打ち所のない優秀なカイの予備でしかないと思っていた。レオも同じ扱いだったらまだそうは思わなかったのかもしれない。
しかし、レオは三男なので家督を継ぐことは無いと判断した親はレオを不憫に思い国屈指の財閥である母方を継げるように幼い頃から養子縁組をした。それだけではなく、同じく屈指と名高い財閥令嬢とも縁談を早々に結んだのだった。
だけど、自分にはそれはなかった。
カイは健康そのもので跡継ぎとして何も問題は無かったのにも関わらずシュンはカイより出過ぎず、だからといって手を抜かず万が一に備えてあくまでも予備として教育されてきた。
これでカイが絵に描いたような屑だったら心置きなく下克上出来たのに、残念ながらカイはいつもシュンを可愛がり兄としてすこぶる良くしてくれたからカイには文句の1つも言えなかった。だから渋々予備の立場にいるしかなかった。
頭では仕方ないとわかっていたが心はどうして自分ばかり自由になれないのか悩んでいた。
そして婚約の話が出た時もシュンがバース家での立ち位置を維持できる家督をあてがわれた。それがお前は予備だと決定的に知らしめているようでむなしさを募らせた。
バース家の策略のために白羽の矢を立てられたのがグラウン家だった。グラウン家はあくまでもバース家にとって都合が良かった。
グラウン家の当主は娘をとても大切にしていた。
娘が幸せになれるのならばと、嫁にいけば跡継ぎの養子縁組を、婿をとるならそのまま家督を継げるようにしていたそこにバース家は目をつけた。カイに何かあれば直ぐにシュンがバース家に戻れるように、そうでなければ金に困らずバース家の足を引っ張らない程度の家。
グラウン家にとっては失礼極まりない話なのに当の当主は娘が幸せになれるならば何でも良いとこの縁談を引き受けてくれた。
そして、シュンが15才の時にアイネスと出会ったのだ。
今と同じ栗色の瞳と髪をもつ6才になったばかりの少女はとても可愛らしかった。
だけど、シュンはこの少女に同情した。
予備の自分と結婚すると言うことはこの少女も将来バース家の予備になってしまうのだと。
「君は可愛そうだね。予備の僕と結婚させられちゃうなんて。」
思わずそう少女につぶやけば少女は栗色の瞳を丸くして驚く。
「可愛そうかどうかは私が決めるわ。貴方は自分が可愛そうなの?」
ずいぶんませた事を言う少女だと思わず苦笑いが出る。
「そうだね。僕は可愛そうかもね。何をしてもどうあがいても所詮は予備だから。」
どうせ少女にはわからないだろうと自虐的に呟けば少女はムッとした顔をする。
「ばかね。予備じゃないでしょ?私とケッコンできるのは貴方だけなんでしょ?ケッコンする人が本物と予備とって何人も居たら私困るわ。」
少女は息巻いて言葉を続ける。
「貴方だけが私とケッコンできるのよ。それに私とケッコンすれば幸せなんだから。可愛そうじゃないわ!」
………そう言う意味ではなかったのだが。
だけど貴方だけしかできないと言う言葉は無性に嬉しかった。
予備じゃない。僕は可愛そうじゃない。
自分よりもだいぶ年下の言葉なのに胸が躍る。
顔合わせから直ぐにアイネスはシュンにだけよく懐いた。カイでもなくレオでもなくシュンにだけ。そしてアイネスはシュンを見つけるといつも「シュンだけが私の王子様になれるんだからね!」と息巻いていた。
それがたまらなく誇らしくて愛おしかった。
ある日1度シュンが出かけて居なかった時にカイが相手をしようとしたらアイネスは怒って庭園の木に登って途中で降りてこなくなってしまった事があった。
シュンが戻ってくると木の周りで人だかりが出来ていて覗けば猿のごとくアイネスが木にしがみついていた。慌てて駆け寄ればシュンの姿をみたアイネスは喜んで……
木から手を滑らせ落ちて全身を打撲した。
あの時シュンはアイネスを失ってしまうと泣きそうになっていた。
その時自分だけを慕い、自分だけと言ってくれた少女の存在が特別なものだと気付いた。
やがて少女は9才になった。彼女は変わらずにシュンに会う度に「シュンだけが特別。シュンは私の王子様。」そう言って微笑んでくれていた。
そんなある日再びアイネスは木に登った。きっかけは忘れたけれど、私はもう子供じゃない!大人だから何でもできると制止を振り払いあの実の木に登り……
やっぱり落ちた。今度は支えようと身を挺したが庇いきれずアイネスは頭を強打した。
慌てて抱き起こし名前を呼べば目を僅かにあけて私は大丈夫と呟いたのでホッとしたのはつかの間再び目をとじ、次に目を明けたときはシュンの名前も存在も全て忘れてしまっていた。
それはシュンにとって悲しみで心臓をえぐられたような衝撃だった。
その頃まだシュンは学生だったためアイネスに何もしてやることは出来なかった。時々顔を見に行くもアイネスはシュンに気付く事も無く過ごすようになっていた。
それでももう一度彼女から特別扱いして欲しくて、予備ではなくシュンだけと言って欲しくて学校を卒業後バース家の両親やグラウン家の当主達を説得しアイネスの執事として傍に居続けた。
アイネスの特別扱いだけがシュンにとって手放せない特別なものだったから。だからいつか自分を思い出してくれるように。
「……ん。シュン?」
シュンがアイネスを見つめたまま回想していると腕の中でアイネスはいつの間に起きたのかモゾモゾと動き出した。
彼女が自然に起きるのは珍しい。1度寝入ってしまったら滅多なことでは起きることがないのに。
「アイネス?」
「シュン。ごめんね。」
いったい何を謝って居るのかと考えてるとアイネスは更にシュンに身をよせて呟いた。
「シュンが魔法にかかって私を忘れてた時ね。凄く悲しかったの。凄く凄く悲しくて、シュンにもずっとこんな思いをさせてたのかなって思ったら自分がなさけなくって。こんな情けない私よりも他の人の方がシュンにとっては幸せなのかもしれないけど、だけどやっぱり私がシュンを諦めきれなくて。私は傍に居るのがシュンじゃなきゃダメなの。ごめんね離してあげられなくて。だけどちゃんとシュンの傍に居ることを認められるように私頑張るからね。」
そしてシュンの胸に顔を埋めてアイネスは呟いた。
「だからお願い。私だけのシュンでいて……。」
「…………アイネス。」
耳元で名前を呼べばアイネスはビクリと身体を揺らす。そのまま耳朶を甘噛みすれば身体を反らし顔をあげこちらを見る。
その瞳は今にも涙が零れそうなほど潤んでいる。
それが再びシュンの身体を熱く、そして硬くする。
「アイネス……離すわけない。俺はお前だけのものだ。」
再びアイネスの耳朶を甘噛みすれば甘い鳴き声が漏れる。それはシュンを受け入れるシュンだけが知るサイン。
二人は再び想いを交え夜は更ける。
ここまでお読みくださりありがとうございます!
ブックマーク!!
ありがとうございます!!!
本当にありがとうございます!
やっと書いたものがうっかり消してしまい意気消沈してたのですがブックマークみてやる気でました!
本当にありがとうございます!
宜しければ評価、コメントもお待ちしております。
シュンの昔の一人称は僕です。成人してから俺にしようかなーと思って。
それとチビアイネスのケッコンなんですが……
結婚だと、大人っぽく感じるけどケッコンだとなんか子供みたいでかわいいかなとあえてケッコンにしてます。




