表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
35/90

クッキー 2

 ああ、うっとうしい。

 「シュンー!見てみて。これ素敵でしょう?」

 「そうですね。」

 「本当?シュンに褒められたわ。」

 

 誰も褒めてない。というか、本当に鬱陶しい。


 シュンの冷たい目線とは裏腹に目の前の女性は頬を染めてよろこんでいる。


 目の前の女性は栗色の髪を風になびかせ、ワンピースの胸元のレースからは今にもこぼれ落ちそうなくらい豊満な胸をさらけだす。そして世の男性が見たら振り返る程の美貌なのにもかかわらず、その女性に対するシュンの態度は氷のようだ。


 「シュンと結婚したらここに住むのね。楽しみだわ。」

 クルクルとやたら回ってキャッキャと騒ぐ彼女に益々シュンの態度は冷めてくる。いっそ周りを凍らせられるのでは無いかと言うほどに。


 「貴方はここには住みません。」

 「そうなの?じゃあどこだろう?でもシュンがいればいいわ。」


 彼女が一言一言言い放つ度に虫唾が走る。

 愛しい彼女と同じ栗色の髪の毛ですら煩わしい。


 「貴方は国に帰ってください。」

 「えー?シュンが一緒じゃないといやよ!それに、私にそんなに冷たいとお父様に言いつけちゃうわよ?」


 でた………。またでたよそれ。

 

 鬱陶しい。


 シュンの腕に巻き付くのは先日まで仕事先だった国のご令嬢。

 なかなかの財力と権力をもつ家の娘だが頭は悪いし躾がなっていない。口を開けば陳腐な愛を囁き動けばやたら色気を匂わす。


 本当に躾がなってない。アイネスならこんなことはしない。


 ーーーーいや、アイネスもなかなか言うことを聞かないお嬢様ではあったが。


 それでも執事に扮していたこの5年間アイネスを手塩にかけて完璧に近づけていると自負はしていた。必要で有ればまだまだしごきあげて完璧以上にも出来るはずだ。それだけ俺のお嬢様は素晴らしい。


 それに比べて、コイツは…。

 シュンは今もやたら無駄にでかい胸を腕に押しつけられるため吐き気を我慢するのに精一杯だった。


 たまたま兄のかわりに仕事の挨拶に行ったさいにそこにいて、事業提携主の娘だからとできるだけ優しく接していたら何を勘違いしたのかシュンを気に入りくっついてくる。挙げ句結婚したいといいだす。

 冷たく突き放せば父親を使って事業提携の邪魔をしてくる。お互い将来の利益がかかっているのにも関わらず娘のためにと邪魔する父親も父親だが……。 


 しかし、仕事は進まなくては困る。

 バース家にとっても国家規模プロジェクトとなれば今後の発展の為にも失敗は出来ない。まして外すなどもってのほかだ。

 

 ゆえに余りにも娘がいると仕事の邪魔なので、耐えかねたカイは遅れを取り戻す為にシュンにおもりをまかせ娘もろとも密かに自国に戻した。

 もちろん仕事が終わった瞬間、娘を箱に詰めて送り返す算段をし尽くしてから。


 シュンは幸か不幸か、今はアイネスが自分には近寄って来ないと思い嫌々うけた。それでもこれを万が一でもアイネスに見せたくはないので密かに慎重に帰国した。


 思い出されるアイネスは自分が好きだと寝ぼけながらも囁いてくれた数日後に他の男に抱きしめられていた。

 しかも、嫌がって振りほどくそぶりもなく。


 アイネスが自分のシャツを着て寝ていたことや寝ぼけながらも好きだと言ってくれたことがどれ程嬉しかったか。

 間違えて他の男の名前を呼んだのには激しく腹がたったけど、それすら無かったことにできるくら嬉しかったのに……。

 いや、むしろ喜びで舞い上がりすぎて理性を抑えられなくてアイネスが抵抗してこないのを良いことに一線を越えてしまったのだが……。


  だからこそあの時アイネスが憎らしかった。他の男に、よりによって自分がいないときに。


 なんにせよ自分の苛立ち全てをぶつけた結果はアイネスを怯えさせてしまい、そして傷つけた。


 アイネスに大嫌いだと言われた。

 その一言がシュンをどん底まで突き落とす。


 あんなに大切で愛おしくてどうしようも無いのに。


 次に会ったらもっと完全に拒否されるのが怖くて逃げてしまっていた。会わなければ拒否されない。まだ婚約者でいられると。 

 

 


  シュンは腕から女性をはがし眉を顰める。

 「貴方はどこかへ散歩にでも出かけたらどうですか?」

 「じゃあ、シュンもきてくれなきゃ嫌よ。」


 

 ああ、本当にうっとうしい。

 

 こんなにアイネスがしつこく迫ってくれたら、喜んで押し倒すのに……。


 シュンがため息を着けば、カイの仕事が終わるまでシュンが絶対に脱走しないようにカイから言われて監視役をしているレオが助け船をだす。


 「あ、そうだ。この国では今、令嬢達が自ら料理して好きな異性に振る舞うのが流行ってるんです。どうです?兄さんはクッキーが好きなので作ってみては?キッチンも指導役の先生も今すぐ用意しますので。」

 「まぁ!素敵!じゃあシュン待っててください。今貴方の為に作りますね!」



 ドスドスと走り去る姿はみっともない以外何物でも無い。


 「……おい、レオ。俺はいつからクッキーが好きになったんだ?」

 「んー。嘘も方便?助かったでしょ?それより兄さんアイネスに何かしたの?ナナがアイネスが最近元気無いって嘆いてたよ?毎日泣いてるって。」

 「!!」 

 

 アイネスが泣いてる?

 なぜ?

 あの男が何かしたか?


 今すぐアイネスを見に……


 「あ、心配なのはわかるけど絶対にここからでたらだめだよ。アレ、兄さん居なくなったらアイネスの所まで追い掛けるよきっと。アレみたらアイネス絶対に兄さんとの浮気疑って余計泣くだろうね。」

 

 それはやめてね絶対とニコリと笑うレオに腹が立つ。

 だけど、もしも見られて俺にアイネスが妬いてくれたら……それはそれで嬉しいかも知れない。


 「兄さん……どっちみちそれは嬉しいのは兄さんだけで、アイネスは苦しむとおもうけど?」

 「……。何にもいってないだろ。」 

 「言わなくても何となくわかったから辞めてね。」


 レオの目が冷ややかになる。


 だけど、アイネスのワードを出されるだけでこんなにも翻弄されてしまう自分が情けない。


 情けないけど、それほどアイネスを愛してる。


 仕方なくこの場にとどまることにした。


 









 ーーーー


 「来ちゃった……。」

 来たは良いけど、どうしよう。


 カイもレオも……シュンも居ない。


 どうしよう。


 手にしていたクッキーの包みを見る。

 玄関に置いていこうかしら?あ、でも気付かれないどころか不審物として処理されちゃうかな?


 誰か使用人さんでもいないかな?


 ひょっこり庭園の方を目指せば突如目の前から走ってきた人とぶつかる。


 「きゃっ!」

 「っ!」


 ぶつかったのはこの屋敷では見ない顔の人物だった。ピンクのレースがたっぷりついたワンピースをふわりとさせ、同じ栗色の髪の毛を優雅にたなびかせる彼女はとてもキレイな人だと思った。立ち上がればスタイルも抜群だ。


 「貴方!ぼさっとしていて失礼じゃない!どいて!」

 「あ、す、すいませんでした。」


 直ぐにこちらも立ち上がり非礼を詫びればフンと鼻で挨拶ははじかれる。


 「私は愛しいシュンの為に急いでいるのよ!」

 「え?」


 シュンと聞いて胸がざわめく。

 「失礼ですが、貴方はいったい……」


 胸のざわめきが止まらない。


 「なによ貴方本当に失礼な人ね。まぁ、いいわ。教えてあげる。私はシュンの婚約者よ!」

 

 シュンの……婚約者?

 

 「それより、貴方は何なのよ。どうしてここにいるの?手にしてるそれは何?」


 婚約者に指摘されとっさに嘘をついてしまう。

 「あ、あの私……レオ、レオ様にクッキーを作ってきて。お渡ししたくて。」


 嘘。

 本当はシュンに。


 「あ、そう。そんなの使用人に頼みなさいよ。私はシュンが私のクッキー食べたいってどうしてもお願いされたから作るのよ。シュンはクッキーが好きなの、それで私に……って話を聞きなさーい!」



 ……あ、そう。


 


 シュンの婚約者の話を最後まで聞かず私は背を向けて早歩きで歩き出した。


 そう。

 そういう事ね。


 私には他の男とと責めたくせに自分はあのボンキュッボンの美人さんと楽しんでたの。

 へー。

 そういう事ね。

 どうせ私は胸もないわよ!


 

 クッキーは自分で食べようかとも思ったけど、それはそれで惨めだったからバース家の使用人にもし来たらレオに渡すようにクッキーを頼んで私は自分の屋敷に戻った。

 レオがいなくても屋敷の人で食べてくださいということと、私の名前を出さないように付け加えて。



ここまでお読みくださりありがとうございます。


シュンの偽婚約者の名前はいつか書き足すかも知れません。

それまでピンクボンキュッボンで通そうと思って………


ブックマークありがとうございます!

評価やコメント頂けたらすごく喜びます!



7月15日 題名少し付け足しました。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ