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作戦の成果

 結局、部屋をとびだしてからは屋敷のありとあらゆる人に片っ端から声かけて回ったが、一人も答えてくれはしなかった。それどころか皆が皆声を揃えて

「え?ご結婚されるんですか?おめでとうございます。あと2年でりっぱな女性にならないとですね。」

などと答えてくれた。中にはあのお転婆お嬢様がついに……と喜び泣き出すものまで。婚約者のことを聞いても、結婚も決まったのに知らないなんて今更何の冗談ですか?と笑われて終わってしまった。



 これって、私………

 もしかして自分の結婚を周りに教えて回っただけなんじゃ………


 密かに眉を顰めつつ、軽く後悔し始めた。

 なんか、思ってた結末が違う。


 「こう、なんて言うか。本来ならもう婚約者の名前がわかって、結婚を破談にする手続きの準備をして………」



 んー?なんか違う。


 廊下でうんうん唸っていたら、私を呼ぶ声がした。

 振り向くとそこには、頭をかかえているロンを従えて、物凄い形相をしたお母様の様な鬼が立っていた。

 

 

 まさに鬼。鬼です。






 ーーーー鬼、もといお母様からは壮絶なお説教が待っていた。


 どうやら、婚約者のことを忘れちゃったけど結婚できる!と言う意味不明なことを屋敷中に言いふらし回り、結婚のため浮かれすぎてる可笑しなお嬢様という笑い話になっていたようだ。そしてその笑い話は瞬く間に屋敷の中に広まっていっていたらしい。

 その結果、お母様のお耳に私の奇行が届き事の真相をロンに確認し今に至るようだ。



 お母様のお説教の端々で、はしたない、みっともない、レディーとはほど遠いとの嘆きが連発されていた。


 ………すいませんでした。


 でも、私は本当に婚約者のことがわからないんです。と弱気に呟けば、嘆かわしいと泣き出す始末。


 それを天を仰ぎうつろの目をしたロンが宥めてみるも、お母様が完全に落ち着く事はなくまた同じ内容のお説教がはじまる。

 

 このくだりを2時間以上繰り返す頃には、お母様にも疲労感が漂い


 「とにかくはしたないまねをしないでね。」

とのお言葉を持って解放としてくれた。



 私も散々お説教をされ、疲労感がたまりすぎてお母様に婚約者の事を聞く元気も勇気も根こそぎなくなっていた。


 もう少し人に聞いて回るには何か上手い言い方を考えねば。そして慎重に聞く相手を定めて………



 いや、もしかしたらこの作戦は間違っているのかしら?


 どうしたらこの先上手く事を運べるのだろう。


 お説教にて疲れた頭を何とか動かして脳内一人作戦会議をしていたが、途中でただならぬ気配がした。

 ゆっくりと振り向けば、背後からどす黒い雰囲気を纏って恐ろしい顔をしたロンがいた。いや、あれは悪魔。悪魔だわ。

 そしてその悪魔が降り注いだ嫌みと暴言のオンパレードであえなく脳内作戦は強制終了となった。





 ーーーーお母様が怒ると鬼になり、ロンが怒ると悪魔になる。これは今後いかなる作戦を実行するときにも忘れてはいけないと私は心に刻んだ。



 ちなみにロンが悪魔になったのは、私の軽率な行為のため嘆きわめくお母様を少しでもお慰めしているのは骨が折れた。余計な仕事を増やすな、するならこちらに火の粉が飛んでこないようにしろとの事が主な理由らしい。



 ………すいません。ご迷惑おかけしました。


 だけど、そんな自分保守な理由ってやっぱり執事としてどうなのよ?

 本人に向かっては絶対言わないけどさ、言ったらきっとそのあとが怖いから言わないけどさ。


 そんなことを思いながら悪魔ロンの後を歩き部屋へ向かう。






 「時にお嬢様。婚約者様をお忘れになった挙げ句の果てに結婚なんて嫌だと拒否なさるのは、流石にお相手の方に失礼な事だとは思いませんか?お嬢様はお相手の立場になってお考えはしないのですか?」

 お相手の方とは何度かお会いしてまでいるのに。




 そ、それは…………





 部屋につくなりすごくもっともなロンの一言が放たれる。

 私は何も言い返せなかった。確かに本当にお会いしていたとしたら、忘れている私に非があるような気がする。

 それに、もしかしたらお相手の方は私で良いと思って頂けているのかもしれない。





 だけど、


 だけど、



 例え思い出したとしても私はその方には何も思っていない。むしろなぜ会ったときにお断りしなかったのか。

 


 だって私は……………


 「私は……。私が……例え相手に悪くても、恋をしてからじゃなきゃ……いや、だわ。」



 唯一絞り出して言い返せた言葉は、わがままな私の本音。






 ため息をつくロンとわずかに目があう。

 いつもの惹きつける様な黒い瞳がわずかに憂を含み、輝きの消えた黒になったようにみえた。





 ーーーーロン?




 いつもなら嫌みの一つや二つ降り注いでくるため覚悟していたが、そんな言葉もなく少し戸惑ってしまった。



 私の戸惑いに答えることなくただロンは、とにかくこれ以上の失態はお控えください、とだけ言うと軽い礼とともに退出していっただけだった。




 ーーーーこれは、流石に完全に呆れられたよね。



 普段なら腹が立つほど言ってくる小言も言いたくならないくらい呆れられたのかと思えば、少し胸がチクリと痛んだ。












 ーーーーその夜、私は夢を見た。


 


 幼い私はどこかの綺麗な庭園で、誰かに抱きしめられていた。


 そして、その誰かは今にも泣きだしそうな笑みで私に笑いかけてくれていた。



 泣かないで。私は大丈夫だから………。






ここまで読んでくださりありがとうございます。

まだまだ不定期更新で続きます。

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