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 逃げ出したはいいが、実家がパーティー会場のため行けども、いけども人がいる。

時刻はもう夜。月明かりが綺麗な夜。なのに、こんなにも切ない。


 人が居ないのところって、どこ?私の部屋?でもきっと誰かに呼びに来られてしまう。じゃあ、どこ?


 一人になりたくて必死に屋敷の人が居ないところを捜す。人が居ないところ……。


 そう言えば……


 足を速めてそこを目指せばやっぱりひっそりとしたそこには誰もいない。パーティー会場と真逆の園庭の隅。手入れはされているものの人目につきにくい本当にプライベートな空間として作られていたそこは簡素なベンチと小さな噴水があるだけ。あとは……木がある。

 その木は暖かい時季に柔らかくてみずみずしく甘い果実をつける。あんまりにも美味しくて自分で採れないかと色々試行錯誤しては見たものの結局自分では採ったことのない実。昔は小さかったので登ることは出来なかったが、今なら登れる気がする。

 そうだ、そこにパーティーが終わるまで隠れよう。

 


 紫のレースのドレスはフワリとしていて、木に登るのには当然全く適していなかった。むしろ邪魔で仕方ない。しかし、部屋に返れば誰かに見つかりかねないため仕方なくたくしあげて登る。

 登り方は分かってる。きちんと手入れされているためささくれたった枝もなく登りやすかったのもあってゆっくり登れば登れるものだ。ただ、汚れがつくのだけは仕方ない。それは後できっと何か言われるんだろうなと思ってしまった。


 小さい頃登れなかった木の上から見る景色はアイネスにとっては絶景だった。月に手が届きそうで別世界のようだ。今日が月明かりが綺麗な夜でよかった。

木から見下ろす噴水に映る月の美しいこと。


 ここは御伽噺の世界みたいだわ。

 

 御伽噺には王子様とお姫様がいるのよね。

 お姫様のピンチには必ず王子様が助けに来てくれる。昔それがうらやましくて。私もいつかそんな王子様が来てくれると思ったのに……

 

 「…………所詮御伽噺は御伽噺。」


 溜息を夜空へ放ち木に寄りかかかる。背中が開いているドレスのため肌に直接木が当たると若干痛い。こんな背伸びしても仕方ないのに。再び溜息がこぼれる。




 ーーーーそう言えば昔も背伸びしたことがあった気がする。私がまだ子供だから、幼いから……何かができなかったのよね。


 それが急に気になってしまい目を閉じて考える。


 ーーーー


 「アイネス!ダメだ!危ない!」

 「大丈夫!私だってもうすぐ10才だもん!待ってて今とってくるから!おいしいんだよ!」

 「ダメだ、まだ子供だから。俺がとってくるから。」

 「ダメよ!私がとらなきゃ意味ない!私はもう子供じゃないの!子供扱いしないでよ!」



 ーーーーそうだ、確か9歳の頃私、誰かにこの実を食べさせたくて無理矢理登って…。どうなったんだっけ?その先が思い出せない。

 でも、私、あの時自分を凄く子供扱いされるのが嫌で……。

 ……うーん。あと少しでなんかスッキリするのに。何か、何か凄ーく引っかかる。





 「アイネス!!!なぜそんなところに!!?」

 「え?へっ!?きゃああぁぁっ!」




 急に木の下から名前を呼ばれ、見つかった事にびっくりしてバランスを崩し……………


 ばしゃーーーーーーーん!







 木のそばの噴水へダイブする羽目になってしまった………。

 いや、正確に言えば下から声をかけてきた人が落ちてきたアイネスを支えきれずよろけて噴水の縁につまずいて、ばしゃーーーーーーーんと落ちた…………二人で。





 「「………。」」


 「アイネス……。お嬢様…………。やっぱり重たい。」

 「…………。あの、普通はそこ、大丈夫ですか?じゃないの?というか、男のくせに軟弱よ。」

 


 ドレスもかみもビシャビシャで恨めしく下敷きになってくれた相手を見ると、同じくビシャビシャになってる珍しくオフホワイトのタキシードをきているロンが見つめ返してきた。小言付きで。


 「全く、なんで木になんて登ってんですか?もう20ですよ?成人して2年も経ってますよ?また落ちたじゃないですか。いい加減凝りてください。」


 ーーーーん?

 ーーーーんん?

 ーーーーんんん? 



 アイネスの頭の中で何かがつながった。



 「そうよ!そうだわ!私落ちて、確か確か頭打ったんじゃ無かったかしら?あれ?でも、それでカイさんが助けてくれたんじゃ無かったかしら?んー?なんか違う。カイさんの髪色はコバルトブルーだし、あの時のカイさんは紫みたいな黒い髪で……………黒い髪………?」


 ふっとロンを見れば何とも言えない表情で、どちらかと言うと凄く切なそうな、泣き出しそうなかおで……それは今まで見たことない顔なのに、見たことがある顔で……。


 ずっと前から知ってる顔で……。

 それは大好きだった人で……………。


 「………ロ、ン?あなた……私と以前会ったことある……わよね?」


 ロンは驚いたような表情をしたあと目を伏せた。その儚げな表情がカイを彷彿させ、カイの言葉が蘇る。

 ーーーーよくシュンと私が似てるって言われるんだけど。

 


 ーーーー確かに似てるわ。

 疑問は確定に変わる。


 「ロン、あなたシュンさんだったのね。」

  



 ここまでお読みくださりありがとうございます。

不定期更新予定で続きます。

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