聖女に会う
「ふぁ~あ」
社畜の...ってデジャヴか。
でも今朝はいつもよりすっきりしている。昨日小学生みたいにわんわん泣いたからかなぁ。というか年齢でいうと小学生か。ほら、女は彼氏と別れる時には泣いてても、翌日には何事もなかったように男友達と楽しそうに喋ってる、とかって言うじゃない?私は別れた事がないからわかんないけど(ちょっとかっこいい言い方!)。なんか泣くとデトックスというか憑き物が落ちたようになるのよね~。
しかし実際、本当に私には魔力がなかったのかしら。水晶がちゃんとしてたら何か変化があったのかな?まぁ、くよくよ悩んでても仕方ないし、この世界には知らない事がいっぱいあるんだから、学校の勉強や貴族の作法を学ぶのも楽しいわ。そっち方面で頑張りましょう。おっしゃ!
いつものように朝食で家族が集まったが、なんだかみんな大人しい。気を使っていつも通り振舞ってくれててもやっぱりどこか落ち込んでいるようだ。そうだよね、公爵なんて身分の高い家から、前代未聞の魔力なしが出ちゃったんだから。ここは勉強で頑張るってことを皆に伝えておこう。
「あのね、私...」
「サリー!」
私が喋り始めたと同時に、お父様も意を決したようにこちらに向かって喋り始めた。
「これからのことなんだが、俺は改めて発露の儀をやろうと思っている。」
「えっ!?」
やろうったって祭壇は壊れているし、結果も昨日と同じになるかもしれないのに?驚いてワル兄様やフランお母様を見ると、二人ともうんうんと頷いている。昨日私が泣き疲れて部屋で眠っている間に、家族会議があった事が窺えた。
「ですが...。」
「このことはフィラーにも話してある。そしてセシリアへその役目を務めてもらうようにお願いをした。セシリアは他人と精神感応するのに高い適正値を持っていてな、彼女であればサリーの潜在する魔法力をうまく引き出してくれるんじゃないかと思ったんだよ。さっき知らせが届いて、快く承諾してくれたばかりか今日家に来てくれると返事をくれたんだ。」
ええー!!急展開だしほぼ決定事項だし。来てもらって帰って下さいなんて言えないじゃない。気持ちはありがたいんだけど、魔法なしで生きてきた人間からすれば別になくても困らないんだけどなぁ。でも聖女様に会えるのは興味があるかも...。
「わ、わかりました。お父様、ありがとうございます。」
ぺこりと頭を下げて顔を上げると、皆がパァッと笑顔になり、また明るい朝食が始まった。
「こんにちはサリーちゃん、はじめまして。」
「はじめまして、セシリア様。今日はよろしくお願いします。」
フィラ坂君と一緒に来た聖女、セシリア様は金髪ウェーブの...ではなく黒髪ストレートの、おかめのような人だった。世界観違くない!?何で?何でこの人だけ和テイストなのよ!と一人で混乱していると、
「サリーちゃん、セシリア様だなんて他人行儀な言い方はやめて...そうねぇ、セシルって呼んで。」
叔母から訂正が入った。セシルよりは妹子なんだよなぁ、と失礼なことを思いつつ「はい、セシル...さん!」と返事をする。
「ごめんねサリー、僕が不甲斐ないばかりに。でも安心して、お母様の力は本物だから、きっとサリーの力を引き出してくれるよ!」
「そんなっ、フィラさッ...フィラーは何も悪くないわ!私こそごめんなさい、セシルさんだってお忙しいはずなのに...。」
咄嗟に彼の言葉を否定しようとしたら、ついフィラ坂君って言ってしまいそうになった。危ない危ない。
「いいのよ、サリーちゃん。どうせ近いうちに会おうと思ってたんだから。というより、フィラーばっかり会えてずるいなぁって何とか口実をつけようと動いてた所に、アルベルト様からお話がきて渡りに船だったのよ。」
「そ、そうなのですか。」
「それに今回のようなことは、私が聖女として国から依頼される仕事と似たようなものだから、アルベルト様が先客の貴族様を説得されて、サリーちゃんに会わせてくれただけのことなのよ。」
それって公爵家の権力を遺憾なく発揮しちゃっているのでは?とお父様のすごさを痛感した。というか恫喝とかしていないよね?ちょっと不安なんだけど...。
「じゃあ早速ベッドに横になって~。」
「え?室内で?というかベッドでやるんですか?」
「そうよ~、私がやるのはボディケアというか瞑想法に近い手段なの。」
へ~、そんなんで大丈夫なのかと思いつつ、私達二人は寝室に移動し、促されるまま布団に仰向けになって目を瞑る。セシルさんはベッドの隣で椅子に座っているようだ。
「今から私が結界を張りつつ、サリーちゃんに魔力を送り込むからね、リラックスしてて。」
そういいながらもセシルさんは鼻歌を歌ったり、他愛もない雑談を投げ掛けてくれたりするなど、特に何かをしている気配はない。でもなんだか私の周りはポカポカ温かくなってきて、ついうとうととして寝入ってしまった。
『サリーちゃん起きて』
どれくらい時間が経ったのかわからないが、セシルさんの声がはっきりと聞こえ(寝ていたのになぜか明瞭に)、私は目を覚ます。
「はへ!?煙が充満している?」
起きてみると、辺りにもやがかかりセシルさんも薄ぼんやりとしか見えない。私が寝ていた間に火事が起きたのだろうか、慌ててとびあがろうとするとまたセシルさんの声が直接脳に届くように聞こえた。
『安心して、今サリーちゃんには結界が張ってあるから、そのもやもサリーちゃんの周りに立ち込めてるだけなの。そして、それがサリーちゃんの魔力。たしかに色としては薄いから微弱だけど、白色で光属性の適正があるわね。とりあえずさっきの体勢に戻って、周りのもやを体内に取り込むように念じてみましょう。そうすれば自分で魔力をコントロールできるようになるわ』
これが、私の魔力...?良かった、あったのね。でも取り込むってどうするのよ!どうやって出たかもわからないのに。ええと、とりあえず吸引といえば...吸引力のかわらないただひとつの私、だわ。一人暮らし時代の掃除を思い出し、自身がその機械になったつもりで念じてみる。
...。
...。...。
...。...。...。
目を開けるとクリアな小野小町もといセシルさんが微笑んでいた。