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発露の儀:前日

「ふぁ~あ。」


 社畜の朝は早い。

 っと、もう会社員ではなかった。けれども習慣づいた癖ってなかなか抜けないのよね~。眠っていてもいいのだけれど、じっとしてるのもつらいからこうして外を散歩している。

 それに、緑の多いこの家でシン...とした朝の庭を散歩するのはとても気持ちがいいのだ。

 あれから1週間。こちらの生活にも少し慣れてきて、あちらの世界での事も整理がついて(本当はなにも整理なんてついてないけど、考えても仕方がないから考えない事にした。私流の精神衛生を良くするメソッド!)、明日いよいよ「発露の儀」とやらを迎える。


(ふふ、魔法よ魔法。体が疼かずにはいられないじゃない。)


 おっしゃ!って嫌だわ。

 こっちの世界に来て鳴りを潜めていた口癖が再発してしまった。気を付けなければ。

 フィラ坂君からの説明によると、「発露の儀」は10歳を迎えた子供が聖水の中に体の半分以上を入水させ、聖職者らの力を借りて己の体内に秘められた魔法力<魔力>を発現させる儀式なのだ。この世界では誰しもが魔力を持っており、発現の仕方はより強い魔力に左右される。たとえば、火の属性が強いものなら水が赤に染まり、水の属性が強ければ水面が青くなる。もちろん複数の属性が同時に出る場合もあるので、虹色や金色にもなるらしい。ちなみにフィラ坂君は全属性を持ち合わせ、その中でもやや光属性が強かった為金色だったようだ。チートめ。


(ここかしら?)


 平民であれば大量の聖水を用意できないので、コップに入れた水で手をかざすだけでもいいようだが(なんだか既視感があるわね)、よほど強い魔力でなければきれいに発色せず、詳しくはわからない。しかし、私の家は貴族。さらに言えば公爵家であるようなので、それ専用の祭壇?が屋外にあるらしかった。いや、寒いんだから浴室にしてくれよ、と思ったのは言うまでもない。


(良かった~。小学校のプールみたく苔まみれで汚いなんて事はなかったわ)


 さすが我が家の使用人達は、十年以上も使われていない祭壇でも掃除を怠っていないようだった。

 祭壇と言っても、クレーターのようにへこんだ地面に大理石のようなつるつるした石が敷き詰められ、六芒星の位置にきれいな水晶がはめ込まれているだけだ。まぁ、もしかしたら噴水として使っている時期もあるのかもしれない。


(きれいなら特に問題もないから、そろそろ戻りますか)


 祭壇の中央でフィギュアスケーターごっこをしていた私は、演目も終わり金メダルを取れたと確信した所で部屋に帰ろうとしたのだが...。


「きゃあっ!!?」


 キスアンドクライに向かうまでのファンサービスとして、トリプルアクセル(実際には1回転)を跳んだ私は、着地で足をもつれさせてしまい転んでしまった。


(このままだと顔面から!?受身を取らなければっ)


「っシッ!!」≪ドガッ≫


 柔道仕込みの素早い受身で難なく顔面流血は避けられたが...。かなりやばい事になってしまった。

 水晶が割れて砕けてしまっている。というか私の手の方が普通なら複雑骨折していそうなものなのに、なんで逆に水晶の方が割れてしまったのだろう?いやそんなことどうでもいいか。まずこれをなんとかしなければ。

 恥ずかしさもあって反射的に周囲をキョロキョロと見渡したが、特に人影はない。水晶をくまなく調べてみると地面に面していた方(外に露出していなかった方)は無事な気配があったので、ありったけの力で水晶を引っこ抜き、表側と裏側を反対にして、散らばった欠片もろとも埋めなおした。

 他の水晶と比べれば若干の違和感があるが、当日は聖水で満たされて見えにくくなるはずなので、なんとかごまかせるだろう。

 時間が経てば経つほどやっていた事の恥ずかしさがこみ上げて来て、いたたまれなくなった私はそそくさとその場を後にした。


 見ていたモノがいたとは露知らず。



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