この世界の家族
「それではお休みなさいませ、サリー様。」
「うん、おやすみなさい、エリつん。」
......。
はぁ~、疲れた。
≪ポフンッ≫
ふかふかのベッドについ身を投げ出してしまった。だって柔らかいんだもん。ほわほわのふにふにのもふもふのデュフフッ...ってはっ、いけない!?いくら体が10歳のお子様になってしまったからといって、本当に幼児退行してしまっては危ない人だわ。
そう、私は10歳の少女になっていたのだった。少女A~、って違うか。
フィラ坂君から発露の儀のことを聞いた後に、私は私のお兄様とお母様という人達に会った。
『いいピクニック日和だな、サリー。サンドイッチも美味しいし、サリーもかわいいし、お兄ちゃんは幸せだぞ~。』
『うふふ、そこらへんにしておきなさい、スチュワルト。今日はフィラーも来ているのだから、私達家族ばっかり仲良くしていたら彼が寂しくなってしまうわ。サリーがかわいいのは本当だけど。』
『僕のことはお気になさらず。』
『そうだぞ、フラン。フィラーも家族みたいなものだ、気にすることはない。それに、サリーがかわいいのは客観的事実だからしょうがないだろう。』
≪アハハハッ・ウフフフッ・ガハハハッ≫
みんなヤバイくらいに私を溺愛しているのは一緒だった。
ここでさらに驚愕したのが、イケメン父は公爵で、国王の次に偉いような立場の人らしい。40歳にいくかいかないかの若さだし、娘への発言がヤバイし、この国大丈夫かよ。しかもフィラ坂君の父親、つまりアルベルト弟は、国の重要人物とされる聖女に婿入りし、侯爵なのだとか。爵位のバーゲンセールとはこの事か。ていうか貴族って暇だよな、真昼間から家族揃って家の庭で(もはや自然公園くらい広いが)ピクニックだなんて。今回はフィラ坂君と私の顔合わせの意味合いが強かったんだろうけど。
ただ、物心つくころには「お父さん」しかいなかった私には、初めてのお兄ちゃんも、抱きしめてくれるお母さんも嬉しかった。そして、ずっと気になっていたエリザベスさんことエリつんは、いわゆるメイドさんだった。詰襟のシャツを着てはいたものの、メイド服ではなかった為よくわからなかったが、それはエリつんだけで、ほかのわかりやすいメイドさんはこの家にはわんさかいた。どうやらエリつんはメイド長的立場の人らしい。言動は危ないけど。
そして、「エリつん」と、ついピクニックの最中に呼んでしまったが(フィラ坂君同様心の中でそう呼んでいたのがつい出てしまった)、特に怪しまれる事なく「はい」と返事をされた。ここでわかったのだが、私はどうやらここの世界でも生きていたらしい。
あの夜私は死んでしまい、別の世界の少女に生まれ変わったのかと単純に思ったが、どうやら移ったのは脳みそというか主人格で、私も私と同じような性格で生きていたようだ。つまり私そのもののAIが私として自動運転していたようなもので(日本的価値観とこの世界での価値観の齟齬はあるようだが)、...ブルッ、恐ろしい。というか同じ私なのにこの顔面偏差値の違いはなんなのだろうか、神よ!不公平だぞ。と、いるとも知れない神に物申したくなった。
でも、そうなるとあっちでの私ってどうなったんだろう?それに赤坂君はどうしてるのかな...(私を刺した危険人物がいたのだから、無事でいてくれればいいけど)。
私が死んでいたとして、赤坂君は悲しんでくれたかな?そういえば最後に聞こえた声は赤坂君だったような気がしたけど、なんて言ってたのか思い出せないや。
布団に入って目を瞑ってはいたものの、なんだか眠れない夜となった。