Over U Oneilos
シャルムは依然少年の手を握ったままだ。少年は怪我なんてしていないけど、それでも彼女は心配そうに彼の体を見ている。消費したのは体力と魔力のみ。別に何処にも異常は感じられない。元より多くも無い魔力だが、やはりキャパシティを超えそうになると辛い物がある。
「ホントに大丈夫?少し足がふらついているけど」
「魔力の消費が大きかっただけだ。何も問題無いし、明日には回復している」
そう少年が答えると、彼女はそれでも心配そうな顔をする。
「帰るか。ここで「奴」と遭遇するとは思わなかったし、魔力の大部分を失ってしまった」
無駄な事ではない、魔力の殆どを消費しなければ少年は「奴」には勝てなかっただろうし、それくらい
で済んで良かったと思うべきだ。
「……………解った。でも今日は君と居る」
「やめろ。お前も帰れ。泊まる気か?」
「ダメなの?」
「当たり前だ」
高貴な彼女をこんな平民の家に泊めるなんて許されるはずがない。身分が違うという問題以前に、付き合っても居ない女の子を男の家に泊めるなんて馬鹿なんじゃないのか?うらやまけしからん。
「身分とかは関係ないと思うけどなぁ」
やはり彼女は気付いていない。不安だから彼の家に泊まりたい。勿論シャルム自身が少年の事を心配しているという事もあるだろう。けど、別の意思もある。彼女自身は気付いていないけど、シャルムという少女は彼の事を思っている。いつからかなんて根拠はないけれど、それは紛れもない事実に変わりはない。彼女もまた青いようだ。それも女の子らしいパステルのブルーだ。
「そういう問題でもねぇよ。お前なぁ。さっきも言ったが、俺達はただの親友だ。そんな奴たちが一日宿を共にするとか、何考えてるんだよ。それにお前の父親が許さないだろ?」
「お父様はお願いしたら許してくれそうだけど?今回の事もお願いしたら許してくれたし」
「それはまた別だ。出掛けるのは許しても宿を共にするのはレベルが違う。お前は高貴な貴族だ。そんな人が、平民である俺の家に泊まるなど言語道断」
「だぁかぁらぁ。身分なんて関係ないんだって」
シャルムは彼に声を荒げる様に反抗する。その姿は物を強請る子供の様で愛らしいのだが、求めている物を肯定する事は出来ない。
「じゃあこうしよう、お前の親から許可が出たら泊まって良い」
「ホント!?じゃあ今連絡してみるねっ!」
シャルムが嬉しそうにすぐに連絡術式を立ち上げた。意図も簡単にやってくれる物だ。少年もようやく最近習得した。そうは言っても、通信相手を指名する事は難易度が高い。結構技術を要するのだが、それを彼女は意図も簡単にやってみせる。正直、武器なんて無くてもその魔力と技術で身は守れるのではなかろうか。平民とっては大禁呪である、魔力の増殖。それを行ったはずのシャルムは、魔力のキャパシティはけた違いだ。
「ん、解った。オッケーなんだね」
(どうして……)
少年はそんな事を頭に思い浮かべた。