We was yet Living
救いたいと願うのはきっとその悉くが正義であるはずだ。だってそうじゃなきゃ誰も救えないし救われない。何も犠牲にせずに救う事は無理でも自分を犠牲にすれば或いは。
「ん~っ!」
シャルムが伸びをする。街中。一つの寂れた商店街は、ほんの少しだけ黴臭い様な匂いが充満している。その中に例のシュークリーム専門店があるのだから意外どころじゃない。そもそも少年がわざわざ買いに行くのは高貴なシャルムにそんな空気を吸わせない為でもあった。これでも彼女を預かる身だ。シャルムの健康は第一に考えているつもりである。そもそも、彼の家に来るたびにおやつをたらふく食べている時点で健康もあったもんじゃないが。ていうかちゃんと晩御飯食べれてるのか?そこが心配だ。少年にとっては命よりも大事だから彼女の事を心配するのは当たり前なのだが、これは流石に心配し過ぎな気もする。でも彼女の裏で動いている金の量を鑑みるとそれも仕方ないのかもしれない。
「シュークリームは良く君が買ってくれるから食べてるけど、こうしてここに来るのは初めてだなぁ。結構種類あるんだね」
ショーケースの中に在る様々な種類のシュークリームを彼女が覗き見る。彼女が目を付けたのは、少年が何時も買ってくるカスタードクリームの物ではなく、代わりにチョコがたっぷりと入っている物だ。見た目も子供だが舌も子供か。まぁそうだろう。本当に彼女は幼いのだから。そうはいっても既に十六。成人を迎えているのだ。
「これ、食べたいっ!」
と彼女はあろうことか、少年に強請った。金はシャルムの方が持っているのにも関わずだ。
「自分で買えよ。持ってるだろ?」
「えぇ~。こういうのは男の人が奢る物なんだよ?」
「……………あのなぁ、俺達は恋人でもなんでもない。寧ろまだ友達ですらないんだぞ?しかも身分が全
然違う。そんな奴に奢れとか普通言うか?」
「友達じゃないの?」
「そうだよ」
そういうと、彼女が泣きそうな顔で少年を見つめた。
「解った…………自分で………買う………」
「………………」
負けた、彼はそう思い、こう言葉にする。
「友達じゃない。親友だ」
なんて臭い台詞だろうか。聞いていて恥ずかしくなる。よもやそんな言葉を実際に口にする人が居ようとは。いやはや、やはり世の中とは深く広い。
「ホント……?」
「あ、当たり前だろ?俺達は親友。マブダチ。オーケー?」
「オーケーっ!」
彼女の顔が暗いそれから明るいそれに変わる。ちょろい。そんな事を少年は思ったが、一切口にはしない。またしょげられても困る。
「よぉし、じゃあ買ってやるよ」
少年はそういうと財布を取り出した。今月、どう生活しようか迷いながら。
やろうと思えば自身の形成魔術で金を作り出す事も可能だ、けどそんな贋作使っても何の意味も無い。そうまでして金を欲しようとは思わない。彼の心は貴族の様な無駄なプライドは持ち合わせていない。貴族の様なというと少し語弊があるかもしれない。凡そシャルムにはそんなプライドは無いだろう。まだ幼い事もあるが、きっと性格的な物だ。シャルム程純情な貴族は居ないと断言出来る。性行為という存在さえ知らないかもしれない。
(………………いやいや、考えてないよ?そんな、シャルムで妄想なんてしてないよ?ホントだよ?いや、マジマジ。大マジだって。だってシャルムだぜ?)
彼はそんな事を自分に言い聞かせるように頭に巡らせた。やはり青い。
「んで?今度は何処に連れて行ってくれるの?」
シュークリームの入った紙袋を抱えながら小さいシャルムは彼に訊く。というか紙袋大きくない?なんとかシャルムの顔が見えるくらいだぞ。いや、シャルムが小さいのか。
「この街に面白い物なんてないぞ」
「そうかなぁ。ボクはそうは思わないけど」
「お前がそうでも俺達平民にとっては日常化してるからな。面白い所と言ってもそんなポンポン思いつかねぇよ」
「ボクにとっては全てが新鮮だけどね」
「そりゃお前、何時も馬で移動してるから見える景色が違うだけだろう?」
護衛も着いているしそれも仕方ないが、まるで世間知らずだ。マリーアントワネットを想起させるな。
「じゃあ適当にぶらつこう。まずは商店街を出て……そうだっ。君が良く行く場所に連れて行ってよ」
シャルムはそんな事を言うが、少年は大体家で修練に励んでいる。家を出るのはこういう時か、食料調達の為くらい。だから頭に浮かんだのは、商店街から出て右に行った所にある一つの湖畔だ。かなり昔、親に良く連れられた。そんな思い出の場所だ。
「じゃあ着いてこい。くれぐれもはぐれるなよ。じゃなきゃ、俺の命が危ない」
デートに近い行動なのに、少年の命が賭かっている。なんと恐ろしいデートか。まだ互いに意識し合っている事なんて二人は気付いていないけれど。