Zu haben
まただ、また、あの夢だ。夢か。あぁいいや、これは現実なのだろうか。平原だ。今日の平原よりも丘が少なく、地平線のその向こうには、山が見えた。そして、やはり、そこに黒い物は居た。いや、あったという表現の方がもしくは正しいのかもしれない。それが生きているのか、死んでいるのか。そもそも生命があったのかさえも不明だ。凡そ龍の形をしている為、あるように見えるだけ。
「…………また、ここ?」
彼女は現状を理解すると、夢から覚める方法を出来る限り考える。龍が彼女に気付き、ゆっくりとその翼をはためかせる。それにより生じた空気の動きが、草を揺らす。恐怖の権化だともいえるその風貌に、彼女が怖がる事は無い。精神が強いのか、それとも打破する策略でも思い付いたか。何にせよ、彼女は目を瞑った。魔力の流れを感じる。待て、夢で魔力を感じる事があるのか?いや、考えるな。今は覚める事だけに集中しろ。じゃなきゃ、未来は、奴の胃袋の中で過ごす事になる。そんなのは絶対に死んでも嫌だろう。
「覚めて……」
祈る様に彼女は言う。まるで銀の弾丸に祈りを込めるように願う。龍は、彼女の目の前に降り立った。その口からは多くの唾液が零れ落ちる。悪夢。いいや、「夢害」だ。彼女の祈りは通じない。彼女は龍の口へと、堕ちた。
ゆっくりと目を醒ました。既に朝日は出ている。色を失った外界は神を象る太陽の光により、色を取り戻す。まるで逆再生の如く、命を吹き返すその景色の眩しさに彼女は目をひそめた。龍は居ない。当たり前だ。あれは夢なのだから。
「ん~っ!」
と伸びをする。結局昨日は買い物の後も遊んだ。彼は少しうんざりしていたけど、それでも楽しんでいた素振りがあった。だったら彼女はそれで満足だ。最近少年はずっと戦ってばかりだ。今回も出てくるのではという懸念はあったのだが、運が良かった。幸いにも彼女は自分が寄せ付けやすい体質だとは気づいていない。彼にとってそれは僥倖である他無い。何故ならば、それを知った彼女は、きっとこう思う。「自分が彼を不幸にしている」と。だけどそれは違う。彼女が居るから、彼は戦って居られる。根本的に物事の捉え方が違っている。だからこそ二人はこうやって惹かれ合ったのだろう。なんてロマンチックだ。笑えてくる。
「そろそろ起きて?」
とシャルムは彼の頬をつんつんと突く。だが、それで起きる彼ではない。その事は彼女も重々承知している。ただ、やってみたかっただけ。それ以上の理由は何処にも無い。
「朝だよ?お~い」
今度は体を揺さぶってみる。ぐぅぐぅと寝息を立てて寝ている彼はそれでも起きない。こうなれば意地だ。彼女は、彼にまたがる。手を床に着き、顔を近づける。何をして起こそうかと、ここで考える。なんでまたいだかってそれは、まぁ、なんとなくなのだろう。彼女は無鉄砲な所があるから、こういうのも許容しなければならない。
「ふむぅ……」
と唸りながら彼女は思考を働かす。
「じゃあ、そうだなぁ。起きないとキスしちゃうよ」
いやいや。それは寧ろ起きないだろ。世の男はそういう物だ。それより、彼にばかり時間を取ってはルティアの世話が追い付かない。
彼を起こす方法か。口と鼻を塞げば起きるのではないだろうか。その実、キスで口を塞いだとしても彼は鼻で息をしている為、おそらく起きない。
「…………ダメかぁ」
と彼女が溜息を吐く様に呟く。次にとった行動は、彼に思いっきり抱き着くという作戦だ。それならば流石の彼も起きるのではないだろうか。ていうか起きろ。
「えいっ」
と彼は、その体重を彼に置いた。
「ぐふぇっ」
と小さい悲鳴を上げた彼を苦しそうに目を開けた。
「あぁ、シャルムか。おはよう」
「ん。おはよ~」
と彼女は笑顔で彼を目覚めかた出迎える。
「これはどういう状況だ?」
「ん?君を起こそうと思って」
「そうか……」
と彼は周りの明るさを確認する。彼からすれば、朝にこうやって抱き着いてくるのはやめて頂きたいのだ。何故ってそりゃあ男には毎朝起きた時に怒る生理現象があってだな?
「どうしたの?顔を覆って」
「いや、なんでもない。取り合えずどいてくれるか?」
「え~」
「じゃないと起きれないだろ」
「もう少しこのままでもいいじゃん。それとも君は嫌なの?」
「そういう訳じゃない。でもな?男には色々と……」
「あぁ、えっと、もしかしてこれの事?」
彼女はそういうと彼を強く抱きしめた。
「我慢しなくていいよ?」
「そういう問題じゃねぇだろ。兎に角どいてくれ。それにルティアはどうした」
「まだ寝てるよ?」
ベビーベッドからはすやすやと寝息が聞こえてくる。ここまでされたら男はどうなると思う?勿論我慢が出来なくなる。
「どうなっても知らないぞ」
「ん、いいよ」




