最後の夜続き
ママの出してくれたシャンパーニュはとっくになくなり、あたし達はオススメの白ワインを飲んでいた。ほのかな甘味を感じるそのワインは、ママがお肉料理にも合うと言って出してくれたものだ。
お肉には赤と思っていたあたしは、目から鱗だった。
そのワインも空いた頃、鈴木さんは脇に置いたカバンから包みを取り出した。
その包みをを開けながら、鈴木さんはママに言った。
「実は、ロックグラスを買ってきました。お店に対して失礼かとは思いましたが、このグラスでどうしても飲みたいお酒があるんです」
包みから出てきたのは、三つの小振りのロックグラスだった。
「チェコのカットグラスです。今夜のために探しました。マスター、お願いできないでしょうか?」
「何を言ってるんですか鈴木さん。断る訳がないじゃないですか」
「ありがとうございます。これは、お二人に僕からの感謝の印です。使っていただけると嬉しいです」
あたしはジーンときた。
ママももちろんだと思う。
「鈴木さん。ありがとうございます。大事に使わせていただきます。高橋さんもそうですよね?」
「はい。わたしもマスターのお店で使わせていただきます。これで飲む度に鈴木さんを思い出しますね」
「高橋さん。今生の別れじゃないって、さっき言ってたじゃないですか」
笑いながら、鈴木さんに突っ込まれて、あたしは顔が熱くなった。
「そ、そうですよね。自分で言っておきながら、わたしったら」
「そうですよ高橋さん。鈴木さんとはいつでも会えますから」
あたしに対してのそのセリフには、ママの想いが詰まってるように感じた。
「ところで鈴木さん。飲みたいお酒というのは?」
鈴木さんは、あたし達の顔を交互にゆっくりと見て言った。
「シャルトリューズを飲みたいんです」
あたしは、聞いたことのない名前に、思わずママの顔を見た。
「シャルトリューズですか。ジョーヌとヴェーヌはどちらがよろしいですか?」
「ジョーヌでお願いします」
ママは静かに頷いた。