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恋愛戦闘姫(可憐な乙女な訳がない)  作者: 九丸(ひさまる)
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最後の夜続き

 あたしと鈴木さんがテーブルに着くと、ママはグラスとシャンパーニュを持ってやって来た。

ママは、静かにコルクを抜きながら、


「門出には、やはりシャンパーニュが良いでしょう。これは私の一番好きな銘柄です。手向けに同じものを用意してますので、帰りにお渡ししますね。ぜひもらってください」


 そう言って、グラスに良く冷えた、淡い麦わら色の液体を注いでいく。


「では、鈴木さんから何か一言お願いします」


 ママに促されて、鈴木さんはちょっと考え込んでから、ゆっくり話し出した。


「今夜は僕のわがままに付き合ってくれて、本当にありがとうございます。短い間でしたが、お二人に出会えて、とても良かったです。僕の忘れられない、思い出になりました」


 鈴木さんはちょっと言葉に詰まった。

あたしはみかねて、


「もう、鈴木さん、そんな今生の別れみたいな言い方しないでくださいよ。ちょっと距離が離れるだけで、会えなくなる訳じゃあるまいし」


と言うとママも、


「そうですよ、鈴木さん。これはお別れではありません。門出なのですから。さあ、乾杯しましょう」


とグラスを掲げた。


「鈴木さんの前途と、私達の変わらぬ友情に乾杯!」


 あたし達はグラスをそっと合わせた。

冷えたシャンパーニュが、湿っぽくなりがちな気持ちを洗い流してくれるようで、喉に心地良い。


「さあ、食べましょう。男の手料理で申し訳ありませんが、腕によりをかけて作りました。さあ、さあ」


 あーあ。本当は男なんて自分で言いたくないだろうに。

無理しちゃって。


 はっ!? いけない。ママに共感してる場合じゃない。

あたしも頑張らないと。


「鈴木さん。これはわたしからです」


 そう言って、あたしは今夜のために用意したプレゼントを鈴木さんに渡した。


「え、僕に? いいんですか? いただいても」


「はい。良かったら、開けてみてください」


 鈴木さんはあたしの言葉で、包みを丁寧に開け始めた。

そう。そういう繊細な優しさもいいわ。


「ボールペンですか。しかも、こんなに良いものを」


「鈴木さんに、ぜひ使ってもらいたくて」


 あたしが選んだのは、名の通ったブランドのそこそこ値の張るものだ。安っぽいのはダメ。かといって、高すぎてもいけない。絶妙な選択が大事なのよ。良い筆記具は大人の男のアイテムに丁度良い。

何でボールペンにしたかって?

それは、常に使うものだし、使う度にあたしを思い出して欲しいからよ。まあ、意識付けね。


「ありがとうございます。大事に使いますね」


「そう言ってくれると、わたしも選んだ甲斐があります」


「さあ、早く私の料理も食べてください。味には自信がありますから」


 それはそうだ。

せっかくのママの手料理だもんね。

ちょっと、渡すタイミング間違ったかな。

あれ? 何か、今夜のあたしはママに優しいようだ。

まあ、そんな時もあるよね。


「すみません、マスター。それにしても、凄い料理ですね。どれも美味しそうです」


「美味しそうじゃなくて、美味しいですから」


 ママは、鈴木さんとあたしに料理を取り分けてくれた。

白い皿に丁寧に盛りつけられたサラダが、あたし達の前に置かれた。


「ロメインレタスのシーザーサラダです。どうぞ、召し上がってください」


 あたしと鈴木さんは、ママに促されて、フォークで口に運ぶ。


「美味しいです! ドレッシングもマスターの手作りですよね」


「さすが鈴木さん。気がついていただけましたか。基本オリジナルレシピに忠実なのですが、ビネガーをボディがあって、風味の優しいものを使いました」


「そうなんですね。繊細な中にもしっかり芯があるように感じるのは、そのせいですね」


 これには、あたしも諸手を上げて賛成。

本当に美味しい。

ママ、あんた芸が細かいよ。

神様の不条理がなかったら、間違いなく良い女だったろうね。


 それからもママは、甲斐甲斐しく料理を取り分けてくれた。

どれも美味しくて、バーじゃなくても、この道でもやってけんじゃないのと、あたしは舌を巻いた。


 美味しい料理も手伝ってか、会話も弾んで、楽しい時間が過ぎていく。

あたしは、鈴木さんにアピールすることも忘れて、この楽しい時間が、ずっと続けばいいのにと心の中で思ってた。

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